207話 悪意による汚濁
視界がに染まる。
途端、白銀の空間が崩壊し───砂色の王座が現れた。
「生きているかしら?」
その声が聞こえた王座に目をやると───艶のある黒髪に犬のような耳、黒い布の目隠しをつけている異質な女性がいた。
髪色や目隠しの布は黒で統一されている癖に、衣服は全て金と白で構成されているのが謎だ、と感じた。
体を動かすことは叶わないが……幸いなことに、視覚と聴覚は良好。
それ以外の五感が機能するかは、体を動かせない今の私では確認することは不可能だ。
ならば、分身体を作るまでの間は、情報収集に専念するとしよう。
「その魂は、“冥獄界”にも“死獄界”にも相応しくない。【死冥裁瞳】───【裁断】」
私の頭上に浮いていた筈の瞳が、私の視界に入ってきて向かい合う。
途端、瞳の部分だけ光り輝き───銃声にも似た音が聞こえた。
「───」
胸元に痛みを感じるものの、体が動かせない。
だが───知覚できてしまう。
“死”と謂う恐怖の象徴が、直ぐそこまでやってきているということに。
身体中の時間を停められている筈だが、痛覚はある。
光の聖霊の奴め!
ただ単に体内時間を停めるだけではなく、これ程までに緻密な操作を行うなど……!!
「さようなら。“濁神闇蛇王”ピュトンの魔力───憎蝕によって狂わされたセラピアの分身体、ヴィヴィアン」
その声はあまりに悲しく、慈愛に満ちていた。
そして、自分が自分ではなくなっていることを思い出して。
セラピア……貴方も気をつけておいた方がいい。
純粋なもの程、不純物が入ったときに濁りやすい。
私は貴方から生まれた雫だが、貴方は源泉そのものなのだから───
フォンスは、セラピアに届かぬと知っていながらも忠告した。
記憶の管理者か心理の管理者を介して、伝わってくれることを信じて。
瞬間、穢された水の聖霊の分身体には───冥界における最悪の“死”が訪れた。
魂の完全消滅とも呼ばれる、冥界において最も忌むべき“死”が。
* * *
フォンスという不浄の存在が消滅したのを確認して、フラーウス様は頬杖を突く。
そして大きく深い溜息を吐いた。
「ここまで影響力が強い魔力となると、いつ“神人”達が毒牙に掛かるかわからない。それに、私が弱らせたとは言え─── “濁神闇蛇王”も最近はより活発になってきている。完全な復活が近づいて来ているの確かだけど……復活したら直ぐに動き始める程、馬鹿では無い筈。だとしたら、暫くは様子見をしてくれると助かるんだけれど───」
「フラーウス様。至急、報告したいことが……」
フラーウス様がちらりと私に目を向ける。
誰かを確認した上で、フラーウス様は告げる。
「言い淀まなくてもいいのよ、ギル。私と貴方の仲だもの」
そう言って、優しく微笑んでくださるフラーウス様。
先程まで熟考していたのに、そんなことを微塵も感じさせないような態度。
それこそ、まさにフラーウス様が王である所以───
「それで? 至急、報告したいことって?」
「はい、3年前に封印したバシュムを覚えていらっしゃいますよね?」
私の発言にフラーウス様は「えぇ」と言って頷く。
反応があったのを確認して、私は続ける。
「先程、“崩滅壊聖蛇”バシュムが封印されている“神岩洞窟”に訪れたところ、魔法が使用された痕跡と───バシュムの生命活動が再開し初めていることが解りました」
「……それは、本当のことなの!? バシュムが生命活動を再開し始めていることは───破壊衝動が、目覚めているということでしょう?」
「はい、そして最も不可解なのが……バシュムが存在している“神岩洞窟”ごと、時間が停められていたのです」
「時間を……? ということは、フギンが? だとしたら変ね、ムニンからの連絡は無かったし……」
言い淀むフラーウス様の表情が固まって。
何かを思い出そうとしているのか、思い出したのかはわからない。
でも確実なのは、何かしら心当たりがあるように思えて───
「……まさか、ロキが? 例え、フギンやレクスの2人がかりだったとしても……“神岩洞窟”全域の時空間を停止させることなんて───ましてや、それを長時間維持することなんて不可能。でもロキなら、“神岩洞窟”全域とバシュムの体内の時空を停めて、現在まで維持することを可能にできる唯一の存在」
私は、思慮を巡らせる主人の邪魔をしないようにそっと息を殺して、その場で待機し続ける。
主人の思考が1つに纏まり、言葉となるまで。
それが───主人に仕える従者としての、最低限の礼儀だと思うから。
深まるロキの謎───
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