楔の眼
楔のようなものは長い月日と共に朽ちる
腐った鉄製の音を鳴らして泥水の中へと沈む
地上に残った端を掴んでは戻そうと
引き摺り出したのは寂れた鉄くず
そこでようやく私は無意味なことをしていたのだと知る
あの日見た楔は美しかった
鏡のように太陽の光を照り返す
撫でれば心地よい鉄の音を鳴らす
濁りなど一つもなかった
長い間
楔はその姿を変えることはなかった
忙殺の日々も
某号の毎日も
朝焼けをその面に映し出し
夕焼けを照り返す
光はいつも楔に降り注ぎ
私の目には美しく映っていた
楔は私の前で永遠のようなものを見せる
変わることを否定して
あり続けることを肯定する
それは私の理想を形作ったようなものだった
私は思った
これがずっと続く
すれ違うことはあるだろう
しかし濁ることはなく眩しいまま
私が消える時まであり続けると
それを私は心の中で永遠に祈った
楔は形を変えない
何かを縛りつけたまま
常に私の目の前に佇む
意思を肯定してくれる
理想を否定しない
結びつけたままずっとこのままだろう
ある時のことだ
一人の青年がやってきた
その青年は一言言って私の前から去っていった
それが私が祈った永遠が壊れる
その瞬間だった
楔は瞬く間にひび割れ濁り
鈍く気持ちの悪い音と共に崩れさる
表面に光が映ることはなくただくすんだ瞳が私を睨む
そして楔だったものは泥水の中へ落ちていく
絶叫を振りまき
憎悪を散りばめて
醜く腐った私の裏側を象った
ああ、やめてくれ
私の理想が崩れていく
ああ、やめてくれ
私の祈りが消えていく
永遠は朽ちてやがて私はやっと現実を見た
私が手に持っていたのはすでに錆びていた鉄くずだと
楔など最初からどこにもなかった
私が目にしたのは
私が見たくないと祈った
私そのものであった




