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「……あと二人……」
少年はそう呟くと、その血に染まった部屋を後にした。
そして、彼は一つの空間へと辿り着く。
そこは庭園のようになっていた。
一面に広がる緑色の芝生に、赤白黄色と鮮やかな色で彩られた花畑。その中央にはレンガで囲まれた花壇があった。そこに彼は血に染まった足で入る。
そんな彼の耳に声が届く。
「その汚い足でここに入るな!」
その怒りに染まった声にバラドゥーマが反応するのと同時に、彼の頬に強烈な痛みが走る。
そして、バラドゥーマの体は呆気なく吹き飛ばされ、緑色の芝生に転がった。
しかし、バラドゥーマはまるで何事もなかったかのように立ち上がる。彼の視線の先には、金髪碧眼の男が立っていた。
冷静を心掛けていながら、その瞳からは怒りが漏れ出ているその男こそが、バラドゥーマの倒したかった存在。
創世神の一角、創造を司る男神の眷族筆頭、キュロスであった。
「ここはお前のような裏切り者が入っていい場所ではないぞ?」
キュロスの言葉に、バラドゥーマは聞く耳を持っていなかった。彼は地を蹴り、キュロスに迫る。
そして、彼に強烈な蹴りを叩き込んだ。
しかし、キュロスの体は微動だにしなかった。
彼の左に展開された神々しい光を纏った楯が、バラドゥーマの蹴りを止めたのだった。
「……致し方なし……」
そう言うと、キュロスはバラドゥーマ目掛けて拳を振るう。
その一撃は、バラドゥーマの体を正面から捉え、意図も容易く吹き飛ばしてみせた。
だが、またもやバラドゥーマにダメージを受けた痕跡はない。むしろ、嬉しそうにも見えた。
だからと言って、キュロスのやるべきことは変わらない。
キュロスはいつの間にか手に握っていた槍を彼に向かって放った。
それは、神速と呼ぶに相応しい速さでバラドゥーマの胸に突き刺さり、庭園の一部を赤く染めた。
それを見た瞬間、キュロスは顔をしかめた。
しかし、顔をしかめたのは少しの間だけだった。
急にバラドゥーマが笑い始めたのだ。
楽しそうにも、嬉しそうにも、気持ち良さそうにも聞こえる含み笑い。それをキュロスは不気味に感じた。
「……痛くないんだ。お前の攻撃が全然痛くない!!! こんなに弱っちかったか? いや違う。俺が強くなりすぎたんだ!!」
バラドゥーマはそう言うと、再び立ち上がってきた。
槍はいつの間にか砕かれており、傷も塞がっていた。
「ここにいる他の連中は酷すぎたからな!! 創造神と戦う前に、ここでお前を殺して俺の強くなった力を証明してやる!!」
バラドゥーマのその言葉が合図となり、バラドゥーマとキュロスの戦いが再開した。




