230話 一撃必殺
嵌獣獅王は最初から特異なる存在達に気づいていた。
特異な魔力を内包する存在達の来訪に恐怖すると同時に期待した。
蹂躙などではない戦闘ができるのではないか───と。
「グルルルル……」
嵌獣獅王が唸ると、周囲に蔓延っていた亡者と亡霊が恐怖に支配され、波となって特異なる存在達に襲い掛かる。
が、亡者は瞬く間に閃光の雨に打たれ───亡霊はその後、凍りついたように動かなくなった。
「グルァ!?」
上空から閃光の雨が放たれた瞬間、特異なる存在達の気配が消失した。
突如として消えた存在達に驚愕を隠せない嵌獣獅王、だが短時間で遠くには逃げるはずがないという確信があった。
故に、嵌獣獅王は【熾獄烈焔】による攻撃を行なったが───やはり特異なる存在達の姿はなく、炎上する漆黒の大地だけが存在していた。
そう認識した瞬間だった、嵌獣獅王が一定の範囲だけ炎上していない漆黒の大地を目にしたのは。
「グォオオオオオオオ!!」
嵌獣獅王は全速力で駆け出し、大気を震わせる咆哮で───敵の動きを止める目的も含め───黒煙を吹き飛ばした。
目を凝らし周囲を見渡しても尚、存在感が欠片もないことに嵌獣獅王は疑問を抱く。
暫くの間、炎上していない漆黒の大地を眺めていると、異常な殺気を全身に受け戦慄した。
「───少しだけ、自我があるっぽい」
その呟きが聞こえると、嵌獣獅王の眼前に突如として少女が現れた。
橙に煌めく髪を靡かせながら、淡々と喋る無表情の少女───ヘンゼルが。
容姿に似合わない圧倒的な威圧感に嵌獣獅王は思わず後退してしまう。
「そんなに怖がらないで。私は貴方を殺すつもりはないの」
発言に反して、ヘンゼルが放つ威圧感は増してきている。
脳内に警鐘が鳴り響いているというのに、嵌獣獅王の身体は微動だにしない。
それは恐怖によるものか、それとも王としての矜持によるものか───
「“天寵廻剣”」
ヘンゼルの掌に光粒子が集まり、剣鉈と呼称される剣の形を成す。
その瞬間、嵌獣獅王の口膣が赤熱化すると、球状に圧縮された炎が現れた。
ゴオオオオオオオオオッとヘンゼルの身体を焼き焦がす───ことはなく、刹那のうちに炎塊が切り刻まれる。
「弱者は強者によって蹂躙され、弱者が群れを成せば逆に強者が蹂躙される───《命喰環廻斬》」
剣から溢れる真紅の光から感じるのは生と死の力。
それにより嵌獣獅王の心情は、あの剣には斬られたくないという感情と、あの剣に斬られて力になりたいという感情に二分している。
「グオォオオオオオオオッ!!」
相反する感情との格闘の末に、強張った全身を鼓舞する為に咆哮をあげた。
同時に爪撃を行なったが、ヘンゼルの顔に当たる寸前で静止した。
「生の価値を認識する、最期の刻───」
それは命ある存在を、自身もしくは他者の延命の為に殺す際の宣言。
死の残酷さを知っている食事の管理者であるが故の、命を奪う相手への尊敬と感謝を込めた言葉。
その刹那、自身を軸として垂直に剣を構え、嵌獣獅王の首めがけて斬り払った。
すると嵌獣獅王は体勢を崩し、ズシンと音を立てて倒れる。
その隣には、生気を失った嵌獣獅王の頭部が、漆黒の大地を深紅で彩るように転がっている。
「…………」
ヘンゼルはその光景を目に焼き付けるように眺めた後、ゆっくりと嵌獣獅王に近づいてしゃがみ込んだ。
そして流れるように掌を合わせて、目を瞑ると───“天寵廻剣”を見ても尚、生に執着し死に抗った勇敢な獅子に黙祷を捧げた。
瞬く間に嵌獣獅王の肉体は塵と成り、【迷宮創造】によって造られた迷宮へと還元されていった。
勇敢な獅子、塵と成る───
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