16-10
「やっぱりお風呂は気持ちい~な~」
優真が頭を洗っていると、風呂の中でくつろぐファルナが流暢な獣人特有の言語で言ってきた。
シェスカが「なんて言ったの?」と興味津々に聞いてきたのがよっぽど嬉しかったのか、意味を通訳してくれた。
ちなみに優真にはその違いがまったくわからなかった。
人間の言葉も獣人の言葉もまったく違いがわからない。
(まぁ便利だし……別にいっか)
「あうあうあ~」
「違うよシェスカ! もっと発音しっかりして!」
「あうあうあ~」
「さっきと変わってない! もう一回!」
「あうあうあ~!!」
「違うもっと気持ちを表現した感じで!」
「もうシェスカわからな~い!」
(……なにやってんだよ……)
謎の獣人語レッスンを聞きながら頭についた泡をお湯で落とした優真は、自分の体を洗うために石鹸を取ろうとした。石鹸に向けられた視線が鏡に向けられた瞬間、後ろの扉に誰かが手をかけている姿が鏡に映った。
「優真~背中流しにきたよ~」
「!? は……はぁ!? な……なに入ってきてんの!?」
脱衣場に通じる扉が開け放たれた時、そこに立っていたのはバスタオルで体を包んでいる万里華だった。
「いや~女神様が~眷族の背中を洗うのは天使の仕事だからお勤め果たしてこいって……あはは……やっぱり恥ずかしいね……」
あの女神はいったい何がしたいのか分からなくなってくるが、今はとりあえずこの状況をどうにかするために頭を必死に回転させる。
(くそっ……今頃、女神のやつがにやにやしているんだろうな……ったく……この状況をシルヴィに見られでもしたらどうしてくれるんだよ!)
女神のにやにやしている顔を想像した優真はいらいらしているため、その時万里華が見せた哀しみにくれる表情は見ていなかった。
次の瞬間、タオル越しに柔らかい感触が背中に触れ、日焼け跡すらない綺麗な腕が優真の胸に触れる。
いきなりの出来事に驚き、持っていた石鹸を落としてしまう。
「な……何してーー」
「逞しくなったね。……やっぱりあの頃とは体つきが違う。……あの子のために頑張ったんだよね? 羨ましい……こんなに想ってもらえて……でも、それじゃ駄目なんだよ」
彼女の指先が自分の胸をなぞっていく。その感覚に困惑すると同時に頬が赤らめていく。
「と……とりあえず一旦離れろ。話がしたいなら後で聞くから!」
「……ううん。今……気分が高揚している時にしか聞けないこともあるんだよ。……だから聞かせて……私じゃ……駄目……かな?」
何が……とは聞けなかった。
何故彼女がここまで自分を想ってくれているのかが未だによくわからない。
そして優真は振り向いて彼女に向き合おうとした時だった。
「えっ!? ちょっと急に動かな……きゃっ!」
万里華は優真が落としてしまった石鹸に足をとられ、床に転倒してしまった。




