198話 記憶を司る存在
「……?」
私は、重い瞼をゆっくりと開ける。
それと同時に視界に金色の糸が映り込む。
私は直ぐにその糸が自身の髪の毛だと気づき、手で払い除ける。
すると、見たこともない景色が広がっていて。
「ここ、は───?」
脳内での情報処理が間に合わなかったのか、私の口からその言葉が出た。
「起きたか、“記憶神”アレテー=ムネモシュネ」
その声が聞こえた方向に顔を向けると、長く艶やかな黒髪の男性がいた。
この人は、誰だろう?
それに私は一体、何者なんだろう?
全く思い出せない……。
「ストレスによる記憶障害……いや、記憶喪失か? ……今はそんなことどうでも良いな、早く記憶を思い出させて───」
「ロキ、そんなことしちゃ駄目」
ロキと呼ばれた男性の背後から、紫髪の少女が顔を見せる。
そして、私を見つめ───いや、睨みつけながら一言。
「体も幼く、記憶も朧げな存在。それは、本当に“記憶神”と呼べるか怪しい。そんな存在に、記憶を取り戻させる? ふざけないで、そんな身勝手な行動が赦されるわけがない!!」
その少女の容姿からは想像も出来ない、気迫がその場にはあった。
一瞬、ロキと呼ばれた男性が何かを呟いたような気がして、意識を集中させた。
すると───声を潜めているけれど、口元がしっかりと動いて見えた。
その口の動きは、『黙れ』と言っている。
「そう、だな……。この感情の儘に行動しては、いけない……な?」
黒髪の男性は、自身の感情をコントロールしようと抵抗しているように見えた。
だけど、今にもその怒気が暴走しそうで。
過去の記憶はあまり覚えてないけど、これほどまでの圧は感じたことがない。
「“音響神笛”───精神干渉」
瞬間、心地良いと感じる音色が薄暗い洞窟内を満たした。
心が穏やかになるとも、頭がぼーっとするとも言えるこの状態が、良い状態と言えるのかは分からない。
例え良くなかったとしても、今を一生懸命生きているのだから。
不確定のことに不安を抱くこともなくなる、そう思いたい。
「……はぁ、危なかった。最近は落ち着いていた筈の【狂乱暴走Ⅵ】が完全に起動してしまうところだった」
「───わ、私の、名前を知ってるんですよね?」
私は恐怖を隠しつつ、その男性に訊いた。
すると、呆気に取られたかのように目を見開いて───
「ほ、本気で言っているのか……?」
「……やっぱり気づいてなかった。だから、『アマルティアと呼べるか怪しい』って言ったのに……」
「あぁ、そういう意図で言っていたのか」
待って……この2人、親子だったりする?
そのくらい、紫髪の娘が黒髪の男性のことを理解しているんだけど。
ロキの表情が一瞬で真剣な面持ちになって、子供に注意する大人のように言ってきた。
「───おっと、先程の質問に答えていなかったな。お前の名前はアレテー。“記憶神”アレテー=ムネモシュネだ」
その瞬間───トクントクンと脈拍が速くなった。
そして、自身の名前を知ったことによる幸福感とムネモシュネという名前に対する嫌悪感を感じた。
前世への嫌悪感───
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