210話 新たなる氷塊の創造
『カエルラ、今回の氷塊はどうする?』
その人物は、私の脳に直接話し掛けてきた。
念話を使うなら事前に連絡して欲しかったわね。
けれど……今ここでその言葉を言ってしまったら、面倒なことになるのは明白。
だからこそ、私は指摘しない。
指摘するとすれば、全てが落ち着いたときくらいかしらね。
『ラチカ、貴女───もしかしなくても、来ないつもり?』
『うん! めんどくさいもん!』
『ダメよ、貴女もここに来なさい』
『絶対にいや! 行きたくないったら、行きたくない!!』
駄々を捏ねるラチカ。
“氷獄界”は一番、現在地───“人間界”に近いというのに。
まったく、面倒くさがりにも程がある。
『なら代理で、並列存在のヨトゥンヘイムを呼べばいいじゃない。そうでしょう、スネグーラチカ?』
私は言葉に圧を込める。
その証拠に、ラチカのことを愛称で呼んでいない。
『うぅ……はぁ、わかった。今すぐ“氷結兵站”に行ってもらうから、待ってて』
ラチカはそう言うと、念話を切った。
* * *
数分後───海風が、急激に冷え始めた。
「来たようじゃな、“氷結兵站”が」
私の横にいるルフスが、そう言った。
その証拠に、水平線の辺りに雪玉が見える。
「そういえばルフス。焼いた魚……持って行ったの?」
「……あ、そうじゃった! 持っていくとしよう、アヤツが来て凍ってしまう前に」
「そうね、それがいいと思うわ」
私がそう言うのと同時に、ルフスは焼き魚が入っている【陽炎色彩惑障】を縮小して抱えた。
途端、真紅に染まる翼を広げて海岸に降りて行った。
自由落下をしなかったということは、無駄なエネルギーの消費を抑えたということ。
ルフスは、私と“氷結兵站”の意見が合わなかったときに仲裁するつもりなのね。
“氷結兵站”は、ラチカの並列存在とは思えないくらいに知的で温厚な性格だから心配しなくてもいいと思うのだけれど。
『此度の氷塊は、どうなさるおつもりで?』
重々しくも温和な声音。
気がつくと、“氷結兵站”が私の真下まで来ていた。
私の真下にある雪玉───それこそが“氷結兵站”。
刹那、その雪玉が大きく膨れ上がり、頭部と四肢が出てきた。
「そうね、人間に近づかれても困るから……なるべく目立つものがいいわね」
この姿、なんて言ったかしら?
雪で構成された二頭身ほどの人形のような姿。
え〜っと……雪だるま、だったかしら。
『其方の願い、承った。その条件に合うものは───【氷樹凍華】ただ1つ』
“氷結兵站”はそう言うと、雪で構成された手で海面に触れた。
その瞬間───冷気が溢れ出し、正六角形の角から枝が伸びたような氷の紋様が広がった。
ヨトゥンヘイムが居るところに正六角形の紋があるということは、その範囲には何も変化が起きないと言うことかしら?
それとも、時間経過で変化が起きるのかしら?
そんなことを考えていると、すぐにその変化は起きた。
正六角形の角の先にある枝のような紋様から、氷で構成された草木が生い茂った。
『私が此方を離れて暫くした後、この領域には氷の樹が芽吹くであろう』
“氷結兵站”はそう言って、紋様がある領域から海に浸かった。
巨大な雪の塊である“ 氷結兵站”の原型は一瞬にして崩れ去り、海の中に沈む。
そして、その雪の塊は水と同化するようにあっという間に溶けていく。
ヨトゥンヘイムって、雪が本体じゃなかったのね。
媒体を放置して帰るのは、意識だけで存在できることの証明。
命令に忠実すぎる機械のような“氷結兵站”に、自由気ままで面倒くさがりな“氷獄神”スネグーラチカ=コキュートス───2人とも、本当に面倒な性格してるわね。
今回の氷塊は、いつまで保つか───
最後まで読んで頂き有難う御座います!
因みに、作中では明言していませんが……。
【氷樹凍華アンテノーラ】を使用した際に現れた氷の紋様は、『樹枝付角板』です!
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