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そして彼女達は、そこから移動するためにばれないよう心掛けて走り出したのだが、逃げた際に足音を聞かれたのか見つかってしまい、今に至る。
「シルヴィお姉様、あの方達はいったい何者なのですか? もしかしてこの霧と何かご関係が?」
「……彼らはディガルバ族。神聖な土地と呼んでいる森深くにある自分達の土地に住む民族なの。本当ならあそこから出てくることは滅多にないんだけど……もしかしたら霧が原因で入り口付近まで来てしまったのかも……」
「な……なるほど……それで何故逃げるのですか?」
その質問にシルヴィはどう答えればいいか迷った。このスティルマ大森林に住む者なら、ディガルバ族の名を知らない者はいない。幼い子どもに、ディガルバ族が来ると言い聞かせれば、おとなしく言うことを聞いてくれる程だ。
だが、ユリスティナはシルヴィがその名前を告げても驚いた顔を見せていない。おそらく、どんな民族なのか詳しくないということなのだろうが、本来であれば、知らなくてもいい情報だ。むしろ、言いたくなかった。
だが、この状況で、今の状況がどれほど危険なのかを理解できていないのはまずいと思い、シルヴィは意を決して、その理由を話すことにした。
「……彼らにとっての好物は人間なんです。昔は近くの村が襲われていたってお婆ちゃんから聞いてたんですが……おそらく捕まったら彼らの胃袋に行くので、とにかく逃げるしかないんです!」
ユリスティナはそれ以上何も聞けなかった。
この状況で彼女が嘘を吐くとは思えない。彼女の言うとおり、このまま捕まったら、おそらく……。
体が恐怖で震えそうになる。息を吸うのも困難になってくる。足に力が入らなくなってしまいそうになる。
……でも、こんなところで死ぬのは嫌だから全力で逃げるしかない。
きっとまた、あの人が助けに来てくれる。……だからそれまで、頑張って逃げるしか自分には出来ないのだから……。
◆ ◆ ◆
ユリスティナはシルヴィに手を引かれながら全力で走る。……だが、森で過ごしてきたシルヴィと違い、城の中で何不自由なく生きてきたユリスティナにとって、森で走るなんてことは初めてだった。
気力だけで走っていた彼女は落ちていた枝に足をとられてしまい、そのドレスに泥を付着させてしまう。
「だ……大丈夫ですか!?」
「え……ええ、わたくしは大丈……痛っ! 足が……っ!」
シルヴィの判断と霧のお陰で離していた距離は、ユリスティナが転倒して足をくじき、動けなくなってしまったことで、ついに零となった。
「ようやく追い付いたぜ……こいつらが……ネビア様のおっしゃっていたおいら達の食事か? 確か7人て聞いてたが、こんなに少ねぇのかよ」
「どうせ、霧で分断されたんだろ? どうせ他の奴らがすぐに捕まえてくるさ」
「そうだな。じゃあさっさと捕まえるか?」
理解出来ない言語を喋る小麦色の肌を晒すディガルバ族と呼ばれる人食い族を間近で見て、ユリスティナの表情に恐怖が刻まれていく。
シルヴィが必死に逃げるよう言っても、ユリスティナは、震えるだけで動こうとしてくれない。
(こんなところで……死にたくない。……助けて……ユウマ様。……助けてっ!!)
ディガルバ族の男達がこちらに伸ばしてくる手を、ユリスティナは恐怖に染まった瞳で見る。
その時だった。
「な……なんだあれは!?」
かなり遠くの方で、霧の中に青い光が突如として出現した。
ディガルバ族の数人も焦ったようにそちらを見て、慌てたように何かを相談し始める。
すると、へたりこんでしまったユリスティナの目の前に、突如、桃色の長髪が映り込んできた。
もう駄目だと思った。絶対に助からないと思った。
だがそれは、五年以上前にも同じような感覚を覚えた。……確かあの時も、綺麗な肌を露出し、桃色のウェーブした髪を靡かせ、他の神様を信仰している者のために、その蒼い瞳に怒りの炎を灯してくれた。
優しくて、綺麗で、とても尊敬できる私の恩人……。
「……私の森で、私の親友に……何してるの?」
「また、助けに来てくださったんですね、ハナ様……」
怒りを露にした女性の声が森に響き、シルヴィはその女性を見て、そう呟いた。




