240話 死神の棺
騎士は、頭部の蒼炎を揺らめかせながら歩いてくる。
俺は動かずに相手の出方を窺いながら、魔力を練り始める。
すると騎士がピタリと止まり、錆びついた大剣を両手で握り掲げた。
『消エ失セヨ』
重厚感が増した騎士の声に警鐘が鳴り響く。
刹那、騎士の両腕が霞み、惣闇色の剣筋が視界に映った。
騎士は漆黒の大剣を、回避も許さぬ勢いで振り下ろす。
弧を描く漆黒は俺に当たることなく、俺の足元で静止した。
「目で捉えていれば、その軌道を読むことは容易い」
『ッ……!?』
俺は右足に力を込め、剣を踏みつける。
すると、泥沼に沈んでいくように剣がゆっくりと地面に減り込んでいく。
騎士の攻撃手段を減らすための行動だったが、上手くいった。
『嘗メルナァ!』
騎士は吠えると、剣を力強く握りしめた。
そして勢いよく振り上げる───が、僅かに震えるだけでちっとも動かない。
なのに、騎士は希望に縋るように剣を振り上げようと力を込め続けている。
俺は半歩下がり、短く息を吐いて魔力を足に蓄積させた。
「これが、現実だ」
俺は少しだけ声音を変えて、恐怖を煽る。
反論も、反撃も許すことなく俺は回し蹴りを繰り出す。
踵は大剣に直撃し、大気を震わせ、罅を入れ、内部から破壊する。
『ナッ、ナゼ───!!』
「簡単な話、地力の差だ」
『ッ……アリエテ、タマルカァアアア!!』
8割以上砕けた剣の柄を、激情のままに振り回す。
恐怖から目を背け、騎士は激怒することを選んだのだ。
まぁ、そうなるように仕組んだのは俺なんだが。
「動きが単調だぞ」
俺は軽口を言いながら、幾度も繰り出される洗練された剣技を避ける。
視界を埋め尽くすほどの剣閃、その軌道を先読みし躱し続ける。
その時、遥か上空に本来は感じるはずのないマーリンたちの気配を感じた。
『ソコダッ───!!』
「煩いぞ。あと、不意を突くなら黙ってやれ」
俺は振り下ろされた刃折れの大剣を指で挟み静止させる。
意識を集中させて、魔力波を広域に拡散させてみる。
「間違いじゃない……?」
<───テオス兄様、今すぐその場所から離れてください!>
唐突に脳内で響いたマーリンの声に驚いた瞬間。
騎士から挑発するような殺気が放たれ、俺は反射的に視線を騎士に移した。
そこには、剣を持つ手を離した騎士が俺に向かって手を翳していた。
『【歿滅葬棺】』
背後からガコンという鈍い音が聞こえ、反射的に振り返る。
そこには、禍々しく不気味な雰囲気を帯びた棺桶が聳え立っていた。
十字架の装飾が施された蓋が開かないようにするためなのか、白骨化した指が蓋を押さえている。
鍵の代わりをしていた指が徐々に離れていき、蓋がギギギと音を立てながら開く。
「こ、これは……!」
棺桶の蓋が全開すると、棺桶の中は不思議なことに空だった。
だが、可視化できるほどに濃密なドス黒い粘液のような「何か」が蔓延っている。
そう認識した時、俺を棺桶内に引きずり込もうと無数の手が一斉に伸びる。
刹那、俺の目は迫りくる手を阻むように落ちてきた物体を捉えた。
<『転移』>
その声が脳に響くと、地面に魔術紋が展開される。
俺は抵抗せずに、大人しく白光に呑まれることを選んだ。
だが、俺は白光の眩しさに耐えられず目を背けた。
* * *
上空を飛行する“撃滅機”内にて───
「う……」
俺が目を開けると、皆が俺を覗き込んでいた。
そのことに気恥ずかしさを感じ、俺は目を背けた。
<テオス様、ご安心ください。葬滅騎霊は“撃滅機”に常備されている誘導爆弾で『魂滅霊城』ごと爆破させましたので>
俺は一瞬、何を言われたのか理解できず固まった。
数秒後、ようやくガーゴイルの発言を整理して、その異常性に気づいた。
「どういうことだ……?」
<ご覧になったほうが、わかりやすいかと>
ガーゴイルの声が機内アナウンスのように響くと、半透明の画面に先程まで俺がいた場所が映し出された。
砕けた漆黒の大地が円状に広がり、それを囲むように淡く虹の煌めきを放つ大地。
それ以外の全てのものは存在しておらず、あの巨大な漆黒の城『魂滅霊城』ですら消失している。
「そんな馬鹿な……」
俺はただその光景を見て、愕然とすることしかできなかった。
全てを更地に変えるほどの破壊力を持つ代物が存在しているという事実に。
その威力、まさに核───
最後まで読んで頂きありがとうございます!
【報告】
11月28日〜12月28日まで、改稿に専念したいので休載します
1日1話改稿することを目標に12月の1ヶ月間、頑張ります!
新年からは連載再開しますので、それまで楽しみにしていただければ幸いです
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