26-2
「ねぇねぇユウタン、なんで馬車じゃないといけないの?」
優真が悩んでいると、これからどうするかで集まっていたハナが不思議そうな顔で聞いてくる。
「そりゃあ……この人数で歩くとなるとかなり遅くなるだろ? シェスカなんかはきっと、ずっとは歩いてられないと思うし……」
「いやいやユウタン、要するにチャイル皇国の王都に着けばいいんだよね? それじゃあ歩く必要ないじゃん」
「……え? でも馬車は……」
優真がその言葉を最後まで告げる前に、ハナは笑みを浮かべながら、指を弾いた。
直後、先程まで目の前にあった旅館が、巨大な壁につけられていた門の前になっていた。
「…………は?」
周りを見回すと、多くの人が遠巻きにこちらを見ており、門番だと思われる格好の人物がこちらを指差し、驚いた表情で口をパクパクさせている。
「…………ねぇ……ハナさんはいったい何したん?」
「ん~? 今のは眷族になった時に女神様からもらった特殊能力のひとつ、【大地渡り】だよ? 繋がっている大地や、一度行ったことのある地に一瞬で飛べるんだよ! 便利でしょ~」
「……そういうのはさ……」
「……ゆ……ユウタン?」
「先に説明してからやってくれよ!!!」
俺の怒声にハナさんがびくついたが、怒ったのにも理由があった。
そもそも、俺達の格好は部屋で話し合っていた状態だったため、全員浴衣姿なのだ。当然、ハナさんも例外ではない。
それなのに、いきなりこんな観衆の前に晒されれば、いくら温厚だと自負している俺でも少しくらい取り乱してしまうのだ。
「まぁまぁ優真、落ち着いて、落ち着いて。別にハナちゃんも悪気があった訳じゃないだろうし、そんなに怒ったらシェスカちゃんやファルナちゃんが怖がっちゃうし……婚約者との関係性が悪くなったら優真だって困るでしょ? ほら深呼吸、深呼吸!」
「……万里華…………わかった。ハナさん、とりあえず一旦、聖域まで戻してくれない?」
その言葉に慌てたように何度も頷いたハナさんが、再び指を鳴らすと、先程まで俺達がいた部屋に戻ってきた。
「はぁ……今後はこういう事を勝手にしないでくれると助かるんだけど……」
「ご……ごめん! 少しでもユウタンの役に立ちたかっただけなの!」
目の前で謝る彼女を見て、少し怒り過ぎだったかもしれないと後悔した。いきなりであることと場所さえ除けば、彼女は俺達が得になることをしてくれたのだ。怒るのは筋違いだったかもしれない。
「いや、こちらこそごめん。俺も少し強く言い過ぎた。ハナさんが俺達のために動いてくれたというのに、文句を言うのは違うよね。万里華も止めてくれてありがとう」
「どういたしまして」
感謝の言葉を伝えるために万里華へと向けていた顔を、ハナさんの方に向けた。
「……ねぇハナさん、もう一度使えるんだったら、1時間くらいしてから、また発動させてくれないか? ……文句を言ってきた俺の頼みは嫌かもしれないけど……」
「ううん、大丈夫。さっきは失敗しちゃったけど、ユウタンの役に立てるんならなんだってやるよ」
「……ありがとう……」
……本当に酷いことを言ったと思う。
誰にだってミスはある。俺だってミスはするし、特に幼い子どもはたくさんミスをする。
たった一度のミスを許容出来ないでおいて、保育士になりたいと言っていた自分がバカみたいだ。
……そういうところは直さないとな……保育士になるために……。




