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黄金の冒険者 ~偉大なるファラオ、異代に目覚める~  作者: 日之浦 拓


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戦いの始まり

「ドラゴン回収部隊とは、何とも穏やかではない響きだな」


「あまりにもあからさまっていうか、そのまま過ぎない? それでいいわけ?」


「ハッハッハ、いいんだよお嬢ちゃん。どうせ俺達以外が聞くことのない部隊名なんて、わかりやすさ最優先ってなもんだ」


「そうか? 俺としちゃ自分しか知らないからこそ、名前には拘りたい派なんだがなぁ」


「あー、ライバールはそんな感じよね」


 アラン達からは待望の、スタン達からは予期せぬ再会を果たし、まずは牽制とばかりに軽口を交わし合う。だが当然ながら、互いを満たす緊張は会話内容とは真逆のものだ。


「で、オッサン。交渉が上手くいかなかったから、今度は俺から直接ミドリを奪い取ろうって算段か? そりゃ大人としてどうなんだよ?」


「うるせーな。何も考えてねぇガキと違って、大人の方が色々あるんだよ。やる気が起きねーようなことだろうと、仕事ってなりゃ何でもするのが大人ってもんだ」


「ハッ、つまんねー言い訳だな。てか、そもそも俺達だって全員成人してる大人だぜ?」


「馬鹿言え! そうやって長いものに巻かれる事も知らず、好き放題やってる間は幾つになったってガキなんだよ!」


 丁々発止と言葉を交わしながらも、アランは視線をスタン達の背後に向ける。そこに積まれているのはスタン達がより分けたドラゴンの骨だ。かなり風化が進んでいるように見えるが、それでもお宝の山であることに違いはない。


「にしても、まさか生きてるドラゴンの子供だけじゃなく、成竜の骨まであるとはな……へへっ、こりゃロージンさんに感謝だぜ」


 あの日の子爵邸にてロージンが立てた計画は、いくつかの段階に分かれていた。


 まず最初はドラゴンの子供を匿っている子供がいるという情報を流すこと。そうすれば金に目がくらんだごろつきは勝手に動いてくれるので、子爵家の名を出さずとも人は動く。


 そうして誰かが今の所有者(ライバール)を殺してドラゴンの子を奪い取ったら、そいつを相手に改めて買い取り交渉をすればいい。最初から金に換えるつもり満々の相手ならば断られることなどないし、仮に調子に乗った取引を持ちかけてきたなら、「領内で冒険者を殺して財を奪った盗賊を処罰した」という体でドラゴンの子供を改めて奪い取ることもできる。


 要は子爵がドラゴンを所有する正当な理由があればいいわけなので、そこはどっちに転んでも大丈夫なようにしてあるのだ。


 だが、その計画は予想外にライバールが強かったことで失敗した。なので次の段階……噂が広まることでそろそろもっと大きな犯罪組織が動き出すのに合わせ、それと一網打尽にライバールを殺してドラゴンを奪うという計画を実行しようかというところで、しかしライバール達は突如として旅に出てしまった。


 もっとも、ごろつきの襲撃に耐えかねてライバール達が移動することは想定の範囲内だったので、貴重な追跡用の魔導具を使ってアラン達一〇人が彼らの後を追ったのだが……


(途中で魔導具の反応が消えた時はえらく焦ったし、ワイバーンの生息域を無理矢理突っ切ったせいで大分消耗しちまったが……ドラゴンの巣に辿り着いたならおつりがくるぜ)


「アランさん。あの骨、子爵様の指示にはなかったですよね? ならこっそり俺達の懐に入れても……?」


「やめとけデニス。んなことしたら首が飛ぶぞ?」


 思わぬお宝を前に、下卑た笑みを浮かべる部下をアランがたしなめる。すると部下の男が意外そうな顔でアランを見上げた。


「えぇ? アランさん、いつの間にそんないい子ちゃんになったんですか? 報告したって取られるだけで、俺達にゃ銅貨一枚も……」


「だからお前は馬鹿なんだよ! ドラゴンだぞ? んなもん換金したら秒で出所がばれるだろうが! それとも何か? お前はドラゴンの骨を絶対ばれない方法で換金できる伝手でもあるのか?」


「それは……ないですけど……」


「だろ? だから……ちょろまかすのはちょっとだけだ。そのくらいなら俺の伝手で何とかしてやる。この仕事が終わったら、全員にこっそり特別ボーナスを出してやる!」


「ヒュー! さっすがアランさん!」


「そこに痺れる! 憧れるぅ!」


 太っ腹な宣言をするアランに、部下達が沸き立つ。そしてそんな様子を見たライバールが、怒りと呆れの入り交じった表情で声をあげる。


「おいオッサン、やる前から勝った後の相談ってのは、いくら何でも俺達を舐めすぎじゃねーか?」


「あん? そっちこそ、何で俺達に勝てると思ってんだよ。そっちは三人で、こっちは一〇人だぞ?」


「ハッ! いくら数が多くたって、雑魚ばっかりじゃどうしようもねーだろ?」


「ハァー……あのなぁ、ガキ……」


 剣を抜いて構えるライバールに、アランが大きなため息を吐き……


「ここに辿り着いてる時点で、弱いわけねーだろうが」


 瞬間、アラン達の身に纏う空気が酒場でくだを巻いていそうなごろつきから、歴戦の戦士へと変わる。


「子爵家の私設部隊だぜ? 冒険者等級で言うなら、俺はB級、他の奴らもCからD級ってところだ。で、お前達は?」


「うむん? 余とアイシャはD級だな」


「……俺はE級だ」


「だろ? まああんだけのごろつきを倒しまくってんだから、等級よりは強いんだろうが……っ!」


「なっ!?」


 強く地面を踏みしめたアランが、一〇メートル近くあった距離を一瞬で詰めてライバールに斬りかかる。驚きつつもギリギリでそれを自分の剣で受け止めたライバールだが、つばぜり合いの最中、顔を近づけたアランがニヤリと笑う。


「俺達の方が、ずっと強ぇ!」


「ライバール!? 今加勢を――」


「俺はいい! ミドリを守れ!」


「っ、そうだな。ならアイシャは……」


「アタシも戦うわよ! この人数じゃアタシだけ見てるわけにいかないでしょ!」


「……わかった。ならば、我が呼び声に応え、現れよ<空泳ぐ王の三角錐フィン・ファラオンネル>!」


 スタンは素早くミドリだけに「ファラオシェルター」を展開し、腰の剣を引き抜く。すぐ側ではアイシャも同様に剣を構えると、残りのアランの部下達もまたスタン達に襲いかかってきた。


 そうして始まる、三対一〇の戦い。だがその数字がそのまま戦力差となるわけではない。


「くそっ! おい何だこの結界! 全然破れねーぞ!?」


「もっと思いっきり叩け!」


「キュー!」


 この戦闘の最重要目標……ドラゴンの子供の確保に向かったのが二人。だが二人がかりで剣を打ち付けてもファラオシェルターはびくともせず、その内部ではミドリがちょこんと座ったまま皆の様子を眺めて、応援の声を上げている。


 ちなみにそんなことができるのは、少し前のフライングスネーク戦にて、アイシャに抱かれて結界の中から仲間を応援するという体験があったからだ。おかげで今回もミドリは動揺を見せず、今のところは盤石である。





「ちょこまかよけるんじゃねーよ、この仮面野郎!」


「ははは、よけるなと言われてよけぬ者などいるはずがなかろう?」


「何で当たんねーんだよ!? こっちは三人もいるんだぞ!?」


 スタンに相対するのは三人。だが日々の訓練により少しずつ使えるようになってきた身体強化を足さばきに回すことで、元から凄かったスタンの回避能力には更なる磨きがかかっていた。


「フッ!」


「うぐっ!?」


 加えて、追跡が長距離になることを想定してか、相手の武装が薄い。身につけている厚手の革鎧は急所こそしっかり守っているが、腕や胴など防具が守っていない部分も多く、特に力が強いというわけではないスタンでも、そういうところを狙えばきちんとダメージを通せる。


 致命傷にはほど遠いが、怪我の痛みは注意力を減らし、流れる血は体力を削る。とはいえ三対一という戦力差はいかんともしがたく、回避し続けるスタンの体力もまた急速に消耗されていく。


「そち達が動けなくなるか、それとも余が疲れ果てて動きを止めるか……果たしてどちらが先に根を上げることになるであろうな?」


「調子に乗るんじゃねーよ、仮面野郎!」


「そーだそーだ! そんな重そうな仮面被ってて体力が続くわけがねーんだ。どんどん攻めてけ!」


「ハッハッハ! いいぞ! 余の華麗なファラオステップをその目に焼き付けるがよい!」


 ファラオ対私設部隊三人。戦力差は未だ覆らねど、スタンの声にはまだまだ余裕が溢れていた。

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