片恋 (10)
歪んだ笑顔を浮かべている彼女達を見て、自分の気持ちが冷たくなっていくような気がした。
「ねぇ、私が貴方達にされた事を黙っていたのは怖かったからじゃないよ?勘違いしないでね」
あからさまに、ムッとした顔をして私を睨みつけている。
私も負けずに彼女達を見返した。
「大輝が走れなくなると困るから。それだけだから」
そう言って彼女達に笑みを向けると眉を吊り上げた。
「調子に乗ってるんじゃないよ」
「また痛い目に遭いたい?」
遭いたいわけないでしょ、馬鹿じゃないの?
にっこり笑って彼女達を見ると、私に向かって手が飛んできた。
「同じことを繰り返すのは学習能力が無いって怒られるから、止めておく」
顔の前で手を払い除けると、感情的になっている彼女達は私の制服に掴みかかろうとした。
「松本!あんたなんか、二度と走れなくなればいいんだ!今度はここから突き落としてやる!」
「私に触らないで!」
もう一度彼女達の手を払い除けて、彼女達から距離を取ろうと後ろに下がると、背中に“トン”と何かが当たり、長い腕が私の背中から回された。
「おまえの同級生は随分と物騒なんだな」
頭の上から声がして、仰ぎ見ると、用事があるからとここから立ち去った筈の黎人だった。
「どうして?」
「どうしてって、人の頭の上で意味深な会話しやがって…何かあると思うに決まってんだろ」
「起きてたの?」
そう聞くと、ニヤリと笑った。
寝たふりをしてたんだ?卑怯者!!
黎人を睨むと両手で私の頬を覆い、正面を向かせた。
「今、おまえの相手はこっちだろ?」
「あんたってホントムカつく」
その言葉にムッとした。
それはこっちの台詞だから。本当に腹が立つ!!
「さっきの有村との会話。…利奈の怪我にコイツらが関わっているように聞こえたのはオレの気のせいか?」
「松本!有村君に話したの!?」
急に真顔になった彼女達を見て、凄く白けた気分になった。
今更焦るなんて、この人達って本当に…
「こんな奴の為に名前を使うまでもないんじゃないか?オレがカタをつけてやろうか」
黎人の言葉が嬉しかったけれど、首を横に振った。
もうこの事は終わりにしようって決めたの。
「黎人まで巻き込まれる必要はないよ」
私を見下ろしている黎人を見ながら言うと、眉根を寄せて怒ったように私を見た。
「おまえな、惚れた女を守れないなんて情けないだろ?こういう時は大人しく守られてればいいんだよ」
「…」
今、何て言った?
黎人を見上げると「何だその顔は」と不満そうな顔をしていた。
「黎人?」
「聞こえなかったなら、コイツらを片づけた後にゆっくりと教えてやるよ」
そう言うと、私から腕を解き彼女達と向き合った。
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