13-2
「まぁ、結果的にこんな立派な温泉旅館みたいなところに泊まれてラッキーだったなぁ。……それにしてもここやばいな。掃除とかは天使がやってたぞ。……背中に翼が生えてるのはイメージ通りだったけど……光るわっかは頭の上に浮かんでなかったな……」
受付のような場所に立っていた天使の姿を思い出しつつ、優真は体を湯船に浸からせる。
ゆったりとした気持ちで入っていると、外へと通じる引き戸が開いたような音が聞こえてきた。
(……他にも人がいたのか?)
そんな軽い気持ちで捉えていると石畳を走る音が聞こえてきた。風呂場を走るのは危険な行為であり、それを静観する優真ではなかった。
注意しようと振り返った瞬間、その光景に優真は絶句した。
「広いお風呂~!」
「こらシェスカ! そんなに走っちゃ危ないよ!」
「あれ? シルシル~もしかして前より胸大きくなった~? ちょっと触らせて~!」
そんなやり取りをする3人の姿が視界に入った。
一糸纏わぬ裸体の姿で……。
シェスカの裸はもはや見慣れつつあるが、大人の成長した体を持つシルヴィとハナさんは違う。
その主張する胸と、引き締まった身体が女性の裸を見たことがない俺にとっては刺激が強すぎた。
鼻から出てきた赤い液体を風呂に入れないようにしながら、優真は急いで音を立てずに風呂から出て、彼女達から死角になりそうな岩陰に移動する。
3人は優真の存在には気付いていないようだった。呑気に身体を洗い始めるのが岩陰から見えた優真は安堵したように息を吐き出す。
(おいおい……混浴なんて聞いてないぞ! ……やばい! このままここにいれば、見つかった瞬間覗き魔扱いされるのが目に見えている! ……そうなれば……警察に通報され、保育士になる夢も間違いなく潰える。……確か大学の先生から聞いた話だと、教育者が事件を起こすと、滅茶苦茶叩かれるから絶対事件を起こすなとかなんとか……事故って信じてもらえなきゃ…………保育士になる夢が潰えるどころじゃない……人生が終わる!?)
混乱している優真は、ここが異世界であるにも関わらず日本での場合を想定してしまう。だが、身を隠し深呼吸を続けることで徐々に冷静さを取り戻していく。
(……ああ……そういえばここは異世界なんだったな……警察みたいな連中はいるけど……そもそも逃亡の身であるシルヴィがそんな連中を頼るとは思えないし……誠心誠意土下座して謝れば案外許してくれるかもしれない。……そうだよ! シルヴィは優しいし……絶対許してくれる! ……と思う。……ていうかもうそれにかけるしかない!)
そんな自己暗示をかけ、意を決して飛び出そうとした瞬間、ピンク髪の少女が、湯槽に向かおうとしていたシルヴィの背中に抱きついて後ろから胸をもみ始めた。
頬を朱に染め、恥ずかしそうな声を出すシルヴィ。
滅茶苦茶楽しそうに揉み続けるハナ。
それを見た瞬間、優真の決意は砕け散り、岩陰に再び隠れた。
(無理無理無理無理無理! 無理に決まってんだろぉぉぉ!! 例えシルヴィに許される可能性が万に一つあったとしても、ハナさんに許される未来が全く見えやしねぇ! 絶対死刑を言い渡されるに決まってる! ましてや、大地の女神が一番信頼を寄せる眷族だって話だし……神達の中で2番目に偉い神様の眷族が絶対弱い訳ねぇ! もしかすると【勇気】や【ブースト】よりも強力な能力を持ってるかもしれないじゃん! ……見つかったら死ぬ。自分から謝りに行けば殺されるかもしれない……ぜってぇ見つける訳にはいかねぇ!)
結局俺はどうにかここから抜け出す方法を探ることにした。
女性の裸を見てしまった罪悪感で胸が締め付けられるが、それでも背に腹は変えられない。例え、罪悪感に苛まれようとこんなところで死ぬ訳にはいかない。
(……だが、結局のところどうすればいいんだ? 彼女達は唯一ある扉の近くにいるから、姿を現せば絶対ばれるよな。……いったいどうすれば……あれ? ……シェスカはどこ行った?)
先程まで頭を洗っていたはずのシェスカがいつの間にかいなくなっていた。シルヴィ達の方を見ても、未だに胸を揉んでいるハナさんと揉まれているシルヴィの姿しか見えない。
(目を離したタイミングでお手洗いにでも行ったのか?)
そんな考えに至った時だった。
「お兄ちゃん見つけたっ!」
シェスカが岩の死角になっている場所から勢いよく現れたのだ。
その勢いに驚かされ、危うく心臓が喉から飛び出るかと思った。
「…………勘弁してくれよシェスカ……。そういうのほんっとうに苦手だって何度も言ってるよね?」
「なんで~? お兄ちゃん良い反応してくれるからシェスカ楽しいよ~?」
「……うん……もう聞いてくれないのはわかってはいたけどさ……もう一度言うからね。人をサプライズパーティー以外の日に驚かせちゃだめ!」
「うんわかった~!」
「……その返事……もう何回目だよ……」
シェスカの行動に驚いて尻餅をついてしまった優真は状況を忘れて普通にシェスカと話してしまう。
しかし、こちらに歩み寄ってくる足音が聞こえてきたことで思い出してしまう。自分が今……死ぬかもしれない状況にあったということに……。




