233話 神の絶技
「───ここは〘冥獄界〙っていう認識でいいの?」
ヘンゼルが作ってくれた料理を完食し、少しだけ寛いでから皆に尋ねた。
すると、リリスが「半分正解……と言ったところですね」と頷いて歩いてきた。
リリスに続くように皆が、俺を中心に半円を描くように座った。
「正確には、〘冥獄界〙を完全に再現した場所と言ったほうがいいですね」
リリスの発言に対して、マーリンが補足説明をしてくれた。
すると、マーリンは笑顔で訊ねてきた。
「それを踏まえて、此処はどこだと推測されますか? テオス兄様」
どこだと推測するか、だと?
さっきマーリンは『完璧に再現された冥界』と言った。
だとすると、冥界ではないどこか。
冥界をも再現することのできる空間───
「あっ……そういうことか」
考えているうちに、少しずつ思い出してきた。
アリシアから教わったこの世界についてのことを。
「ここは〘 禁戒幽獄〙の7階層目だ」
「その通りです。流石はテオス兄様」
マーリンが言い終えると、リリスが「はいはいっ!」と挙げた手を横に振った。
俺は主張が強いなと思いながらもリリスに「どうした?」と尋ねると。
「『 深淵』に行くまでの間、戦闘は基本的にテオス様がしてください!」
「……え? どういうこと?」
俺は唐突の思わず聞き返してしまった。
それに対してリリス以外の全員が、睨むような視線を送っていた。
「何を考えているっ、フクシア!」
マーリンが怒鳴ると、ヘンゼルも大声をあげた。
「そうです! いくらなんでも───」
「おっと、その話は後にしましょう」
リリスは笑みを深めて、そう言った。
同時───頭が2つある漆黒の狼が姿を見せた。
その周囲には、淡く光を放ちながら浮遊する何かが複数いて。
『『グルルルル……』』
「なぜ、ここに冥双狂狼が……!?」
ヘンゼルが異様な姿の狼を見て驚愕する。
それに対して、体の一部が装甲で覆われた白金色の髪と碧眼が目立つ少女が呟いた。
「冥双狂狼がいた時に〘冥獄界〙が再現されていた、ということ……?」
その呟きにマーリンが反応し、焦りを隠しきれていない声が聞こえた。
「冥双狂狼が此処にいる経緯はどうだっていい! 〘 禁戒幽獄〙にいる以上、個としての意思はないのだからっ!」
冥双狂狼と呼ばれた狼の右足が僅かに力んだ瞬間、俺たちに向かって鉤爪が迫る。
だが不思議なことに、視認することすらできないであろう攻撃がゆっくりと動いて見える。
マーリンがこの緊急時に冗談など言うはずもない、ならば俺の視界に映っている漆黒の狼は意思なき猛獣という認識で間違ってないはずだ。
ここは皆に危険が及ばないように、少し離れたところで対応するとしよう。
「───邪魔だ、跳べ」
俺は迫り来る鉤爪を無視して、一瞬で距離を詰める。
狼の腹部に触れることのできる間合いに入り、蹴りを喰らわせる。
すると、転移でもしたかのように狼の姿が掻き消え、山の麓に肉体の8割以上を埋めていた。
俺は動く気配がない狼のところまで跳躍し、地面に降り立った瞬間。
『グオオオオオオッ───!!』
漆黒の岩石に埋もれた狼が咆哮した。
右側の狼の口膣から黒い霧が漏れるように流れ出始め、辺りを包み込んだ。
だが、その場所に俺の姿はなく───ただ霧を散布しただけだ。
「毒霧だな、アレは」
だが俺の記憶が正しいければ、この攻撃は漆黒の狼─── 冥双狂狼の事前攻撃でしかない。
本命の攻撃は、冥双狂狼の“種族能力”である【幽滅獄焔】による放火。
それは【壊毒咆哮】によって生じた黒い毒霧に引火して、一帯を巻き込むほどの大爆発を引き起こす。
いくら瞬時に危険と判断して、上空に跳躍したといっても数秒後には嫌でも着地してしまう。
「解放───<混沌全能>」
俺は魔力を解き放つことで毒霧に適応し、着地しようとも毒に侵されないように対策しておく。
俺の魔力性質に怖気付いた狼を見下ろして、大気を局所的に魔力で『物質』にした足場を蹴る。
冥双狂狼に向かって降下しながら、魔力を凝縮して剣を構築した瞬間───周囲に漂いながら淡く光っているものが目に入った。
俺は瞬時に幽霊だと理解し、その『霊質』を魔力で『物質』に変えて斬り伏せた。
そして、俺はそのまま体勢を崩すことなく着地して、漆黒の剣で冥双狂狼の心臓を貫いた。
『グ、アァ……!』
冥双狂狼は掠れた声をあげ、血飛沫を撒き散らす。
その苦しみを終わらせるべく、魔力を螺旋を描くように剣に集めて薙ぎ払う。
漆黒の剣は、虹色の弧を描き─── 冥双狂狼を細切れに斬り刻んだ。
総て等しく細切れに───
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