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夜が沈む
目を覚ました真夜中のこと
名前も知らない鳥が鳴いている
開いた窓辺に降り立った月の影が
私を誘うように外へ翼を伸ばしている
私に何かいいたいのか
その瞳は既に私を写し込んでいる
影を追うように外套を着て外へ
扉を開けた先の闇に紛れる
星もない空に赤い月が輝く
それは不吉にも思えてそれでも
安らぎの色のようでもあった
風が荒れる
帰り道を隠すように背中を押す
そんなに急かすでないと
まだ歩き始めたばかりではないかと
私は闇にいった
街灯の下に明かりはなく
光が散り散りと赤い月に照らされる
街は隠れて姿を変える
悪夢に化けた影がまた
私を追い越して去っていく
闇に埋まった街を歩く
日常の中で見慣れたものが
黒く染まって視界から消えていく
その重なりが影となる
途絶えることなく連なる
なぜ私はここを歩いているのだろうか
それは影が私を連れ出したから
悪夢に似てどれでもないもの
それこそが現実であり
これが私の見る夢なのだ




