193話 身魂乖離の影響
至天帝神大皇艦の1階、豪華な装飾が施されている部屋にて───
お兄がベッドで横になって、眠っている。
……此処に来てからずっとこんな調子で、このまま永遠に目を覚さない可能性だってある。
そうなるくらいなら、お兄に“冥獄界”の果実を食べてもらって“縁”を結ぶ。
よしっ、そうと決まれば、さっそく“冥愚柘榴”を出そう。
「『収納空間』」
私はその真紅に染まった実を取り出し、少し伸ばした人差し指の爪で5つの切り目を入れる。
魔法で水球を作り出し、切り目を入れた実を放り込んで果肉を潰さずに分離させる。
分離した皮の部分は魔法で存在ごと消滅させて、そこから12粒の果肉を取り出す。
1粒で“冥獄界“に31日間滞在するというルールに則ると、12粒食べてもらえば1年間一緒に過ごすことが出来る。
でも、それはお兄の自由意志を奪うことと同じ訳で。
「はぁ〜……どうしよう。最近、感情のコントロールが出来なくなってきてる……」
お兄のことは家族として好きだけど、最近はそれ以外の……恋愛面での感情なんじゃないか、って疑ってしまう自分がいる。
いや、本当はもう分かっているんだ。
この感情が、家族愛なんて謂う領域を超えていることは。
でも、そんなこと、起こってはいけない……“神”は、1人の人間に対して“愛情”を注いではいけない。
その“愛”は───人間が背負うにはあまりにも大きく、重すぎるから。
「少し、疲れたな。お兄の匂い……安心する」
私はそのベッドに、お兄を起こさないように気をつけながら入って、ゆっくりと瞼を閉じた。
そうして、お兄の匂いに包まれた空間で心地よい眠りについた───
* * *
誰かの声が聞こえた気がして、俺は重い瞼を開けた。
気の所為だろうと思っていたのだが、寝返りを打った瞬間に気づく。
「すぅ……すぅ……」
なんでリルがいるんだ───と思って、急いで体を起こしたのだが。
その直後に感じたのは、関節の痛みと熱っぽさ。
そして、頭にじんわりと広がってくる痛み。
「か、体が重い……?」
声を出したことで分かったが、喉の痛みもあるようだ。
頭痛、関節痛、咽頭痛、脱力感、体の火照り───症状だけで言うなら完全に風邪だが。
「……ぁ、お兄ぃ!!」
目を覚ましたリルが、物凄い勢いで飛び上がり抱きついてきた。
俺の体に頬を擦り付けながら、泣いている。
前にジャックにされた時も思ったが、俺の服は涙を拭く為のハンカチやティッシュじゃないんだが。
「リル、聞いてくれ。今、俺はとても体調が悪いんだ。少しの間でいいから眠らせてくれ」
「え……どうしたの!?」
と言うと、さっきまで勢いよく動いていた尻尾と耳がしゅんとなり、未だに泣いているので目からぽろぽろと涙が俺の服に落ちている。
リルの柔らかくすべすべな肌がぴったりと密着していて、絹でも触っているような感じがする。
でも、これ以上は流石に俺の精神が耐え切れないので、リルには退いてもらい、安静にする為に横になった。
すると、リルが一言。
「大丈夫だよ、ちゃんと看病するから。ちゃんと安静にしててね」
「わかった、ありがとう」
リルが俺の頭を撫でた気がした。
俺は体調が悪かったので、確認する暇もなく眠ってしまった。
神の深き眠り───
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