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黄金の冒険者 ~偉大なるファラオ、異代に目覚める~  作者: 日之浦 拓


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演芸祭

 全く予想外の展開により真なる龍と出会い、おまけにサンプーン王国の始まりと終わりの話まで聞いてしまったスタンとアイシャ。それでも旅の目的が変わるわけではなく、その日もまた新たな町に辿り着いた二人は、賑やかな大通りにて周囲を見回していた。


「この町はまた、随分と活気があるな」


「そうね。何かのお祭りかしら?」


「祭りか……確かにそんな雰囲気だな」


 町のあちこちに張られた縄には色とりどりの布が巻き付けられており、行き交う人々には活気が溢れ、酒場では昼間から笑いながら酒を飲んでいる者もいる。その浮かれた感じは確かに祭りだろうと思われ、スタン達は心地よい雰囲気を楽しみながらひとまず冒険者ギルドへと向かった。


「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「余はD級冒険者のイン・スタン・トゥ・ラーメン・サンプーンで、こちらは連れで同じくD級のアイシャだ。ついさっき町に着いたばかりなのだが、この賑やかさは何かあるのか?」


「おや、知らずにやってきたんですか? だったらすっごく幸運ですね。ここレブナックの町では、五年に一度『演芸祭』というのをやっているんです」


「ほう、演芸祭?」


「はい! 世界中……は流石に言い過ぎですけど、色んなところからこの町に芸人さんがやってきて、一月に渡ってここで芸を披露してくれるんです。有名な劇団なんかも来ますし、毎回大賑わいなんですよ!」


「何それ、楽しそう! ねえスタン、アタシ達も見に行きましょうよ!」


「ん? そうだな。せっかくいい時に来たというのなら、それを見ずに通り過ぎるのは無粋というものか」


「是非楽しんでいってください。それと演芸祭の間は警備や人員整理、果ては町のゴミ拾いまで幅広い依頼が多数出ておりますので、よければそちらも受注していただけると助かります。ご祝儀相場ですから、E級やD級の冒険者さんには人気があるんですよ」


「ははは、わかった。そちらも検討しておこう」


 さりげなく営業を混ぜてくる受付嬢に笑顔でそう告げると、スタン達は依頼を受けることなく冒険者ギルドを後にし、人の流れに沿って再び通りを歩き始めた。

すると程なくして派手な見た目のアーチがあり、そこを通り過ぎた先にあった光景に、アイシャが思わず感嘆の声をあげる。


「うわー!!!」


 蜘蛛の巣のように張り巡らされた通路の脇には無数の屋台や天幕が立ち並び、それらの先にある舞台では歌劇、演劇、雑技など、様々な芸人達がその技を披露している。そこに集まった観客は誰もが目を輝かせて歓声をあげており、老弱男女問わず皆が皆笑顔を溢れさせていた。


「凄い凄い凄い! ねえスタン、凄いわよここ!」


「確かに、これは凄いな」


 サンプーン王国時代であればもっと凄い祭りを経験したこともあるスタンだが、この時代に目覚めてからはこれほどの人を見るのは初めてだ。酔いそうになるほどの熱気に釣られたアイシャは早くも興奮しており、スタンもまた知らず仮面の艶が増す。


「何処? 何処から見て回るのがいいの!? いい感じの鑑賞ルートとかあるの!?」


「それはわからんが、一月も祭りが続くというのなら、ゆっくり全部を見て回ればいいのではないか?」


「それもそうね。ならあっちから行きましょ! ほら、早く!」


「わかったわかった。そう急くでない」


 テンション高く手を引っ張るアイシャに、スタンは苦笑しながらついて行く。と言っても見所はそこかしこにあり、すぐに二人は足を止めることになる。


「はい! はい! はい! はい!」


 スタン達を含む何人もの観客の前で、玉の上に乗った道化師の男が、ふらふらしながらナイフを宙空に放り投げてジャグリングをしていく。その数が一〇本になり、もはや目で追うのもやっととなったところで、不意に男がぐらりと体勢を崩した。そのまま地面に倒れ込むと、道化師の男に空からナイフが降り注ぐ。


「あっ!?」


「危ない!」


「おおっとぉ……はいはいはいはい!」


 誰かが、あるいは誰もが声をあげて注目するなか、道化師の男はさっきまで自分が乗っていた玉を足で掴み、そのままひょいと上に向ける。するとそこにドスドスとナイフが刺さっていき、一〇本全てが刺さったところで玉を蹴り上げ、自分もスッと立ち上がり……


「はーい、完成!」


「「ワァァァァァァァァ!」」


 男が受け止めた玉には、刺さったナイフがギリギリ顔に見えなくもない感じに並んでいた。一礼する道化師の男に、観客から惜しみない拍手が送られる。


「はー、凄いもんねぇ。でも顔の形にしたいなら、もうちょっとナイフの数が欲しかったわよね」


「ふむ、そうだな。確かに倍あればもっとはっきりわかるようにはなっただろうが……」


「おっと、こいつは手厳しい! でもそんなことしたら、本当に受け止めきれなくてオイラの顔が穴だらけになっちゃうぜ!」


 何気なく感想を漏らした二人に、道化師の男がおどけた調子で声をかけてくる。


「あ、すみません! 別に批判したいわけじゃなくて、そうだったらもっと凄かったかなって……」


「不快にさせてしまっただろうか? すまぬ」


「ハッハッハ、まさかまさか! オイラの師匠は二〇本でやれたんだけど、オイラはまだまだ未熟者だからね。五年後にはせめて一五本でやれるようになってるから、その時を楽しみにしててよ!」


「はい! 期待させてもらいますね!」


「やったー! 固定ファンゲットー! オイラ最高! ハッピーハッピー!」


 アイシャの言葉に、道化師の男がそう言って笑いながら手早く片付けをして道を外れ、天幕の並ぶ方へと移動していく。その姿を見送って少し進めば、そこでもまた別の催しが行われている。


「はーい! こちらは演劇体験会をやってまーす!」


「ん? 体験会?」


「お、興味がありますか? てかお兄さん……ですよね? 仮面なんか被っちゃって、演芸祭を満喫しまくってますね?」


「ぬおっ!? いや、この仮面は、別に祭りだから被っているわけではないのだが……」


「またまたー! いいんですよ、お祭りなんだから浮かれちゃっても!」


「ぬぅ……」


 軽い口調でそう言われ、スタンが何とも言えない声を出す。するとそんなスタンをそのままに、アイシャが勧誘をしている女性に声をかけた。


「あー、コイツは年がら年中浮かれてるんで、ほっといてください。それより体験会って、何をやるんですか?」


「ファラッ!? 誰が浮かれておるだと!?」


「体験会は、言葉の通りお芝居の体験をしてもらう感じです。プロの劇団員がサポートするので、気楽に役者気分を堪能してもらおうって企画ですね。悪党をやっつける勇者になったり、お姫様になって素敵な騎士様にお姫様抱っこされたり、色んな体験できますよ?」


「へー。面白そうね! ねえスタン、どう? 何かやってみない?」


「ぐぬ……そちがやりたいというのであれば、余は構わんぞ」


「やったー! なら二人分お願いできますか?」


「む!? 待て、余もやるのか!?」


「お祭りなんだから、二人で楽しまなきゃ損でしょ? ほら、ファラオなんだから覚悟決めなさい!」


「ぐぬっ!? ファラオだからと言われては引けぬ。よかろう、余の華麗なるファラオアクティングを見せてくれようではないか!」


「ほほーう? 言うじゃない。ならどっちが上手に演技できるか勝負ね」


「受けて立とう! では二人分で頼む」


「はーい! お二人様、ごあんなーい!」


 いつもより何となく押しが強い感じのするアイシャに流され、スタンはこうしてアイシャと共に、演劇体験会に参加することとなった。

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