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黄金の冒険者 ~偉大なるファラオ、異代に目覚める~  作者: 日之浦 拓


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魅力的なモノ

今年も一年、拙い拙作をお読みいただきありがとうございました。来年も代わらぬ応援を、どうぞよろしくお願いいたします。

「本当にこれっきりですからね! 次同じことをしたら、馬車から放り出しますよ?」


「はーい」


「ごめんなさい……」


 度を超えて馬車の中ではしゃいでしまったシーナとミムラは、御者の男性にこっぴどく叱られた。わざわざ停車させてまでお説教をくらい、そうして一〇分ほどしたところで漸く馬車のなかに戻ってくると、二人は疲れた様子で座席に腰を下ろした。


「はー、こんなに怒られたの久しぶりだよぉ……」


「あはは、お疲れ様……っていうのも違うのかしら?」


「酷い目に遭った……主にシーナのせいで」


「こらこら、原因を一方に押しつけてはならんぞ? そちも魔法を使ったのだから、同罪だ」


 ぐったりするシーナと不満げなミムラに、スタンとアイシャがそれぞれ声をかける。だがシーナはともかく、ミムラは反論を口にする。


「むぅ、私はちゃんと自重して制御してた。私の魔法はシーナのお尻しか燃やさない」


「何でそんなところに全力出すのよ!? まあ確かに、馬車が燃えたりしてたらこのくらいじゃすまなかっただろうけどさー」


「当然。スタン達にも迷惑がかかるから、そんなヘマしない」


 抗議の声を上げるシーナに、ミムラがフンスと鼻を鳴らして得意げに言う。実際馬車の車体に焦げ目の一つでもついていれば怒られるだけではすまなかった。そのくらいはミムラも理解していたので、魔法の制御には細心の注意を払っていたのだ。


 ちなみに、「なら最初から魔法なんて使わなければいいのに」という言葉は、思い浮かんでも誰も口にしない。誰しも引けないときがあるということをわかっているのだ……まあそれがさっきだったのかは別の話だが。


「そ、そんなことよりスタン! 私は約束を守った。次はスタンの番!」


「お、おぅ? そうであったな。どういうものがいいか……」


 と、そこでミムラがやや強引に話題を変えつつ、スタンの隣にスッと移動してくる。自分が魔法を見せる代わりに、スタンの不思議な力も見せてもらうという約束をしていたのだ。


 無論、ファラオは約束を破らない。スタンは仮面の顎の部分に手を当て、ほんの少しだけ考える。


「先ほどのこともあるし、あまり騒がしい力はやめておいた方がよさそうだな。ではれば……ファラオライト!」


 スタンがそう口にした瞬間、仮面の目の部分からカッと光が放たれた。昼日中なのでわかりづらいが、それでも屋根や壁がある分だけ暗い馬車の内部を、ファラオの光が明るく照らし出す。


「目が光った!? でもそれじゃ、スタンも眩しくて何も見えないんじゃ?」


「いや、眩しくはない。普通に見えるぞ」


「何で? どういう仕組み?」


 食いついてくるミムラに、スタンは親指を人差し指で丸いわっかを作って説明する。


「これが仮面の目の部分だとすると、ここから光が外側に向かってだけ放たれているのだ。おおよそ晴れた日の平地と同じくらいの明るさになるように調整されておるから、余の目からも普通に見えるのだ」


「へー、便利だね! ねえミムラ、こういうのってすっぽり被る兜とかに付与できないの? そしたら夜の活動が楽そうだけど」


「兜の目の部分に髪の毛一本分の段差をつけて、そこから光を発するようにするとかすれば、できなくはない。でも加工に凄くお金がかかるし、狭い場所に強い光を発生させないとだから大量の魔力も消費するようになる。


 そんなことするくらいなら兜全体を光らせちゃった方がよっぽど早くて安上がりだし……それでいいならもう普通に<灯火(ルーメン)>の魔法を使っても同じ」


「あー、そりゃそうだね。ねえねえスタン君、もっと他に面白そうな効果ってないの?」


 ミムラの説明を受けたシーナが、頷きながらもスタンに問いかけてくる。それを受けてスタンは再び考え込むと、わずかな沈黙の後に口を開く。


「面白そう、か……では、こういうのはどうだ? <王の手中に(ファラオ)収まらぬもの無し(ハンド)>!」


 瞬間、スタンの仮面の下部分の隙間から、青白く光る半透明の手が一本ニュルリと伸びていく。するとそれを見たシーナ達は、それぞれ違う意味で悲鳴をあげた。


「うわっ、何これ!? ゴースト!?」


「幻影魔法? びっくりはしたけど、でもこれくらいは……」


「ふふふ、幻影ではないぞ? 見ておれ」


 そう言うと、スタンは腰の鞄から銅貨を取り出して宙にはじく。すると即座にファラオハンドがそれをさっとつかみ取ると、グッと親指を立ててみせた。


「……えっ、嘘。物理的に干渉した!?」


「そういうことだ。ほれ、こんなこともできるぞ」


 スタンはそのままファラオハンドを動かし、呆気にとられるミムラの手のなかに銅貨を落とすと、その頭を優しく撫でた。すると我に返ったミムラがファラオハンドをがっしりと掴み、己の手でその感触を確かめる。


「実体がある……!? そんな、あり得ない!」


「む? あり得ないとは穏やかではないが……魔法では同じようなことはできぬのか?」


「無理。魔法はあくまで、魔力を用いて現象を引き起こすだけ。魔力そのものには重さも固さないから、それを集めて形にするなんて不可能」


「え、そうなの? でもほら、伝説の勇者が光の剣で魔王をズバーッとやるお話とかなかった?」


 シーナの言葉に、ミムラがジト目を向ける。


「それは子供向けのお伽噺。目が潰れるほどの光だって触ることなんてできない。そんなものをどうやって剣の形にするの?」


「そこはほら……何かいい感じに? って、何よその目!」


「別に。シーナは凄くシーナだなって思っただけ。それよりスタン、これはどうやってるの? どういう術式?」


 とても残念な目でシーナを見つめたミムラが、スタンの方に向き直るとそう問いかける。するとスタンはファラオハンドの発動を止め、仮面の隙間から小さな石のようなものを取り出した。


「術式とやらがこれにも刻まれているのかはわからんが、<王の手中に(ファラオ)収まらぬもの無し(ハンド)>を発動させているのはこの魂装具だ」


 それは厚さ一ミリほどの菱形の石板が何枚も重ねられた形をしている魂装具であった。スタンが手にしたそれを、ミムラは鼻息がかかるほどに顔を近づけ、穴が開くほどじっくりと見つめてくる。


「こんな小さい魔導具に、あんなことができる術式が刻まれてる? うぅ、調べたい……ねえスタン、これ売ってくれたりは……」


「それは流石に無理だな。何だ、魂装具に興味があるのか?」


「ある! 凄くある! あとこれを動かしてるソウルパワー? とか言うのも調べたい。あんな手が作れるなら、きっと魔力とは全然違う力」


「そうなのか。ふむ……であれば、これを進呈しよう」


 <王の手中に(ファラオ)収まらぬもの無し(ハンド)>の魂装具を<王の宝庫に(ファラオ)入らぬもの無し(バンク)>にしまい込んだスタンが、代わりにミニファラオ君を取り出してミムラに渡す。


「これはミニファラオ君と言ってな、体から漏れ出すソウルパワーを集める効果がある。ソウルパワーのことを知りたいというのであれば、むしろこちらの方が調べ甲斐があるのではないか?」


「ふぉぉぉぉ!? ほ、欲しい! 凄く欲しいけど……」


 受け取ったミニファラオ君に大興奮するミムラだったが、ローブの内側に手を突っ込むと、そこにあった財布の感触に顔をしかめる。


「私今、あんまりお金持ってない……ツケとか…………?」


「ミムラー、それは無理だって! たまたま同じ馬車に乗り合わせただけの人に、ツケ払いは通らないでしょ」


 さっき馬鹿にされたお返しとばかりに、シーナが呆れた声で言う。その正論の完璧っぷりに、流石のミムラも言い返せない。


「ぐぬぬ、シーナのくせにまっとうなことを……でもじゃあ、どうすれば? シーナがお金貸してくれる?」


「私だって貸せるほどは持ってないよー。でも相手はスタン君なんだから、いっそミムラが体で払うとかは……痛い!?」


 シーナの言葉が終わるより早く、ミムラがシーナの頭をベチコーンとひっぱたく。だがぎゅっと歯を食いしばったミムラは、軽く涙目になりながら上目遣いでスタンを見つめる。


「シーナは本当に馬鹿! で、でも、スタンがどうしてもって言うなら……」


「あー、いや、別に金など取らぬぞ? 少し前にも大量に配り歩いたもの故、遠慮せずに受け取ってくれ」


「…………あー、そう。えっと……ありがとう」


 平然と答えるスタンに、ミムラはほっと胸をなで下ろし……だが心の奥底で少しだけ残念に思ってしまったことを、周囲に悟られないように必死で押し殺すのだった。

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