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陽炎が朽ちる
手の隙間から風が抜けていく
潮風とともに 青空の彼方へ
進んできた波は既になく
ただどこまでも続く陽炎が
目の前に広がっている
汽笛の音が聞こえる 水平線の彼方から
さざ波と共に耳に染み渡る
側にあった明かりを抱いて私は
そっと耳を傾けた
進まずとも止まることなく
航路にはいつも波が押し寄せる
遠くに浮かぶ蜃気楼 近づけば消えるから
陽炎が示す先へ ただ向かっていった
どこまでも広がる空色の世界
昇る陽炎は蒼穹に溶けて
側を通り過ぎていく記憶たち
もう私はここにいるのだと
私は翳した手を下ろして去った




