28-22
「人食い族から逃げていた時、あの日のことを思いだしました。……私がお母さんとお別れすることになってしまったあの日……私達は森の中にいました。赤ん坊だったシェスカを右手で抱え、空いた左手で私の手を引き、涙を流しながらお母さんは走っていました。何がなんだかわからない私を強制的に走らせて……でも、大きなモンスターに襲われて……離ればなれになったんです。シェスカを私の胸に押し付けて、お祖母ちゃんのところに行きなさいって……一言だけ伝えて……涙ぐんだお母さんは私達を抱きしめたんです……」
読み終えた手記をシルヴィに返すと彼女は悲しそうな表情でその話をしてくれた。
彼女の目から流れ落ちる涙が返した手記にぽたぽたと落ちる。
きっとその日の出来事が脳裏を過って、辛い過去を思い出したのだろう。
以前聞いた時、シルヴィを助けたきっかけは『村の女性』だと聞いていたが、一番の要因はシェスカの誕生だったようだ。だが、それを理由にしてはならなかったのだろう。
大きくなったシェスカが自分のせいで両親や姉を危険に晒したと信じこまないよう婆さんや村の皆が少しだけ事実と異なった情報をシルヴィに教えたのだろう。
そういえば前にも同じようなことがあった。
シルヴィは声を圧し殺して泣き続け、傍にいる俺は何も声をかけられない。
……このままでいいのか?
悲しそうに涙を流す大切な人が隣にいて……何もしないのが果たして正解なのだろうか?
「……っ!? ユ……ユーマさん?」
俺が隣に座っているシルヴィの体をこちらに寄せると、泣いていたシルヴィが驚いたような声をあげる。
だが、俺は気にせず彼女の頭をそっと撫でた。
どうすればいいのか俺にはわからない。どんな答えを出すのが正解かなんてわからない。ただ、俺が悲しみにくれていた時、大好きな祖母ちゃんがこうしてくれたことが嬉しかった。
そっと抱き寄せ、頭を撫でてくれる。小さかった頃の俺はそれをされると祖母ちゃんの暖かい心に触れられて心地良かった。
「シルヴィ……お母さんの代わりなんて大それたことは言わない。でも、俺が一生傍にいてやる。シルヴィが悲しんでいる時も、嬉しい時も、危険に晒されている時も、俺が傍にいる。だから……今くらいいっぱい泣きなよ。……声に出していいんだ。それを咎める人なんてここにはいないんだからさ……」
ずっと辛かったのだろう。手記をもらって1ヶ月以上経っている。その間、一人で苦しんできたのだろう。今まで彼女を見てきたはずなのに、彼女が苦しんでいることに気付けなかった。
彼女がどれ程辛いのかは全てを聞いた今でもわからない。
……でも、大切な家族が死ぬ辛さは俺にもわかる。だから、寄り添うことにした。俺の言葉を聞いて、大声で泣き始めた彼女に……。




