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17-13


 優真は、二つのベッドに挟まれた椅子に座っていた。

 いつものように日本の昔話を聞かせ終えると、二人共限界が近そうだった。

「おやすみ、シェスカ、ファルナ。もしもの時はお姉ちゃん達の言うことをちゃんと聞くんだぞ」

 小さな明かりに照らされながら、重そうな瞼に抵抗しているシェスカとファルナにそう言った優真は、シェスカの額にかかった前髪を指でそっと撫でた。

「お兄さん……今日は一緒に寝てくれないの?」

「今日はお仕事があるんだ。……ごめんな……」

「そっか……頑張ってね……おやすみなさい」

「……おやしゅみ……お兄ちゃん」

 二人はやがて安らかな寝息を立て始める。

 その姿を見ながら立ち上がった優真は、部屋の明かりを操作するスイッチを押して明かりを消した。

「……行ってくるよ。……いい子でな……」


 部屋から出た優真は廊下で三人の女性が待っているのを見て、顔に笑みを作る。


「どうしたんだ? もう遅いから早く寝なよ」

「今日なんでしょ? 優真達が城に攻めるのは……私達に黙って行かないでよ」

 万里華は、怒っているというよりも少し悲しそうな表情をしていた。

 シルヴィとユリスティナの二人も心配そうな目でこっちを見てくる。

「……ごめん。心配かけたくなかったんだけど……逆効果だったみたいだね」

「ユーマさん……絶対に帰ってきてくださいね! 明日はユーマさんの大好物ばかりのご馳走を作りますから!」

「へぇ……それは是が非でも帰ってこないとな。シルヴィの料理はうまいからすっごく楽しみだよ」

 泣きそうな瞳で笑顔を頑張って作ろうとする少女を俺は抱き寄せた。その温もりにもう少し浸っていたかったが、時間の関係上、そうすることは出来なかった。

「……頑張ってくださいね」

 離れたことで少し切なそうな顔をしたシルヴィだったが、満面の笑みを顔に浮かべてそう言ってくれた。

「……ありがとう」

 泣きたいのを堪えて、彼女に笑みを向ける。


 本当は怖い。

 行くと決めた今でも、出来ることなら行きたくない。もしも、死んだらと思うと…………怖い。また、離ればなれになるなんて嫌だ。あの時とは違う。ミストヘルトータスと戦った時は、死にたくないとは思ったけど、……ここまでじゃなかった。

 もしも、判断をミスって『救世の使徒』の皆(彼ら)を死なせたら? …………怖い。……でも、自分で決めたことだ。ここで弱音は吐けない……。

『とは言っても、私には丸聞こえなんだけどね』


 いつものように目の前に展開されたタッチパネルがそんな文章を見せ、彼女の声を聞かせてくれる。

(盗み聞きはたち悪いよ……)

『まぁまぁ、今に始まったことじゃないだろ?』

(……そうだな)

 本当は聞かれたくない本音だったはずなのに、何故か怒りは感じなかった。むしろ、聞かれていたことに安堵している自分を感じた。

『優真君。君には私がついてる。何かが起こっても私が君を守るよ。だから、気兼ねなく戦ってきなよ! なんのために彼女を連れてきたと思ってるんだい? 優真君は一人じゃない。私や他の皆がついてるよ』

(……うん……ありがとう)

 女神に感謝の言葉を口に出さず伝えた。口に出すのは、少し気恥ずかしくなったからだ。

 それでも彼女には伝わったようで、『どういたしまして』という文章がすぐに出てきた。


 心を落ちつかせて、俺がそろそろ出発しようとした時、シルヴィの横で泣いている少女が目に映った。

「ご……ごめんなさい。わたくしのせいで、皆さんを巻き込んでしまって……本当はわたくしが……」

 確かにきっかけは彼女だった。彼女が来なければこんなことにはならなかったのも事実だ。……ただ、このままその言葉を肯定する気は俺にはなかった。

「今更そんなどうでもいいことで悩むな。俺達は、この国を担う子ども達の未来を絶望から希望に変える戦いをするんだ。そのために今を変える。……ユリスティナがきっかけになってくれたお陰なんだ。……だから泣くな。こういう時は満面の笑顔で送り出してくれた方がやる気出るんだからさ!」


 優真はユリスティナの頬をそっと右手で触れ、伝っていた涙を親指で拭った。

 ユリスティナは優真の顔を見て、自分の左頬に触れているその手に、自分の手を添え、頬を擦り寄せる。

「ありがとうございますユウマ様。貴方様に女神のご加護があらんことを」

「ははっ……ありがとな。……じゃあ行ってくる」

 優真はユリスティナの頬から手を戻すと、三人に向かってそう言った。

「「「行ってらっしゃい!」」」

 その言葉を背中で受けながら、優真は階段を降りていった。


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