19-9
ユリスティナは、俺の話が終わるまで口を挟むことはなかった。途中、何度か驚きを顔で表現しているのが、見受けられたが、当然だと思えた。
「……ユウマ様……」
「なに?」
「今おっしゃった話は……嘘じゃ……ないのですよね?」
「ああ、悪いけど嘘じゃないんだ。俺はユリスティナが思っているような善人じゃない。なんなら、シルヴィが拒んでいたら、俺は今日の告白も断っていたくらいだ。……失望しただろ?」
「いえ! それを聞いて安心しました!」
彼女はいきなり明るい笑顔をこちらに向けてきた。
その笑みに、少なくとも負の感情が一切混ざっていないことが、俺には理解出来なかった。
「……安心? 俺はユリスティナを騙してたんだぞ?」
「騙す? わたくしはそんなことを感じませんでしたよ? だって、今までのわたくしはただの余所者で、ユウマ様のことが好きな赤の他人でした。そんなわたくしに何故ユウマ様が自分のことをおっしゃる必要があったのですか?」
「……はは……赤の他人か……。そんなことを思ったことはなかったけど、個人的な内容を伝えるような間柄では確かになかったよな」
「はい。それをこうして教えていただけたということは、少なくとも今は、ユウマ様がわたくしを拒むつもりがないということですよね?」
「……ポジティブだなぁ……まぁ確かに拒むつもりは今のところ無いかな」
「でしたら、わたくしにユウマ様を責める理由なんかありませんし、嫌う理由なんてもっとありませんわ。ユウマ様が自分のことをなんと言おうとわたくしにとってのユウマ様は、命の恩人で英雄なんです! そんなお方の、つ……つ……妻になれるなんて光栄です!!」
ユリスティナの頬が、耳が、みるみるうちに赤くなっていく。
まさか、この話をして、こっちが恥ずかしくなってくるようなことを言われるとは思ってもみなかった。
「……そっか。なら、これからも君達が俺の婚約者になったことを後悔しないよう頑張っていかないとな」
「わたくしは後悔しませんよ? …………あら? ユウマ様、前髪に何かついておられますよ?」
「えっまじで? ……取れた?」
俺はユリスティナが言った言葉に動揺して、髪を払って彼女に聞いてみた。だが、彼女は首を横に振った。
「残念ながら取れていませんね。わたくしが取ってあげますわ」
「頼むよ。さすがにゴミつけた状態で皆のもとには戻れないからな。いや~ユリスティナが来てくれて助かった……!?」
彼女に髪の毛のゴミを取ってもらおうとかがんだ時だった。
彼女がいきなり俺の首に腕を回し、その可憐な顔を近付けてきた。
自分の唇に彼女の唇の感触を感じ、彼女の閉じた瞳が間近に迫り、彼女の白い頬はうっすらと赤く染まっていた。
そして、数秒の時間が経ち、彼女は自分から離れてくれた。
「油断大敵ですわ。わたくしのファーストキスは決して安くないのですよ?」
「…………何で払えばいいんだ?」
「簡単ですわ。ユウマ様も覚悟を見せてくださればよろしいのです。いつかユウマ様がわたくしを愛してると言ってくださったらチャラにしてもいいですわよ」
「……そうかい……」
そう言った優真は、彼女の腰に手を回し、自分のもとに引き寄せた。
そして、驚いている彼女のあどけなさが残る小さな唇に、自分の唇をそっとつけた。




