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【五章連載】ディオス・ウトピア 〜神々の王は平穏を望む〜  作者: 神威皇華
第五章 神威城塞編
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230話 一撃必殺


 嵌獣獅王(キマイラ)は最初から特異なる存在達に気づいていた。

 特異な魔力を内包する存在達の来訪に恐怖すると同時に期待した。

 蹂躙などではない戦闘ができるのではないか───と。


 「グルルルル……」


 嵌獣獅王(キマイラ)が唸ると、周囲に蔓延っていた亡者と亡霊が恐怖に支配され、波となって特異なる存在(もの)達に襲い掛かる。

 が、亡者は瞬く間に閃光の雨に打たれ───亡霊はその後、凍りついたように動かなくなった。


 「グルァ!?」


 上空から閃光の雨が放たれた瞬間、特異なる存在(もの)達の気配が消失した。

 突如として消えた存在(もの)達に驚愕を隠せない嵌獣獅王(キマイラ)、だが短時間で遠くには逃げるはずがないという確信があった。

 故に、嵌獣獅王(キマイラ)は【熾獄烈焔(フローガ)】による攻撃を行なったが───やはり特異なる存在(もの)達の姿はなく、炎上する漆黒の大地だけが存在していた。

 そう認識した瞬間だった、嵌獣獅王(キマイラ)が一定の範囲だけ炎上していない漆黒の大地を目にしたのは。


 「グォオオオオオオオ!!」


 嵌獣獅王(キマイラ)は全速力で駆け出し、大気を震わせる咆哮で───敵の動きを止める目的も含め───黒煙を吹き飛ばした。

 目を凝らし周囲を見渡しても尚、存在感が欠片もないことに嵌獣獅王(キマイラ)は疑問を抱く。

 暫くの間、炎上していない漆黒の大地を眺めていると、異常な殺気を全身に受け戦慄した。


 「───少しだけ、自我があるっぽい」 


 その呟きが聞こえると、嵌獣獅王(キマイラ)の眼前に突如として少女が現れた。

 橙に煌めく髪を靡かせながら、淡々と喋る無表情の少女───ヘンゼルが。

 容姿に似合わない圧倒的な威圧感に嵌獣獅王(キマイラ)は思わず後退してしまう。


 「そんなに怖がらないで。私は貴方を殺すつもりはないの」


 発言に反して、ヘンゼルが放つ威圧感は増してきている。

 脳内に警鐘が鳴り響いているというのに、嵌獣獅王(キマイラ)身体(からだ)は微動だにしない。

 それは恐怖によるものか、それとも王としての矜持によるものか───


 「“天寵廻剣(リサナウト)”」


 ヘンゼルの掌に光粒子(ポリゴン)が集まり、剣鉈(ボウイナイフ)と呼称される剣の形を成す。

 その瞬間、嵌獣獅王(キマイラ)の口膣が赤熱化すると、球状に圧縮された炎が現れた。

 ゴオオオオオオオオオッとヘンゼルの身体(からだ)を焼き焦がす───ことはなく、刹那のうちに炎塊が切り刻まれる。


 「弱者は強者によって蹂躙(ころ)され、弱者が群れを成せば逆に強者が蹂躙(ころ)される───《命喰環廻斬(ネルトゥス)》」


 剣から溢れる真紅の光から感じるのは生と死の力。

 それにより嵌獣獅王(キマイラ)の心情は、あの剣には斬られたくないという感情と、あの剣に斬られて力になりたいという感情に二分している。


 「グオォオオオオオオオッ!!」


 相反する感情との格闘の末に、強張った全身を鼓舞する為に咆哮をあげた。

 同時に爪撃を行なったが、ヘンゼルの顔に当たる寸前で静止した。


 「生の価値を認識する、最期の(とき)───」


 それは命ある存在(もの)を、自身もしくは他者の延命の為に殺す際の宣言。

 死の残酷さを知っている食事の管理者(ヘスティア)であるが故の、命を奪う相手への尊敬と感謝を込めた言葉。


 その刹那、自身を軸として垂直に剣を構え、嵌獣獅王(キマイラ)の首めがけて斬り払った。

 すると嵌獣獅王(キマイラ)は体勢を崩し、ズシンと音を立てて倒れる。

 その隣には、生気を失った嵌獣獅王(キマイラ)の頭部が、漆黒の大地を深紅で彩るように転がっている。


 「…………」


 ヘンゼルはその光景を目に焼き付けるように眺めた後、ゆっくりと嵌獣獅王(キマイラ)に近づいてしゃがみ込んだ。

 そして流れるように掌を合わせて、目を瞑ると───“天寵廻剣(リサナウト)”を見ても尚、生に執着し死に抗った勇敢な獅子に黙祷を捧げた。

 瞬く間に嵌獣獅王(キマイラ)肉体(からだ)は塵と成り、【迷宮創造(ラビュリントス)】によって造られた迷宮(ダンジョン)へと還元されていった。



勇敢な獅子、塵と成る───

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