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【五章連載】ディオス・ウトピア 〜神々の王は平穏を望む〜  作者: 神威皇華
第四章 海淵神殿編
207/240

207話 悪意による汚濁


 視界がに染まる。

 途端、白銀の空間が崩壊し───砂色の王座が現れた。


 「生きているかしら?」


 その声が聞こえた王座に目をやると───艶のある黒髪に犬のような耳、黒い布の目隠しをつけている異質な女性がいた。

 髪色や目隠しの布は黒で統一されている癖に、衣服は全て金と白で構成されているのが謎だ、と感じた。


 体を動かすことは叶わないが……幸いなことに、視覚と聴覚は良好。

 それ以外の五感が機能するかは、体を動かせない今の私では確認することは不可能だ。

 ならば、分身体を作るまでの間は、情報収集に専念するとしよう。


 「その魂は、“冥獄界(ヘルヘイム)”にも“死獄界(二ヴルヘル)”にも相応しくない。【死冥裁瞳(アアル)】───【裁断(ムエルト)】」


 私の頭上に浮いていた筈の瞳が、私の視界に入ってきて向かい合う。

 途端、瞳の部分だけ光り輝き───銃声にも似た音が聞こえた。


 「───」


 胸元に痛みを感じるものの、体が動かせない。

 だが───知覚できてしまう。

 “死”と謂う恐怖の象徴が、直ぐそこまでやってきているということに。


 身体(からだ)中の時間を停められている筈だが、痛覚はある。

 光の聖霊(レクス)の奴め!

 ただ単に体内時間を停めるだけではなく、これ程までに緻密な操作を行うなど……!!


 「さようなら。“濁神闇蛇王(アポピス)”ピュトンの魔力───憎蝕(リバルション)によって狂わされたセラピアの分身体、ヴィヴィアン」


 その声はあまりに悲しく、慈愛に満ちていた。

 そして、自分が自分ではなくなっていることを思い出して。

 

 セラピア……貴方も気をつけておいた方がいい。

 純粋なもの程、不純物が入ったときに濁りやすい。

 私は貴方から生まれた()だが、貴方は源泉(・・)そのものなのだから───


 フォンスは、セラピアに届かぬと知っていながらも忠告した。

 記憶の管理者(ムネモシュネ)心理の管理者(アフロディーテ)を介して、伝わってくれることを信じて。

 瞬間、穢された水の聖霊の分身体には───冥界における最悪の“死”が訪れた。

 魂の完全消滅とも呼ばれる、冥界において最も忌むべき“死”が。



 *   *   *



 フォンスという不浄の存在が消滅したのを確認して、フラーウス様は頬杖を突く。

 そして大きく深い溜息を吐いた。


 「ここまで影響力が強い魔力となると、いつ“神人(デミゴッド)”達が毒牙に掛かるかわからない。それに、私が弱らせたとは言え─── “濁神闇蛇王(アポピス)”も最近はより活発になってきている。完全な復活が近づいて来ているの確かだけど……復活したら直ぐに動き始める程、馬鹿では無い筈。だとしたら、暫くは様子見をしてくれると助かるんだけれど───」


 「フラーウス様。至急、報告したいことが……」


 フラーウス様がちらりと私に目を向ける。

 誰かを確認した上で、フラーウス様は告げる。


 「言い淀まなくてもいいのよ、ギル。私と貴方の仲だもの」


 そう言って、優しく微笑んでくださるフラーウス様。

 先程まで熟考していたのに、そんなことを微塵も感じさせないような態度。

 それこそ、まさにフラーウス様が王である所以───


 「それで? 至急、報告したいことって?」


 「はい、3年前に封印したバシュムを覚えていらっしゃいますよね?」


 私の発言にフラーウス様は「えぇ」と言って頷く。

 反応があったのを確認して、私は続ける。


 「先程、“崩滅壊聖蛇(ケツァルコアトル)”バシュムが封印されている“神岩洞窟(ドゥアト)”に訪れたところ、魔法が使用された痕跡と───バシュムの生命活動が再開し初めていることが解りました」


 「……それは、本当のことなの!? バシュムが生命活動を再開し始めていることは───破壊衝動が、目覚めているということでしょう?」


 「はい、そして最も不可解なのが……バシュムが存在している“神岩洞窟(ドゥアト)”ごと、時間が停められていたのです」


 「時間を……? ということは、フギンが? だとしたら変ね、ムニンからの連絡は無かったし……」


 言い淀むフラーウス様の表情が固まって。

 何かを思い出そうとしているのか、思い出したのかはわからない。

 でも確実なのは、何かしら心当たりがあるように思えて───


 「……まさか、ロキが? 例え、フギンやレクスの2人がかりだったとしても……“神岩洞窟(ドゥアト)”全域の時空間を停止させることなんて───ましてや、それを長時間維持することなんて不可能。でもロキなら、“神岩洞窟(ドゥアト)”全域とバシュムの体内の時空(とき)を停めて、現在まで維持することを可能にできる唯一の存在」


 私は、思慮を巡らせる主人の邪魔をしないようにそっと息を殺して、その場で待機し続ける。

 主人の思考が1つに纏まり、言葉となるまで。

 それが───主人に仕える従者(もの)としての、最低限の礼儀だと思うから。


 

深まるロキの謎───

最後まで読んで頂き有難う御座います!


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― 新着の感想 ―
[良い点] ある意味ロキらしいムーブと言わざるを得ないのがなんとも。 なんだか新たなる物語の展開が感じられてきますよ。
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