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畳に敷かれた座布団の上で、エメラルドグリーンの髪が特徴的な少女は、疲れた~、と言いながら伸びをした。
そんな彼女のもとに、緑茶が入った湯飲みを持っている、白い翼を生やした女性がやって来た。
「お疲れ様です女神様」
湯飲みをちゃぶ台に置いたミハエラは、女神に促されるまま、座布団に座った。
「このくらいお安いご用だよ。優真君の覚悟に応えるためには、あのモンスターに茶々を入れさせる訳にはいかないからね。彼らに対モンスターの認識阻害を張るくらいどうってことないさ」
「では、なぜ最後、優真様にも認識阻害を使わないのですか? 使えば逃げれるじゃないですか?」
「彼に与えた能力の実践テストよ」
にやりと笑っている女神は、高笑いまで始めた。
(……そんなことばっかりやってるから、優真様に嫌われるんですよ。……優真様、どうかご無事で。貴方はたった一人の女神様の眷族なのですから)
◆ ◆ ◆
「……やっと行ってくれたな。まさか、こんな俺のために、あそこまで泣いてくれるなんて、思ってもみなかったな」
死ぬ覚悟は決めたが、未練はある。
この世界に関して、俺はまだ何も知らない。
魔王がいるかどうかとか、魔法が使えたりするかどうかとか、ギルドの存在とか、何も知らない。
目の前にいるSランクモンスターと呼ばれた怪物が、どれ程強いのかすらわからない。
それは、俺が無知であることの証明。
せっかく神様から第二の人生をもらったんだけどな……できればもっと堪能したかった。
「……悪いな、二人とも。どうやら俺が生き残る可能性は無さそうだ」
目の前にいるミストヘルトータスと目があったことで、優真はそうぼやいたが、すぐに首をふって、ネガティブな思考を追い出す。
「……でも、ただでは死んでやらんぞ、デカブツ! 彼女達を逃がせば俺の勝ちなんだ。死んだって勝ちは譲らねぇぞ!」
(【ブースト】発動! 貫通力、速度、攻撃力、5倍!)
【ブースト】の効果で、自分の能力をはねあげる。
ミストヘルトータスと呼ばれたモンスターの足下に潜りこむことは楽勝だった。
どうやらこの鈍足は、俺の存在に気付くのが遅れたようだ。
俺はガルバスさんから別れる前に借りた両手剣をおもいっきり振った。
5倍にはねあげたお陰か、剣による攻撃はミストヘルトータスの前足を切り裂き、血飛沫を勢いよく噴き出させた。
(いける!)
その血を見て、一瞬そう思ってしまうが、すぐに思い知らされることとなった。
俺が放った攻撃はミストヘルトータスに、人間でいう浅い切り傷程度しか与えられていなかった。
そして、その傷もすぐに癒えていた。
両手剣を使ったことがないとはいえ、5倍にはねあげた攻撃がその程度、しかも、こっちは攻撃力の他に貫通力も上げた筈だ。
それなのに、切り傷程度しか与えられていないという事実が目の前にいるモンスターとの実力差を教えてくる。
(急いで距離をとらないと!)
実力差にうちひしがれている場合じゃない。切り傷程度しか与えられていないのなら、反撃がくる。
急いでバックステップをとり、その場から離れる。
次の瞬間、さっきまで俺のいた場所はミストヘルトータスに踏み抜かれていた。
あそこにいたら、間違いなく肉塊となっていただろう。
一時だって油断できない。
今のやり取りで俺はそう悟った。




