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Their story.
彼らの話をしよう
ジョン・ドゥの話を
取るに足らない物語
誰にでも描ける物語の話だ
彼らはどこで生まれたのだろう
それはもう記憶に残っていないことだ
自分のことなど一番に忘れる
記録することもない
彼らはそんな人々だ
夢があった
誰もが抱く夢を
彼らもまた抱いていた
叶えたものもいた
あきらめたものもいた
いずれにせよ
彼らもまた夢の中で生きていた
ありふれた日常に埋まったものを
彼らは日常と呼んでいた
あたりまえのことをしていて
彼らはそれを幸福と呼んでいた
誰かが否定することはない
誰も肯定はできない
この物語は彼らだけが描ける物語
そして彼らしか読まない物語
ジョン・ドゥの話をしよう
名前も忘れてしまった彼らの話を
もう記録には残されていない
ありふれた物語を




