236話 神を騙る傍観者
マーリンがキョロキョロと周囲を見渡しながら呟く。
「この地には、もう敵はいないはずですが……」
マーリンの声に呼応するように、空間が一瞬で闇に染まる。
闇に覆われて光がないのにも拘わらず、周囲を見渡せばリリスやマーリンの姿が見える。
不思議な感覚だ、まるで夜目が利くようになったみたいだ。
「この空間は一体なんだ? 魔力があるのに、光として視認できない」
「推測ですが、〘 禁戒幽獄〙の第8階層へ行くための通路かと」
俺の質問にリリスが答えた。
すると、魔力の濃度が高いところへ向かって歩み始める。
リリスに置いていかれないように俺も後に続いた。
マーリン達は少し反応が遅れたのか、早歩きでついてきた。
「そうなのか。歩いてるってことは、出口があるのか?」
「いえ、確実にあるとは言えません」
その声は俺の背後から聞こえた。
振り返ろうとすると、マーリンが俺の半歩前に出てきた。
マーリンは俺に歩幅を合わせながら続けた。
「ですが、この状況下に於いて、魔力濃度が高い場所というのは大きな意味がある」
「この先が第8階層に繋がっている可能性がある、ということです」
マーリンの言葉にリリスが付け加えた。
いや、この場合だと横取りしたというのが適切だろうか。
こんな状況だ、そんなことはどうだっていいな。
「可能性に賭けることで、彷徨うという選択をしなくて済む」
「……仰る通り」
沈黙を貫いていたヘンゼルが言葉を発した。
その時、漆黒の世界に白い亀裂が生じ、瞬く間に大きく広がっていく。
蜘蛛の巣のように一帯を埋め尽くした亀裂は、ガラスが砕け散るように崩壊する。
闇が破片になるのと同時に、純白の光が一帯を包み込んだ。
* * *
時は少し遡り、神帝城塞にて───
そこは樹木の匂いと微弱な魔力が漂う部屋。
雪のように白い床に対して、莫大な量の書籍を内包する黒い書棚。
至るところに設置された書棚の一角では、椅子に座って熟考していた。
が、いくら考えようとも思考がまとまらないと結論付けた。
「【全智神書】」
アリシアはスキルを用いて1冊の本を取り出し、目次を開く。
目次には神を含めた神人達の名が連なっている。
そこからある人物の名を告げると、頁がひとりでに捲られていく。
幾度となく頁が捲られた瞬間、ピタリと動きを止めた。
「やはり、そうだったのですね……」
アリシアはそこに書かれた内容を見て呟いた。
そこに書かれていたのは、数分前に発覚した『失踪事件』の犯人の記録。
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◆◇“運命神”ロキ=フォルトゥーナ◇◆
【影繋扉】を用いて、“夢想神”リリス=ヒュプノスに接触する
「貴方が、本当のロキではないことを知っている」とリリスに断言され、「“神滅禍竜”が顕現するまでは正体を明かすつもりはない」と返す
「ただでさえ、私達が『何者』であるかに気づいていないのに」というリリスの呟きに、「テオスの記憶はこの世界にきた時に消去されている」と伝える
悠々と帰ろうとしたが、リリスに懇願されたことで”神権“───渡界権を行使してテオス・リリス・マーリン・ヘンゼルの4名を〘冥獄界〙へ転送させた
それと同時に”神権“───萬掌権を行使して〘冥獄界〙に〔界淵層罅〕を発生させ、自身も〘冥獄界〙へ転移した
【隠蔽変装】を発動させて、テオス達の戦いをただ傍観し続けている
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アリシアは本を閉じると、光粒子となって消える。
数秒間の沈黙の後、勢いよく立ち上がって私に視線を向けた。
「イリスはどう思う?」
「放置でいいと思うけど、警戒は怠らないようにしないと」
「そうね。本当に、気をつけないと」
「あっ、そうだった。アリシアが考えていたときにクロトから連絡がきてたんだった」
「彼女はなんと?」
「えっと……『テオス様のことは任せてください。しっかり戦闘訓練を行なえるように、レア様に改築してもらいましたので!』と言っていました」
「…………そう」
アリシアは頭を押さえ、溜息を吐いた。
すると彼女は扉へ向かって優雅に歩いていく。
扉に手が触れて、扉を開けると「またね」と笑みを浮かべた。
バタンッと勢いよく扉が閉まり、一瞬にしてアリシアの気配が消え失せた。
そして、また『万解書庫』に静寂が訪れる。
神を騙る存在は、傍観し続ける───
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