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黄金の冒険者 ~偉大なるファラオ、異代に目覚める~  作者: 日之浦 拓


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天龍の試練

「なっ!? あっ!? えっ、あぁぁ!?」


 腰まで伸びた美しい緑の髪と、無邪気に自分を見上げてくる翡翠のような瞳をした、全裸の幼女。突然現れたその存在に、ライバールがひたすらに戸惑いの声をあげる。


 そんななか、ある種他人事であったが故に、スタン達はいくらか落ち着いて……あくまでもライバールと相対してではあるが……彼の者達に声をかける。


「えっ、ミドリちゃんが人間になった!?」


「アコンカグヤ殿、これは一体……!?」


「どうやらミドリは、彼のことが気に入ったようですね。別れてから再会などという面倒なことをするよりも、今の彼を自分に取り込みたいと考えたようです」


「あー。まあ女の子には、さっきのライバールの言葉は刺さらないわよねぇ。ねーミドリちゃん?」


「キュー!」


 アコンカグヤの言葉に、人間になったミドリのほっぺたをモチモチしながらアイシャが苦笑する。男同士なら胸に来る「強くなって再会」というシチュエーションも、幼い女の子であるミドリには響かなかったのだ。


「取り込むって……え、俺ミドリに喰われちまうのか!? それは嫌だぞ!?」


「キュー?」


「うぐっ!? だ、駄目だ駄目だ! いくら何でも、お前に喰われて死ぬのは嫌だって!」


「ああ、その心配はありません。確かに他者を取り込むのに最も効率がよいのはその血肉を喰らうことですが、別に食べなければ取り込めないわけではありませんからね」


「そ、そうなのか?」


「はい。ミドリにも貴方を喰う気はないようです」


「そ、そっか。ならまあ、とりあえずよかった……」


 目をかけたドラゴンの子供にまさか喰われそうになったのでは、あまりにも救いがない。アコンカグヤの言葉にライバールがホッと胸をなで下ろすが、その安寧はほんの一瞬で打ち砕かれることとなる。


「要は相手の因子を体内に取り込めばいいわけなので……一番手っ取り早いのは、交尾してしまうことでしょうか」


「うえっ!? こ、こう……えぇ!?」


「ライバール、アンタまさか……?」


「し、しねーよ! んなことするわけねーだろうが!」


 思いっきりアイシャに睨まれ、ライバールが焦りを重ねた声で抗議する。年相応に性欲のあるライバールではあったが、流石に無垢な幼女に興奮するような変態や外道の類いではない。


「そもそも俺は、もっとこう、ボインボインのねーちゃんが好きなんだ! こんなガキに興奮するわけ――」


「キュー……」


「あ、いや、別にミドリが嫌いとか、そういうことじゃねーよ? そうじゃねーけど、そこはほら、色々と……」


「ふむ。つまり見た目が問題ということですか? なら……クァァァァ」


「キュー?」


 小首を傾げたアコンカグヤが、ミドリとクァクァキューキューと会話を続ける。そうして数分後、アコンカグヤがミドリに頭に手を置いてクァァと声をあげると、ミドリの体が再びピカッと光り、ミドリの体が一八歳くらいの巨乳美女に成長した。


「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?」


「ふぅ。このくらいでどうですか? ヒトの感性はよくわかりませんが、不自然でない程度に大きくしてみましたが」


「あっ、いや、これ、は…………」


「キュー!」


「ふぁっ!? ちょっ、まっ!?」


 改めて抱きついてきた大人ミドリに、ライバールがあからさまに狼狽する。外見もスタイルも、ライバールの好みに直撃だったのだ。


「どうやら問題ないようですね。では――」


「ふっざけんな! 問題しかねーよ! てかミドリ、お前一緒に来るつもりなのか!? せっかく母ちゃんと会えたのに?」


 それでも鋼の意思でミドリを引き剥がして問うライバールに、しかしミドリは不思議そうに首を傾げてから答える。


「キュー!」


「再会できたという事実を以て、ミドリは満足したようです」


「なるほど。母親がいるかいないかわからないのが不安だったのであって、いるとわかればそれでいいということか」


「いやいやいやいや、それでいいのか!?」


「何言ってんのよライバール。アタシだってアンタだって、家を出て冒険者やってるでしょ? 最後に家に帰ってお母さんに会ったの、いつ?」


「それは……」


 そう言われてしまうと、ライバールも一五歳で家を出てから一度も実家に帰ってはいない。大怪我をするとか結婚して子供ができるとか、何らかのきっかけがなければ、きっとずっと帰らないだろうとも思う。


 つまり、母が健在であればそれでいいという気持ちは自分のなかにもあるため、それを否定するのは難しい。


「で、でも! アコンカグヤさんはいいのか!? 三〇〇年ぶりに娘に再会できたんだろ!?」


「問題ありません。こうして存在を確認できた以上、再び『歪み』に捕らわれでもしなければ、私がミドリを再び見失うことは絶対にありません。そうである以上会おうと思えばいつでも会えるのですから、別にずっと一緒にいる必要はありませんよ」


「……俺、冒険者だから、危ねーことだってあるぜ? ミドリのことを守り切れるなんて言えねーよ? そもそもさっきだって、ミドリを狙ってた奴らに割と追い込まれてたし……」


「そこは未来の勇者(・・・・・)に期待ですね。ならその子を守ることを、私に挑むための試練の一つとしましょうか」


「んな無茶苦茶な……」


「天龍に挑む試練に、無茶でないものなど一つとしてありませんよ? 雲上列島ウカンディールで月の光を集めたり、灼熱の地下世界ニエタギルドで炎の巨人モエサカルの心臓を取ってきたりする方がいいですか?」


「……マジで?」


 雲上列島も地下世界も、伝説の中に語られるだけ(・・)の存在だ。さも当たり前のようにそこに行けと言われ、しかもそれが単なる前提でしかないという辺りが、真なるドラゴンに挑むハードルの高さを如実に物語っていた。


(勝負、しときゃよかったかな? いやでも、そしたら確実に死んでたしなぁ)


「キュー?」


「あーもう! わかったわかった! 連れてってやるよ!」


「キュー!」


「おふっ!?」


 遂に折れたライバールがそう言うと、色々な意味ですっかり大きくなったミドリがライバールの頭を抱きしめた。豊満な胸に顔を埋めたライバールの表情が途端にデレッとしたものになり、それを見たアイシャが訝しげな目をライバールに向ける。


「ライバール、アンタやっぱり……」


「ち、ちがっ!? いいかミドリ! 連れて行くのは連れてってやるけど、そういうのはなしだ! いいな!」


「キュー?」


「何故ですか? ミドリはヒトのメス……女として魅力的な体つきになったはずですが?」


「そういうことじゃなくて! もっとこう、本人の意思っていうか……とにかく、もっと大人になってからってことだ! いいな?」


「キュー……キュッ!」


「よーしよしよし! 流石はミドリ、聞き分けのいい子は好きだぞ!」


「キュー!」


「むほっ!」


 喜ぶミドリに抱きつかれ、再びライバールの表情が崩れる。そのだらしない様相は、とても天龍に立ち向かう勇者のものとは思えない。


「ねえライバール。次会った時にもしアンタがミドリちゃんに手を出してたら、アタシアンタとは一生口きかないからね?」


「出さねーよ! 多分……」


「アンタ――」


「ははは、よいではないかアイシャよ。人の姿をしていても、ミドリは紛れもなくドラゴンなのだ。ならば人の倫理観を押しつけるのは逆によくないのではないか?」


「スタンまで!? まあそれはそうなのかも知れないけど……」


「意思や考え方は尊重するものであって、押しつけてはいかん。それにライバールとて、ここまでして母に会わせたミドリを無碍に扱ったりはしないはずだ。ならば余達が今更何かを言わずとも大丈夫だ。そうだなライバールよ?」


「当たり前だ! 言われなくても変なことなんてしねーよ。もっと成長して、せめて普通に会話できるようになりゃ違ってくるかも知れねーけど、流石に今のミドリをどうこうなんてしたら、俺の良心が持たねーっての」


「ふふふ、そうだな。そちはそういう男だ」


「いいわよ、信じてあげるわ。でも……いいミドリちゃん? もしライバールが変なことを……あーでも、ミドリちゃんはそうしたいんだっけ? でも人間の常識を教えるのも違う? うぅぅ、頭が……!?」


「そう難しく考えずとも、それを判断する知識と一緒にならば、常識を教えることに問題はないと思うぞ」


「ああ、俺もそう思う。てか、何なら普通の女の常識みてーなのを教えてやってくれよ。その辺は俺じゃどうしようもねーし」


「そうね。じゃあその辺はアタシが頑張っとくわ。戦闘じゃ足手まといになっちゃったしね」


「む、それは……」


「いいのよ、事実なんだから。それじゃまずは……」


 そうして始まる、アイシャの常識講座。それをミドリは勿論、何故かスタンやライバールも真剣な表情で聞き始め……そんな人とドラゴンの在り方を、アコンカグヤはとても懐かしそうな目で見つめるのだった。

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