8話 原心定罪
青白い光が収まると、白銀に染まる空間が広がっていた。
だが、白銀の空間以上に壮大な星空の景色が窓から覗かせていた。
漆黒で塗りつぶされた空間に星光が幾つも散りばめられている。
「ここは、どこだ……?」
<……ここは『星穹殿堂』。“輪廻神”ユニヴェールが、世界中の情報を集めるために使用している機械です>
声を発した少女の周囲には、複数の青い光を放つ画面が展開されていた。
それらに触れ、何かしらの操作をしたと理解した瞬間、空間に異常が生じた。
立っている床が蒼光を帯びながら上昇し、俺と少女の間に一瞬で台座が構築された。
台座からは蒼光を放つ球体が出現し、鋼の輪が何重にも層になって回転している。
「渾天儀、なのか……?」
<はい。この渾天儀───『星越刻機』が、世界中の情報を受信する装置となります。受信と言っても、生物の脳波に干渉して情報を複製し、この装置に記録してるのですが>
少女が俺の呟きに頷き、俺に説明しながら装置に近づいた。
俺はここまでの話を聞いていて、1つだけ疑問に思っていることがある。
少女が俺をここに呼んだ理由が全くもってわからない。
「……1つだけ、質問してもいいか?」
<『創造主』、私如きに気を遣わないでください。私は御身の下僕、御身を縛る規則など、この世界には存在していないのですから。自由に、発言していただきたく思います>
「そう、か。なら……そうさせてもらう」
今までの会話からわかったことは、2つしかない。
この少女が俺をマスターと呼び、理由は知らないが信頼しているということ。
つまり、記憶喪失以前の俺と面識があるということの証明だ。
それほどの信頼を失うわけにはいかない、発言には気をつけなければ。
「俺をここに呼んだ理由はなんだ?」
<やはり、そのことですか。承知しました、説明させていただきます>
少女の指先に青い光を放つ画面に触れ、片手で操作した。
すると一瞬で周囲の光を消失し、視界が幻想的な夜空に覆われた。
その瞬間、正面に巨大な画面が出現すると同時に起動した。
「この骸骨は、ルフスが戦っていた骸骨……!!」
眼窩に蒼光を帯び、高貴な魔術師の風貌を醸し出している骸骨。
その姿が、巨大な画面に森を背景として映し出されていた。
<彼を殺した存在にどのような処罰を下すか、ということを我らは考えておりました。その結果、『創造主』に判断を委ねることが決まりました>
我ら、ということは複数人で考えた末での意見だ。
複数人で解決できないから、俺に助けを求めてきているということか。
過去の───いや、記憶喪失以前の俺はそれほどまでに信頼を寄せられていたんだな。
ならば、俺はその信頼に答えられるように努力しなければ。
「聞かせてくれ。それは故意のものか?」
<はい。そもそも彼は「死滅無効」を保有しているため、死ぬことはありません。そのため、加害者は本来ならば殺人になるところが殺人未遂に留まってしまっているのです。ですが、それは彼だから殺人未遂で済んでいるのです。それに「死滅無効」を突破するほどの攻撃、それが常人に振り翳されてしまえば……どうなるかは、火を見るよりも明らかです>
殺人という聞き慣れない言葉に驚いたが、顔に出さないように気をつける。
彼女は真面目に説明してくれていて、俺の一挙一動に気を遣っているのだろう。
ルフスが戦っていた骸骨のことで悩んでいるのに、これ以上心配事を増やすつもりはない。
だが、骸骨のことについて1つだけ気になることがある。
「骸骨はルフスと戦っていた時、正気じゃなかった気がするのだが。それについての説明を聞きたい」
<承知しました。『創造主』が仰っている骸骨ことソロモンについてですが、彼は「死滅無効」を持っている代わりに、致命傷に成り得る攻撃を受けたら「不死」の代償として「正気」を失ってしまうのです>
死なない代わりに正気を失ってしまう、そういうことか。
俺とルフスが遭遇したときの骸骨は一種の暴走状態にあったわけだ。
というか、骸骨を殺した存在に対する処遇を決めて欲しい的なことを言ってたよな。
殺人なら死罪かもしれないが、殺人未遂ならどう対処するべきなのか、か。
「そうだな。〘人間界〙で起こったことであれば、その世界の法律で加害者を取り締まることだ。それに、当時の加害者の精神状態も加味して判断するべきだ」
確かに俺は今、加害者に対する俺の意見を言った。
だが、俺のなかに俺の知らない知識があるのはなぜだ?
……睡眠の影響で、少しだけ記憶が戻ったのかもな。
<慈悲深き御身のお言葉、承知しました>
ニケと名乗った少女が微笑んだ瞬間、周囲の景色が崩れ去った。
幻想的な星空から、視界を埋め尽くさんばかりに咲き乱れている花畑へと。
少女の決意───
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