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偽りから始まる恋  作者: あやさと六花


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3/8

三日目 趣味を楽しむ

 鳥の声が時折聞こえる静かな公園に、馬が駆ける音が響く。


「朝早くだと、こんなに清々しいんですね」


 隣で馬を駆るレイチェルが、顔を綻ばせる。

 そんな彼女の様子に、アシュトンは喜んでくれたようだと内心ほっとする。


(僕の好きなものを一緒に楽しみたいと言われた時は焦ったが……)


 先日はレイチェルの趣味の歌劇を見たため、今日はアシュトンの趣味に添ったデートをするのがレイチェルの望みだった。


 最近のアシュトンの一番の趣味は昆虫採取だ。だが、さすがにデートには不向きだということはアシュトンでもわかる。

 色々考えた末、日課でもある朝の乗馬に誘ったのだ。

 

「人も昼ほどいませんし、私はこの時間に走るのが、一番好きです」

「ガザード様の日課になっているのがわかる気がします。……あ。あの花。この時間はまだ咲いてないんですね」

「ええ。ですが、もうじき咲くはずです。もう一周する頃には花が綻び始めますよ」

「まあ。次にここを通るのが楽しみですね」


 ゆったりと馬を走らせながら、レイチェルとの会話や景色を楽しんだ。


 しばらく走ったあと、休息を取ることにした。

 付き添いの侍女はレイチェルに日傘を渡すと、少し離れた位置についた。デートだから配慮してくれているのだろう。


「ガザード様の愛馬は、とても穏やかで優しいですね」


 レイチェルは傍でくつろぐ馬を撫でた。馬はもっと撫でてほしいとねだるようにレイチェルに頭を寄せる。


「ええ。その馬はうちの所有する中でも一番おおらかな気質の馬です。ですが、そこまで懐くのは珍しいですよ。貴女のことが気に入ったようですね」

「まあ、嬉しいです」


 レイチェルの声が弾む。彼女は最後にもうひと撫でしたあと、アシュトンを振り返った。


「久しぶりの乗馬で緊張しましたけれど……今日来てよかったです」

「久しぶりなのですか? 姿勢も走りも安定していたので、普段から乗っているのだと思っていました」

「ふふ。ありがとうございます。嗜み程度に習っただけで、あまり得意ではないんです」


 そうなのですか、と言いかけて、乗馬に誘ったのは失敗だったのかもしれないと気がつく。


「すみません。乗馬以外にするべきでした」

「いえ! とても楽しかったです! 変に苦手意識を抱いていただけだと気づけましたし。アシュトン様がお好きだから、乗馬をしようと思う気になったんです」 

「そんな無理をしなくていいんですよ」


 デートとはいえ、これはレイチェルを巻き込んでしまった詫びのようなものだ。迷惑をかけたアシュトンにそこまで気を使う必要などないのに。


 アシュトンの言葉に、レイチェルは数度瞬きしたあと、「無理はしていません」と答えた。


「好きな人の好きなことを、一緒に楽しみだけですから」


 レイチェルの無邪気な笑顔に、心臓が跳ねる。

 なんと返事をしようかとアシュトンが悩んだ時、近くで男たちのどよめきが起きた。

 

 声のする方を見ると、複数の令息たちの姿があった。近くにテニスコートがあるから、そこに向かう途中の者達だろう。

 彼らは皆こちらを見て、驚きの表情を浮かべている。


「あれ、ハリス子爵令嬢だろ? 見間違いじゃないよな?」

「あんな風に男に笑いかけることできたんだな。女以外には笑えないのかと思ってた」

「一緒にいるのはいるのは恋人みたいだな。男嫌いってのは嘘だったのか?」


 好奇に満ちた視線と言葉に、アシュトンは眉根を寄せた。

 不愉快だ。彼女は見世物ではない。


「そろそろ行きましょうか」

「はい。……申し訳ありません、アシュトン様。巻き込んでしまって……」

「貴女が謝ることではありません。……さ。気を取り直して、もう一周行きましょう」

 

 馬を走らせ、レイチェルと話していると先程の不快感がいつの間にか消えていた。

 レイチェルの表情も柔らかくなっている。

 良かったと胸を撫で下ろしかけた時、興味津々の視線を感じた。


(またあいつらか!?)


 アシュトンは威嚇するようにそちらに目を向ける。

 だが、予想に反して、そこには華やかな令嬢たちがいた。


「私の友人です。彼女たちには、ガザード様とのことは伏せて、恋人ができたことだけは伝えています」


 言われてみれば、彼女たちの視線にはこちらへの強い関心を感じるが、先程の令息たちのようにからかうようなものではない。友人の恋路の成功を願う気持ちがある。


「挨拶に行きましょうか?」

「いえ、大丈夫です。行ったら根掘り葉掘り聞かれそうですから。それに、みんなにもデートに集中するように言われるでしょうし」


 「今度のお茶会、覚悟しないと行けないわね……」と、小さくつぶやくレイチェルに、アシュトンは共感した。アシュトンもバートにレイチェルとの進展を聞かれるからだ。

 バートもなかなかしつこいが、恋の話が好きな令嬢ならもっとすごいのだろう。

 レイチェルの場合は惚れ薬のことを隠しながら話さなければならないから、さらに大変だ。


(お互いに苦労するな……)


 共感しつつ、アシュトンはレイチェルとのデートを楽しむのだった。

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