16-18
「さて、優真君が納得してくれたところで、シルヴィちゃん、さっきの約束だが、好きにするといいよ。私は約束を守る慈悲深い女神様だからね」
女神がそう言うのを、耳だけで聞くと、優真の視界が一変して別の空間を映し出す。
跪いていた優真は、驚いて立ち上がるが、よくよく見てみると、そこは自分の部屋だった。
近くのベッドにはシルヴィだけが座っており、点けられている明かりに照らされた彼女の顔は赤くなっていた。
(これって転移ってやつ? いや、そんなことはどうでもいいな……夜のベッド、若い男女……これはつまり……そういう展開なのだろうか? 大人の階段を昇れという神からの指示なんだろうか?)
そんなことを考える優真だったが、少し躊躇ってもいた。
シルヴィに手を出さなかったのには訳があった。確かに彼女から嫌われるかもしれないという理由も本心だ。
だが、それだけじゃない。
1番の理由は、ハナという大地の女神の眷族に言われた『シルヴィの体目的』という理由を否定したかったからだ。
自分は、彼女の体じゃなくて、性格や短所も含めた彼女のことが好きだということをどうしても証明したかった。
だから、保育士になるという夢が叶うまで、自分からは絶対に彼女を襲わないと自分だけで勝手に決めていた。
だがそれは、女神の言う通り身勝手な行為だった。
「ユーマさん、おばあちゃんの仕事場にあった地下でのこと……覚えてますか?」
シルヴィは急にもじもじし始め、その口をゆっくりと開き、その質問をした。いきなり何の話かと思い、頭からその時の記憶を引っ張りだす。
「ああ、忘れられる訳がないよ。シルヴィの過去とこの国の内情を聞いた日だからな。よくよく考えたら、あの日があったから、俺はシルヴィのことをここまで好きになれたんだと思う」
「本当……ですか?」
「ああ、今まで俺のせいで傷つけていたんだよな……でも、俺にシルヴィを捨てる気はない。でも言葉で何度言ったって確約じゃないんだよな。……なら神に誓ってやる! 俺は生涯、シルヴィと添い遂げることを俺が仕える神に誓う!! ……これで……少しくらいは安心できるか?」
優真の言葉が今のシルヴィには、とても嬉しい言葉だった。
神に誓ったことで、それを破ることが不可能といっても過言ではない状況にしてくれたのだから。これほどまでに、嬉しい言葉はなかった。……だが、ここで頷いてしまっては全てのお膳立てが台無しになってしまう。
だから、シルヴィはその優真の言葉に首を振って、再び口を開いた。
「……ユーマさん、あの日約束をしたの……覚えていますか?」
「約束?」
優真は彼女が首を横に振ったのを見て、罪悪感に打ちのめされたような表情を一瞬だけ見せた。だが、その顔はシルヴィに対して失礼だと思い、心の内にとどめる。
そして、優真はその約束という言葉で思い出す。あの後の話と彼女の涙が印象的過ぎてすっかり忘れていたが、優真は彼女に何でも聞くという約束をしていたのだ。
それがどういう経緯で行われたのかも明確に思い出してしまい、あの日の感触を思いだし、頬を徐々に染めていく。
「ごめん……すっかり忘れていたけど、確かに何でもするって約束はしたよ。否定はしないし、今更訂正する気もないよ」
「で……でしたら、私の我が儘を聞いてくださいませんか?」
「あ……ああ、俺に出来ることならなんだってするぞ?」
「……では、この日……いえ、この数時間だけは、私のことだけを愛してくださいませんか? 私のこと以外を考えないでくださいませんか? ……私を……私をめちゃくちゃにしてください」
瞳に涙を浮かべ、体を震わせながら、すがるようにお願いしてくる彼女の姿が、とても愛おしく思えて、俺にそれを拒むことは出来なかった。
俺は彼女の隣に座り、そっと彼女を抱き寄せた。
「俺はシルヴィが好きだ。例え他に何人好きな人が出来ようとその気持ちだけは絶対に変わらない。シルヴィが好きだと言ってもらえないのが辛いというのなら、俺はシルヴィが望む時に好きだと何度だって言ってやる。だから……後悔するなよ? なにせ俺はこの数時間だけじゃなくて、永遠にシルヴィを愛する気なんだからな」
「……はい……ありがとう……ございます……」
泣きながら、その言葉を紡ぎだしたシルヴィの唇に俺はそっと自分の唇を重ねた。
◆ ◆ ◆
エメラルド色の艶やかな長髪の見た目一桁の少女はノックをして、部屋の主から許可を得て、部屋に入った。
そこには2本のワイングラスと、未開封のワインを持った黒髪の女性が二つある椅子の一つに座っていた。
「お疲れ様です女神様」
「やぁマリちゃん。今晩だけはその態度も多目に見てあげるよ」
そう言った女神は既に頬が赤くなっている万里華の向かいの椅子に座り、ワインを彼女に注いでもらう。
「……さて、君の望みどおりになった感想を聞こうか……」
ワインを自身のグラスに注ぎ終えた万里華は、一切の動揺を見せない。ただ、少し哀しそうな表情を見せながら、「酷い神様ですね……」と呟いてから、グラスに入ったワインを見つめる。
「別に私は優真が初めてだろうと、経験済みだろうとどうだっていいんですよ。……ただ、私の初めては優真にあげられて、そのうえで結ばれれば、私は満足なんですよ。そのためには、シルヴィちゃんが優真としっかり結ばれなければいけません。……まぁ、シルヴィちゃんのことは大好きなので、別に文句もないですしね……」
「そのために、優真君と再会した時にあんな行動をとった訳だね」
「まぁ焚き付けるという目的でやったのですが、今日の結果を見れば成功ですね」
「無事、ハーレム計画も実行に移せそうだし、後はマリちゃん次第だからね。まぁ、今日くらいは君が満足するまで付き合ってあげるさ」
「……ありがとうございます」
その後、二人は朝になるまで、優真の昔話をつまみにしながら、飲み続けるのであった。




