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黄金の冒険者 ~偉大なるファラオ、異代に目覚める~  作者: 日之浦 拓


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偉大なる呼称

「さあ皆の者、始めるぞ!」


「「「ウォォォォォォォォ!!!」」」


 スタン達がデブラック領へやってきてから、三ヶ月。その日領都デーブラは、異常なまでの熱気に包まれていた。元々六〇〇人ほどしか住んでいなかった閑散たる町に一〇〇〇人を超える住人が詰めかけ、これからスタンが行うことを今か今かと待ち構えている。


「フフフ、楽しみですなベルトナン伯爵様」


「あ、ああ。そうだな、デブラック男爵」


 そんな民衆の中には、デブラック男爵に加え、隣領からやってきたベルトナン伯爵の姿もある。自領に入ってくる流民がいなくなったどころか、空前の好景気に沸くデブラック領へ出稼ぎに向かう者まで現れ始めたことから、視察にやってきたのだ。


(何だこの熱気は? 一体この領地で何が……スタン君は何をしたというのだ!?)


 ここに来る前に立ち寄った村は、規模は小さいながらも豊かな実りを湛えた畑が幾つもあり、更には自ら開墾すればそこを農地として使ってもよいという、以前のデブラック男爵ならばあり得ない好待遇を約束されたこともあり、額に汗して大地を耕す者が沢山いた。


 そこから領都に至る道も綺麗に舗装されており、定期的に清掃まで為されているという。それは領都内部も同じで、市場には活気が溢れ、食料などの必需品は勿論、装飾品や芸術品などの、生活に余裕がなければ売れない物が飛ぶように売れている。


 全ては八割から四割までいきなり減った税金と、スタンのもたらした様々な改革のおかげ。勢いよく回る金が領民全ての腹を満たし、懐を潤し、心を弾ませているのだ。


 そしてそんな民衆達が、今はややくたびれた無人の建物の周囲に、ギュウギュウ詰めになる勢いで集まっている。元は聖光教会の支部だったのだが、古くなったそれを改修するのではなく、管理費削減のためにもっとこぢんまりした教会を別の場所に作ったため、ここ二〇年ほど放置されていた建物である。


 その敷地の四方頂点には、上部が小さな人の頭蓋骨を模した形となっている水晶の杭が打ち込まれ、建物正面にはスタンが立っている。その黄金の仮面が準備万端とばかりに頷くと、近くにいたアイシャが大きな声を張り上げた。


「みんなー! ミニファラオ君は持ったー?」


「「「オーッ!」」」


「よーし、それじゃいくわよー! せーのっ!」


「「「ファラオ様の!」」」


「「「ちょっと偉大な(いい)とこ見てみたい!」」」


「崇めよ三文字!」


「「「ファ! ファ! ファ!」」」


「讃えよ三文字!」


「「「ラ! ラ! ラ!」」」


「拝めよ三文字!」


「「「オ! オ! オ!」」」


「「「ファラオ! ファラオ! ファラオ! ファラオ! ファラオ! ファラオ! ファラオ! ファラオ!」」」


 アイシャの合いの手に合わせて、周囲の民衆から熱烈なファラオコールが巻き起こる。それに合わせて四方の水晶ドクロの目がピカッと光り、大きな神殿の建物が青白い光に溶けるように包まれていき……


「ファラオの偉業、その目に焼き付けるがいい! <王の改革に(ファラオ)留まること無し(イノベーション)>!」


 その宣言と共に、スタンが手にしていた実物大の水晶ドクロの目がピカッと光り、光に包まれていた古びた神殿が溶けるように形を変えると、まるでタマネギのような不思議な形の屋根をした、宮殿風の建物に生まれ変わった。


「余、竣工!」


「「「ワァァァァァァァァ!!!」」」


 大きく両腕を広げ、天を仰いで宣言するスタンに、民衆達から拍手喝采が巻き起こる。だがそれを目の当たりにしたベルトナン伯爵はそれどころではない。


(な、何だ今のは!? 私は一体何を見せられたのだ!?)


 土系統の魔法を使えば、ちょっとした壁を作ったり、あるいは穴を掘ったりすることくらいはできる。また魔法が使えなくても、そういう土木工事用の魔導具というのは珍しいが存在する。


 が、幅一〇メートル、奥行き二〇メートル、高さ一〇メートルもあるような建造物を一瞬で作り替える力など、伯爵の……いや、この世界の常識のなかには存在しない。そんなあり得ざる光景を見せつけられて混乱しないのは、如何に貴族として様々な局面に立ち会った伯爵であっても不可能であった。


「デ、デブラック男爵!? 今のは――」


「ふふふ、どうであったかな、二人とも。楽しまれたか?」


 それでも何とか伯爵が男爵に声をかけようとすると、そこに一仕事終えたスタンがやってきて声をかける。本来ならば貴族同士の会話に割って入るなど不敬の極みなのだが、それを強く気にするはずのデブラック男爵が満面の笑みを浮かべて答える。


「ファラオ殿! ええ、堪能しましたぞ! 実に素晴らしい建造物ですな!」


「ハハハ、男爵殿の財となる建物であるからな。少し頑張ったのだ」


「それはそれは……ちなみにこれは、どういう物なのですかな?」


「うむ。これは皆の持つミニファラオ君の力を集積し、領内に還元するための施設だ。これが稼働している限り、男爵殿の領地(いえ)は豊穣が約束される。あとで手入れの方法を記しておくから、男爵殿が適切な者を選んで管理を任せるといいだろう」


「なんと! 流石はファラオ殿だ! この礼はいつか必ず……そうですな、ワシの邸宅(・・)にファラオ殿の黄金像でも建てて報いましょうぞ!」


「それは豪気だな! ならば男爵殿の愛でる芸術品の一つとなるのを、楽しみにしておこう」


「ええ、ええ、お楽しみに。ではファラオ殿、それに伯爵様。ワシはこの後領民(どうぐ)の手入れがありますので、お先に失礼させていただきます」


「そ、そうか。ではまた夜に邸宅の方に寄らせてもらおう」


「うむ! では、またである!」


 ペコリと一礼して、デブラック男爵が早足にその場を去って行く。そうして残されたスタンは、未だ呆気にとられている伯爵に徐に声をかけた。


「どうされたのだ、伯爵殿? 先程から随分と落ち着かぬ様子だが?」


「い、いや、そんなことは…………」


「そうか? ならばいいが……ふむ、いい機会であるし、聞いておこう。なあ伯爵殿、余が伯爵殿から受けた依頼は、これで達成ということでいいのか?」


「い、依頼!?」


 スタンの言葉に、伯爵は一瞬考えてから、自分がスタンに「この領地を何とかしてみせろ」と頼んだことを思い出す。だがそんな伯爵が口を開くより先に、スタンが静かに言葉を続ける。


「そうだ。男爵殿の人となりが変わったわけではないが、これだけ領地が富めば、もはや伯爵領に迷惑をかけることもあるまい。まあ隣の領地が急発展したことで生じる問題はあるかも知れぬが、それは余の受けた依頼とは関係ないからな」


「そ、そう、だな」


 その言葉を、伯爵は肯定するしかない。実際には貧しい領地から民が流入してくることより、豊かな領地へと民が流出してしまうことの方がずっと大きく、対処の難しい問題なのだが、それを指摘するのは己が領主として無能だと告げるようなものなのだから、できるはずもない。


「確かに……確かに君は、私の依頼を完全な形で達成してくれた。そのことには感謝しよう。しかし……」


 伯爵の想定では、スタンは実家(・・)の力を借りて、男爵の断罪と男爵領の改善をするはずであった。その際の人の流れを調べることでスタンから繋がっている人脈を探ることこそが伯爵の本当の目的であり、男爵領に困っているなどというのは口実に過ぎない。


 しかし伯爵が調べた限り、スタンに接触する貴族は……それどころか平民や商人ですらいなかった。スタンは本当に自分だけで、しかもたった三ヶ月で男爵領を改革してしまったのである。もし自分が同じ事をしようと思えば、男爵を排したうえで巨額の資金と何十人もの人員を投入し、数年かけて民心を掴む必要があっただろう。


「……なあ、スタン君。君は一体何者だ?」


 まるで建国王のような偉業を平然と為し、目の前に立つ仮面の男。眩しくも訝しいその存在を前に、伯爵は思わずそう問いかける。するとスタンは楽しげに仮面を揺らして笑いながら答える。


「ハッハッハ! 余が何者かなど、既に名乗ったではないか! そして余が名乗らずとも、周囲の民が呼んでいる!」


 辺りに集まった住民達は、未だ興奮冷めやらぬ様子で話を続けている。その口に上るのは、自分達の生活全てを変えた偉大なる呼称。その響きを全身に受けながら、スタンは仮面を太陽の如く輝かせて名乗る。


「余はイン・スタン・トゥ・ラーメン・サンプーン! 余は……ファラオである!」

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>建物正面にはスタンが建っている。 スタンの黄金像が建ってるのかと悩んだけど 偉大なファラオは立つだけでも仰々しく建って見える?
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