24-23
数分の時が過ぎ、この戦いに異変が起きた。
白き猛虎の姿になったファルナの様子がおかしいのだ。
最初の頃とは明らかにスピードが落ち、先程からよく止まり、ネビアに攻撃をする隙を与えている。当然、ネビアはその隙を見逃さず、一撃を加えようと鉄扇を振るう。だが、その攻撃を寸でのところでファルナは避ける。
息も上がっており、肩で息をしている。目も虚ろになり始め、おかしいのは一目瞭然だった。
(体が……重い……。動くの……辛い……)
ファルナは駆け回って的を絞らせないようにしながら、そう感じていた。
普段であれば、もっと動けるはずなのに、体が何かに引きずられているような感覚とか、何かにまとわりつかれているような感覚のせいで、体の自由が効かなくなっていた。
次の瞬間、胴体に抉られるような痛みを受け、悲痛の叫びを上げた。
(……スピードが落ちたところを狙われた!?)
体がよろけそうになるが、意図的に踏ん張ることで、転倒せずにすんだ。
だが、踏ん張ったことで足が止まる。
思っていたよりも傷が深い。でも動けないという程ではない。体を覆う白い毛が硬かったから、内臓まで到達していなかった。だが、逆に言えば硬い毛があっても、これ程の傷をつけられる。おそらく、もう1発受ければ……耐えられない。
すぐに移動しなくてはならないと思い、足を前に出そうとした瞬間、目の前を霧の刃が通過していく。後ろからも同じように霧の刃が飛んできて、後ろに下がろうとしていた足を止めた。
そして、飛ばしてきた本人を見るとにやけ顔を見せながら、閉じた鉄扇を振り回していた。
紐の部分を掴み、縦の円を画く二つの鉄扇は一定感覚で霧の刃を送っており、横に移動させてはくれなかった。
敵はすぐに他の攻撃を仕掛けてくるようには見えず、それならばと、ファルナは真っ正面を向き、自分の体力を回復させようと思った。
すると、真っ正面でずっと鉄扇を振り回し続けている青年がその口を開いた。
「おいおい体力の温存か~? そんなことをしても無駄無駄~。私の能力は【迷いの霧】といって、霧に二つの効果を付与するものなんだ。一つ目は相手の方向感覚を鈍らせる能力で、本人は真っ直ぐ向かっていると思っていても実は右に行ったり左に行ったりと、目的地につかせないもの。二つ目は衰弱効果。これの意味がわかるか、くそガキ? わかんねぇよなぁ? 要するに時間が経てば経つほど、てめぇの体は動かなくなり、いずれ意識を失う。つまり、私はてめぇの逃げ場さえ潰していればいいんだよ」
ファルナはその言葉を聞いた瞬間、確かに体力が回復するどころか、減っていっていることに気付いた。その事実を素直に受け入れるしかなくなったファルナの思考は一つの答えにたどり着く。
(このまま何もしなかったら……負ける…………こうなったら……)
ファルナは自分の足に力をため、目の前で鉄扇を振り回している青年に向かって突撃し、その隙だらけな青年を鋭い爪で引っ掻いた。
だが、引っ掻いた瞬間、目の前で鉄扇を回していた青年は残像となって消え、その奥で鉄扇を手に持っているネビアの姿が代わりに現れた。
「ガキは馬鹿で助かる……」
ネビアはその言葉を発した瞬間、攻撃を放つ構えを見せた。
ファルナはそれが、避けられないと悟った。
体力もなく、スピードもついていない。今にもよろめきそうな体では、空中で方向転換することも不可能だ。
最後に浮かぶ共に過ごした彼らとの思い出が走馬灯のように過る。
(……お兄さんともっと遊びたかったな……)
その時、自分の背中で「……ファルナお姉さん」という少女の弱々しい声が聞こえてきた。
ファルナはその呟きを聞いた直後、身をよじって、幼い少女の体を振り落とした。
シェスカの体は宙を舞って、柔らかい土に受け止められる。
(さよなら、シェスカ……シェスカは絶対こっち来ちゃ駄目だよ……)




