209話 太陽と海
アトラス港にて───
海面が陽光に照らされ、煌めいている。
波は穏やかであり、その深海では多種多様な生物が遊泳している。
その光景を微笑ましく眺める女性の姿があった。
女性の正体は、“海帝神”カエルラ=ティアマト。
「……貴方達の命を奪う私を、どうか許して」
か細い声で、カエルラが言うと───勢いよく海から球体が出てくる。
その直径は2mほどであり、中には隙間なく様々な種類の食用魚が入っている。
魚達の瞳に生気はなく、ただそこにあるだけ。
はぁ……あまりこの方法は取りたくなかったのだけれど。
アマルティアが消滅したことによって、体調不良や記憶障害を起こしている者がいる。
そんな状況で“戦艦”を動かすわけにはいかないのよね。
だから、動ける者達で食料や調味料を調達することになったのだけれど。
「ルフス、お願い」
私は隣にいる赤髪に特徴的な黒い角をもつルフスに向けて言う。
「わかっておる! じゃが、よく【海命狩滅】の威力を抑え切れたものじゃな」
「最近まで封印されていたからよ。その所為で、基本的な能力が下がったままなのよ」
「それは大丈夫なのか?」
ルフスは、心の底から私のことを心配して問う。
「えぇ、今も少しずつ力が戻ってきてるわ。まだ全力には程遠いけれど……【天海廻渦虚星刻砲】が使えるから、いざという時には戦えるわ」
「うむ、わかった」
そう言って、ルフスは笑う。
その表情は少しだけ、安堵しているようにも見える。
途端、その笑みは一瞬で消え去って───
「【陽炎色彩惑障】」
その声が聞こえると、2mほどある水球を包み込むように、虹色の幕が現れた。
数十mは離れているのにも関わらず、熱を感じる。
「本当に凄いわね。本来は防御用なのに、常時熱を放射する性質を応用するなんて」
「そんなに褒めたところで、儂はなにもせんぞっ!」
すると、少しずつ水が蒸発していく音が聞こえ始めた。
その音は、刻一刻と激しさを増し───電雷を想起させる音へと変化している。
もう少しの辛抱ね。
もう少しで、焼き魚が食べられるんだもの。
味付けは……テオス様とリルが、調味料を買いに行っているから心配はしていない。
でも、少しだけ心配事があるとすれば─── 海渦巨鮫を操った存在を特定できていないことかしらね。
刹那、何者かから発せられる気配を感じ取った。
敵意とも殺意とも取れる、気味の悪い気配。
緊張が走り、情報交換をする。
「───カエルラ、感じたかの?」
「えぇ。でも、それと同時に“真煌神鶏”の魔力───変幻も感じ取れたわ。だから大丈夫よ。彼はネロやフギンに許可を取らずに外出するような子じゃないもの」
「そうじゃな。……じゃが、アヤツはもう少し外界に興味をもったほうが良いと思うのじゃがな」
「それを、私達が強要してはいけないでしょ。彼が、自分自身の力で、外に出ていく勇気を持たなきゃいけないのだから。それをサポートしていくのは私達の役目だけど、命令してはいけない。主体性が大事なのよ、主体性が」
大事だと思ったから、2回言った。
一方、ルフスは───水球が完全に蒸発するのを待っていた。
その顔は、好奇心旺盛な子供のようで。
……まったく、いつもはしっかりしてる癖に。
気が抜けたら一瞬で子供のように、自分の興味のあることにしか目を向けなくなる。
本質的に言えば、ルフスもレクスも同じだと思うのだけれど……それを言ってしまったら、ルフスが怒ることは目に見えている。
だからこそ、私はこの思いは私に内で留めておくとするわ、誰も傷つかない為に。
特殊な焼き魚の作り方───
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