55-90
「それがどういう意図で行われたものなのか……なぜそんなことになってしまったのか……僕らにはわからなかった。あの優しくも雄々しい……他の神々にすら頼りにされていたヘラクレス様がそんなことをするはずがないと……僕らは信じていた。でも、前例のない事態に僕らは対処せざるを得なくなった。当時、眷族筆頭ですらなかった僕やキュロスも当然……駆り出されたよ……それが、この世界の隠された歴史の始まりでもあった」
その話は、バラドゥーマにとっても初耳の話だった。
創世神の眷族筆頭を任せられていたバラドゥーマにとって、その聞いたことのない話を嘘だと信じ切ることも出来た。
だが、パルシアスの雰囲気がそうさせなかった。
「あの時のヘラクレス様は本当に強かった。普通の眷族なんかじゃ手も足も出ないし、創世神の三柱が頼りにしていた王達まで倒され、僕らに未来なんて無いんだって絶望したくらいさ……でも、この戦いは唐突に終わったんだ……ヘラクレス様の身体が暴走してしまったことでね」
そして、キュロスは明後日の方向に向けていた視線を、バラドゥーマに向けた。
「あの方は……いや、あの時は誰も知らなかったんだ。王は神からの信頼やその絆の度合いによって強固な力を引き出すという特性を持ちながら、絶対に破ってはいけない呪いがあるということを……」
パルシアスは、倒れたままこちらを見上げるバラドゥーマの傍にしゃがみ、哀しみを思わせる表情で、彼を見る。
「駄目だったんだよ! 君は……君だけは食べちゃ駄目だったんだ! 神様が食べられれば、その信頼や絆は破棄されて……護れなかった王は、その身を自壊させてしまう……だから、神を失ったヘラクレス様は、多くの眷族や王、地上に住む多くの命ある生物達を巻き込み、死んだんだ……」
その最後の言葉を聞いたバラドゥーマは、明らかな動揺と絶望を顔に表し、その目から、涙を流し始めた。




