魔女がいた国
冬深い道を通り過ぎて 辿り着いた森の奥
門を潜れば景色は変わる 紅色に覆われた町の影
変わることのない景色が旅人の瞳に映える
教会の鐘が鳴り響く 耳障りな音が木霊する
旅人は耳に手を当てて うるさいと呟いた
紅茶色の石畳を歩いていく 町並みは変わらない
広場の中央に建てられた石碑が一つ
ここだけは唯一変わった場所だった
町人は旅人に語りかける
「全てはここが終わって始まった場所だ」と
魔女の話 そう遠くない過去に起きた伝説を
町人はただ語る 憎悪と悲しみの表情を浮かべて
話が終えた時 町人は涙を流していた
旅人は町の外れを訪れる
何もない草原に建てられたガーゴイルの銅像が
旅人を睨むように佇んでいる
もうここには何もない 旅人は空を見上げてため息をついた
訪れた教会の前 司教が問いかける
「あなたは神を信じますか?」
旅人は答えを返す
「私の信じた神は死んでいました」
「もう私は何も信じない」
旅人は言葉を捨てて教会の前を立ち去った
もうすぐ日が暮れる もうここを出なければ
旅人はフードを深く被って通り過ぎる
あの娘の横 元気でよかったと呟いた
町に夜が差し掛かる 寒さが一層強くなる
旅人は門を潜り振り返る
「さようなら」
旅人は魔女の名前を口にして去っていった




