167話 教皇猊下
マニュス帝国の神星教会にて───
長身の男が片膝をついて、頭を垂れている。
白と金の法衣を纏い、祈りを捧げる人物こそ───この教会の開祖である教皇猊下である。
その者の名前は……ピウス。
「おや、お久しぶりですね。オルコス」
ピウスが頭を垂れたまま、俺に挨拶する。
【隠蔽】を使っても尚、気づくか。
───流石だな。
だが、今回は……遊びに来た訳では無いのでな、早く要件を伝えるとしよう。
「あぁ、そうだな! 俺は、少し用があって此処に来たんだ! ───少し良いか? へパイストス」
「えぇ、貴方が来たと言う事は……何かしらの“誓約”に従っているのでしょう? その縛りから逃げようと考える程、私は愚かではありませんよ、伊達に“教皇”やってませんから」
俺の瞳に、頭を垂れている───いや、祈りを捧げていた所に俺が来ただけなのだが───ピウスの姿が写る。
ふっ……流石はピウスと言ったところか。
思慮深く勘が鋭い存在で、自己と他者の区切りをしっかり持っているのにも関わらず、他者を慈しむ気持ちを忘れない神人。
「あぁ、その通りだ。俺が来た要件は1つ───渦塞氷塊の破壊の許可を申請すること」
俺は簡潔にピウスにそう説明する。
すると───ピウスが呆気に取られたのか、固まっている。
驚いているのか?
それとも、熟考しているのか?
どちらだろうか?
それとも……誰とこの契約をしたか考えているのだろうか?
「───その契約を交わしたのは誰だ? その人物によっては……俺は魔力を使ってお前を“世界から隔離する”事も厭わないが、どうする?」
ピウスの口調が変化し、周りの空気が一変した。
───あ。
驚愕した訳でも、熟考している訳でもなかったのか。
最悪の選択をしてしまったのか……仕方ない。
契約上での禁止事項にはその様な規約はなかった筈だ、言っても良いだろう。
「……話すとしよう。俺が契約した者は───“海帝神”カエルラ=ティアマト」
「それが本当なら……何故、渦塞氷塊の破壊などと───待てよ。そう言えば、“叡智神”から“背理神”について訊いた気が……」
「もうあの犯罪者についての情報は掴んでいるのか、話が早く済む」
「“記憶神”アレテー=ムネモシュネ。かつて、闇に生きる蛇の力によって……堕落した神人。その存在こそが───“背理神”アマルティア=ムネモシュネ」
ピウスがアマルティアについて発言した。
何故、そこまで知っていて何もしなかったのだ?
───おかしい。
この言い方だと、アマルティアが堕落した原因まで知っていると言う事になる。
ならば、この結果は……ピウスの思い通りと言うことだ。
「───私は“境界神”。あらゆる概念を隔てる権能を持つ者。故に……魔力を解き放ち、【神魔武装】を装備した私を阻むことが出来る者は少ない」
確かにそうだ。
ピウスは“神”意外の万物に対して“境界線”を引けることが規格外なのであり、魔力や能力ともに『その対象を隔てる』ことに特化している。
だからこそ自分の記憶を守ったまま相手の隙をつくことが可能な訳だが、ピウスであれば俺達の記憶すらも守れた筈なんだ。
なのに、それをしなかったと言う事は───コイツは、“神人”全員を敵に回そうとしているのか?
「封印されているカエルラとの契約に文句を言うつもりは無い。だから……渦塞氷塊の破壊は認める」
条件は、と付け加えてピウスは続ける。
「渦塞氷塊を破壊した後に……世界と世界を区切る“境界”を創ること。この条件、お前は吞めるか?」
ふっ、この“契約神”に条件を出すとは……!!
今この瞬間から“誓約”の内容にピウスがいる場合は全て断るとするか、俺の心身の為に。
オルコスの決意───
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