第70.5話 大魔王、覚醒!(後編)
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ついに明日8月25日発売です。
「魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~」第2巻
ブレイブ文庫より発売されます。
ゲーマーズ、メロンブックスでは、書き下ろしSSリーフレットが付いてきますので、
週末の書店で見かけましたら、ぜひよろしくお願いします。
「エリアナ……さん。どうして……?」
「まずエリアナの質問に答えて」
獅子のように我を威圧してくる。
どうやら【蝕道】を耐えたらしい。驚きの吸引力なのだがな。【八剣】第二席を少々侮ってしまったようだ。
「後で説明します。こちらの質問を先にさせてください」
一旦、エリアナを無視しつつ、話を進める。
「……で、今度は私に何の用ですか? どうせまた私に用があったのでしょ。今度からは学院や王都を襲う前に、直接私のところにいらしてください。お茶ぐらいは出しますから」
「あなたを捕らえにきました」
「オリジナルのユーリは私との共生を模索していたようですが?」
「こちらにも事情がありまして」
「肉体の寿命ですね」
「……! さすが我が君。そこまで」
「あなたたち、常に相当な魔力を消費し続けているでしょ。その聖剣と聖剣のレプリカがなければ、立っていることすら難しいはずです。躍起になって探していたのも、あなたたちが生き残るためだったというわけですね」
聖剣には我の肉体の一部が使われているが、聖剣のレプリカにはその一部を複製したものを使われているのだろう。たとえ複製といえど、内包されている魔力は高い。しかも、ともに魔力を自己補給する機能までついている。そうでなければ、機能を湯水のように使うことはできないからな。莫大な魔力を浪費するだけの我のレプリカたちにとっては、貴重な魔具であったはずだ。
「だ、だから、エリアナにもわかるように話して!」
「簡単なことです、エリアナ先輩。あの人から聖剣を取り上げればいいんですよ」
「何を当たり前なことを……あっ」
さすがは『八剣』第二席か。
思い当たる節でもあったのだろう。
実際、倒れた我のレプリカたちは全て聖剣から離れた位置にある。
死んだというより、魔力が切れて動けないのだ。
「そこまで見抜かれていましたか。しかし、我々は――――」
「勘違いしないでください。あなたたちのような放っておけば、蝉のように死んでしまう弱者を今の状態で相手をするわけがないでしょ」
「へ?」
「ふぇ?」
「私を捕らえたいならば、全力で相手をしなさい。さあ――――」
回復してやろう……。
我の回復魔術が周囲を白く染め上げる。
ユーリもどきはおろか、戦場跡地のようになっていた講堂も修繕してしまう。
気が付けば、辺りは元通り、いや新品同然の姿になっていた。
まあ、こんなものであろう。
「あっ……」
エリアナは切れた手首が元に戻っていることに気づく。
「すごい……。何なのこの回復魔術……。ただ回復させるだけじゃない。身体が熱い……。力が怖いぐらい漲ってくる。これならあいつらも――――」
エリアナは勝利を確信するように顔を上げたが、何故か目の前の光景を見て絶句した。
「おお! 凄い力だ」
「力が溢れる。魔力が漲る」
「素晴らしい!! ふふふ……。あははははは!!」
ユーリたちもまた我の回復魔術の恩恵を受け、歓喜している。
湯水のように流れていた魔術の流れは安定し、人のそれと変わらぬようになっていた。それでいて、内在する魔力量は変わらない。いや、1・5倍ほど増えていた。
「ルブル……、何をしたの?」
「何をって……。あの者たちの欠点を回復魔術で回復させました。具体的には、これまで魔術で肉体を維持していましたが、それを普通の人間レベルにまで回復させたのです」
「それって、敵に塩を送ってことじゃない!」
「塩ではなく、回復魔術です」
「あ、あなた、もしかして馬鹿なの?」
「ムカッ! 聞き捨てなりませんね。昔、マリルが言ってました。馬鹿といった人間が馬鹿なのです」
「そ、そういうことを言いたいんじゃなくて……」
エリアナは半泣きになりながら、我をポカポカと殴る。
「そこまでです、お二人とも。我が君、感謝しましょう。おかげで我の唯一の弱点が解消された。これで我らの本当の力を出すことができる」
ユーリもどきの身体から莫大な魔力が噴出する。
魔力が肉体を汚染し始めると、筋肉や骨が膨張を始めた。
我を模した美しい容貌は悪魔のようにゆがみ、やがて獣へと変化する。
ついには持っていた聖剣すら体内に取り込むと、鋭い爪から七色の魔力が噴き出した。
数にして13体。牙を剥きだし、天使のように翼をはためかせて、我を嘲笑う。
その姿は神話に出てくる獣マンイーターに酷似していた。
「こうなったら、エリアナも」
「助太刀は無用です」
「1人でやるの? 無茶よ! あんな神話の獣みたいな……」
「エリアナ……」
「何?」
「私のことを心配してるんですか? あなた、本当は優しいのですね」
「――――っ!」
「なんか顔が凄く赤いですけど……。エリアナ?」
「な、なんでもない! あなたの無茶におどろ――怒って」
「ありがとうございます」
我はエリアナの頭を撫でた。
ハーちゃん、ネレム、そしてマリルも時々我のことを心配する。
でも、初めてだった。我を心配し、魔族相手に共闘しようとしてくれた者は。
このエリアナが初めてだったのだ。
「ちょ……。な、なでるな~」
「その気持ちだけ受け取っておきます。それにご心配なく……」
私は結構強いですから……。
我は前に出る。
すでに13体の獣たちは準備万端という感じで構えていた。
「観念なさったか、我が君。いや、大魔王ルブルヴィムよ」
「そういう横柄なところ嫌いじゃないですよ」
「オリジナルのユーリと我らが一緒だと思うなよ。聖剣――つまり大魔王の一部を取り込んだ我らはもう無敵だ」
「それは楽しみですね」
ついに13体の獣たちは動き出す。
黒い波が押し寄せてくるようだった。
対する我はそれを待ち受ける。
なんと愉快だ。
その牙、その爪、そして体格。
いずれも一級品。しかも我の一部を取り込み、魔力は際限なく満ち満ちている。
完璧だ……。
ついに我の回復魔術は、高みに達した!
「その身体……、骨までしゃぶってくれる! 死ね!! ルブル――――」
ぐしゃっ!!!!!!!!!
次の瞬間、13体の獣は講堂の床にめり込んでいた。
「はっ?」
エリアナはまた素っ頓狂な声を上げる。
我もまた呆然としていた。
今世に於いて、最強の敵とまみえたとと思ったのに……。
またか! またなのか!
回復魔術の道はそれほど厳しいというのか。
「くそ! 何故だ! 何故、我の回復魔術は! こやつらの弱さまで治せぬのだぁぁぁあああああああああ!!!!!」







