21-10
母さんからの手紙を読んでようやく落ち着いた万里華は、最後の手紙を手に取った。彼女の頬にも涙が伝った跡が見受けられ、その手紙を通して過去の思い出に浸っているのだろうと想像できた。
「……さて、最後はお楽しみの由美ちゃんからの手紙だね~。昔はお兄ちゃんっ子で可愛かったな~。将来はお兄ちゃんのお嫁さんになるから、万里華お姉ちゃんはお兄ちゃんと結婚しちゃ駄目!! って私が中学生の時はよく言われたもんだよ」
懐かしい思い出に耽っている万里華を見て思う。
そんなこと聞いた記憶がないんですけど、と。
「……なぁ、由美ってどちらかと言うと俺のこと嫌いじゃなかったか? ロリコンとか言ってくるし、俺を毎日のように罵倒してきたんだけど」
「ありゃ、気付いてなかったの? ロリコンって優真から女の子を遠ざけさせるための言葉だし、好きな人に素っ気ない態度を取る子は男子にもいるでしょ? ……まぁ、服の件は例外としてね」
「あれか……」
万里華がした色移りシャツ洗濯事件の話には続きがあった。
あれは洗濯事件の翌日だった。
その日は万里華が家に夕食を食べに来るって母さんが勝手に約束していたらしく、万里華が家に来たのだ。
帰り道を共にし、家へ万里華をあげ、手を洗おうと洗面所の扉を開けると風呂上がりで髪をタオルで拭いている素っ裸の由美と遭遇。
悲鳴を上げられ、万里華が悲鳴を聞いて入った瞬間、涙目になった由美が、お兄ちゃん大っっ嫌い!!! と言いながら、ビンタされた事件だ。
あれは思わず号泣してしまうくらい悲しかった。
「……なぁ……シルヴィには言ってないんだろうな?」
「言うわけないじゃん。あの思い出は私と優真の二人だけのものだよ」
その言葉に少し赤くなった頬をかきながら、万里華に早く読むよう促す。
「はいはい。なら読むね~……って、すごいボロクソに書かれてるじゃん!?」
万里華が言った内容に、俺は苦笑いを見せることしか出来なかった。
妹の由美から届いた手紙には、俺のせいで母さんが壊れたことに対する恨み言。せっかく面白い案を思いついていたのに、もう二度と話せないことに怒ったり、白いシャツの件も許そうと思っていたけど、もう二度と許してあげないとか色々と書かれていた。
だが、最後には、『お盆にお父さん連れて一緒に帰ってこないと許さないから』という文章で締め括られていた。
「やっぱりいい子だねぇ。由美ちゃんは」
由美の手紙を全て読み終えた万里華は、隣に座っていた俺に向かってそう言った。
「まぁ、俺や母さんの代わりに家事全部やってたし、いくら怒ってもデザート買ってくれば大抵許してくれるし……本当に自慢の妹だったよ」
「……やっぱり会えないと寂しい?」
「まぁね。俺には心残りしかないけど、その中でも一番は由美の花嫁姿を見たかったことだな……さぞ綺麗だったんだろうなぁ……」
「まぁ、由美ちゃんのは見れないかもしれないけどさ。……その分、私がウェディングドレスを優真に見せてあげるよ」
そう言った万里華は俺の頬に口付けをしてくれた。
悲しくなった気分を紛らわせるためなのか、それとも俺の気持ちを察して、慰めてくれたのかはわからないが、それでも日本での思い出を忘れないために肌身離さず持っていた大切な手紙は、万里華に見せたことで意外なことを知ったり、忘れていた大切な思い出を思い出すいいきっかけになった。




