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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
魂魄騒動編
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096話:美少女霊能探偵九十九其ノ伍・踊る骸骨の怪談

 居長孝佳が倒れた幻想の鏡の事件から、白原真鈴と稲荷九十九は学校で噂されていることを調べるようになった。元々は九十九だけで行う予定だったのが、孝佳の様な被害者を生まないために、と真鈴が名乗りを上げたのである。


「と、いうわけで、先輩、新しい怪談を調べてきました」


 真鈴は理数科には友人が多くないが、同じ中学校から滑り止め受験で入っている普通科の生徒が多いため、こういった情報収集が得意だった。九十九はどうにも高嶺の花扱いで話すのもおこがましいと言われることが多いのだ。


「七不思議と考えると4つ目だね……。誰かが流布しているようにも思えるけど、実際に起こっていることが元になっているって考えると噂好きってだけな気もするし」


 学校の怪談などの噂は、故意かどうかの判断が難しい。最初に誰かが悪意を持って意図的に流したとしても、結局は噂話となって伝達するので、その過程で悪意のあるなしは分からなくなる。


「どうなんでしょうね。とりあえず、今回の怪談なんですが……」


 真鈴が、調べてきた怪談を語り出す。いくつかばらけていたものを統合して一つの階段として話した。




 夜、東校舎にある理科室の骨格標本がカタカタと不気味踊り出す。暗いはずの学校の中で、理科室だけに明かりが灯り、そのようすを見に行くと、骨格標本に囚われ、新しい骨格標本にされるという噂。




 正直、ありきたりな話だろう。七不思議の定番の一つ、理科室。この理科室という空間が七不思議によく登場する理由は諸説ある。しかし分かりやすく言えば、「危険なものが多い」のと「恐ろしいものが多い」の二点だろう。


 危険なものというのは、実際、塩酸などの危ない薬品やガスバーナーにアルコールランプのような子供が扱うには危険なものなどのことだ。

 恐ろしいものというのは、骨格標本や人体模型のようなものもそうだが、年代によっては解剖実験というトラウマもの実験などもそうだ。


 そもそもに、理科室という空間が、薬品やその他の関係で、暗幕などで閉ざされていることがある。また、授業以外で立ち入ることがないという点で不明瞭な存在という意味でも不気味さがある。特別教室の中でも図書室やパソコン室、音楽室は部活動や委員会、日常利用で訪れることがあるだろう場所であるが、理科室はそう言ったことが少ない。科学部などがある場合もあるが、管理などの面から、顧問がよほどしっかりしているなどの条件でもない限り実現が難しいのだ。


 そうした中でも、骨格標本、つまり骸骨は、中々に恐ろしいものがある。人間が死した後になる存在。死というものが付きまとうからだ。誰しもが恐れる、死という形を分かりやすく表したものの一つが骸骨なのである。


 またなまじ人間に近い見た目があるために、人体模型も恐ろしい対象として見られることが多い。


 これらの理由で、理科室は七不思議や階段の舞台にされやすいのである。しかし、この理科室という「学校」にしかないものという意味では、階段のときと同様に、学校ならではの話だろう。

 社会的な視点で見て、骸骨に襲われるという環境を作るには、墓地か遺跡や無人島のように映画などで骸骨が表現されている場所などを持ちださなくてはならない。しかし、墓地には幽霊やゾンビというものがあるし、遺跡や無人島の場合は、そこにいるという時点でおかしな話なのでそこで怪談の要素を付け足す必要が無いのだ。


 つまり、理科室に骸骨という特殊な状況は学校の怪談だからこその話であり、現実味は薄い。そして、そのことからある程度の予想はつく。


「おそらくこの怪談は、ただの見間違いとかそういうものだと思うよ。一応、調べるけどね」


 そう、本物だった階段の怪談と鏡の怪談に関しては、階段は社会的な視点で見ると怪談になりにくいもので、事実、偶然の事象によって引き起こされたものである。鏡に関しては、学校特有ではなく、どこでもあるようなものであり、それが学校に持ち込まれたものだ。


 つまり、社会的環境においてありえない怪異が、学校で発生するとは考えにくいので、本物である可能性は低い、ということである。


 無論、学校の怪談や七不思議が全てにおいて、ありえないことか、というと、九十九にはそうだと断定することはできない。

 定番の怪談で言うなら「トイレの花子さん」や「バッハの絵の目が動く」、「ひとりでになり出すピアノ」など。九十九にそれらすべてが偽物であるというつもりはない。ただ、トイレの花子さんはともかくとして、他は本物である可能性が限りなく低いと言えたというだけのはなしだ。


「でも、この怪談は見回りの警備員さんと先生の証言が元になっているみたいだったんですよね。生徒の見間違いとかなら分かるんですけど先生方の場合はどうなんでしょうか。生徒たちをむやみに不安がらせることは避けると思うんですよ。特にタカヨシの一件が有ったので」


 真鈴の言い分はもっともだった。特に、実際に被害者として孝佳が病院に入院しなくてはならない状況という結果があることがあって、様々な噂が飛び交うような状況で、教員達が不安を募らせるようなことを言うとは思えない。


「今までにあったのが本当にあったことが元の噂だったから、この場合も本当にあったことだと思うんだけど」


 九十九は改めて、真鈴の話した怪談について考える。今までの怪談と同じなら、やはり、その中に解決のヒントがあるはずなのだ。


「踊る、……襲うとか殺すとかじゃなくて、踊るっていうのは珍しいよね。それに、理科室だけに明かりが灯るっていうのも、怪談では定番だけど、実際に起こることじゃないと思うんだよね」


 普通に考えて、廊下や他の教室の電気が消えている状況で、理科室だけの電気がついているということは考えにくいだろう。


「とりあえず理科室を調べてみる?」






 そんな経緯で、九十九と真鈴は理科室まで来ていた。私立九白井高校の理科室は、普通の高校の理科室と比べてもあまり変わりないものだろう。むしろ、特殊な理科室というのがどういう理科室なのだという話なのだが。


 危険な薬品などは、理科準備室の鍵付きの棚に入っている。この理科室の特徴をしいてあげるなら、水槽に魚がいることだろう。また、日に弱い魚の関係か、窓の半分は常に暗幕が常にかけられている状態にあることくらいだ。


「別に骨格標本には仕掛けらしいものはありませんねぇ」


 真鈴がそう言う。一応、九十九が異常なものがなさそうなことを調べてから真鈴が調べているので、真鈴に万が一のことはないように配慮していた。


「まあ、いたずらで仕掛けるにはリスクが高いから。学校の備品に何かしたらすぐにばれるし、万が一壊したら……って考えちゃうしね」


 学校の教室というのは、一定の割合で使用する人が居る。また、掃除にしろ教員にしろ、それなりに入ることが出来る人が居る環境で何かをしかけるというリスキーなことをしたり、バレる可能性があることをするという危ういことをしたりはしないだろう。


「そうなるとどうして踊るんでしょうね。まさか、夜になると意思を持って動き出す、みたいな……映画でありましたよね。博物館のやつ」


 昔見た映画を思い出した真鈴がそんなことを言い出した。真鈴としては結構真剣に言っているのだが、九十九は失笑していた。


「骸骨系だとドラゴントゥースウォーリアー……ギリシア神話のスパルトイなどが有名だけど、やっぱり霊力の気配はないし、違うと思うんだよね」


 骸骨というのは亡骸と言う意味でも、妖怪などに使われているかと思いきや、実は骸骨の妖怪というのはあまりいない。


 有名な骸骨の妖怪というと狂骨だろうか。しかしながら狂骨も具体的な説明がなされているわけではない。骨女という妖怪もいるが、実害がある妖怪というわけでもない。また、知名度で言えば、がしゃどくろがトップクラスかもしれない。


 しかしながらがしゃどくろという妖怪は他の妖怪とは少々違う存在である。多くの妖怪は民間伝承や江戸時代の百物語などを元にしている。その時代の妖怪ならば鳥山(とりやま)石燕(せきえん)が多く書き残している。だが、がしゃどくろという妖怪は、戦後、とりわけ昭和中期以降に生まれた妖怪である。戦死者たちの回収されない亡骸が集まって巨大な骸骨になった妖怪である。


 そういう意味で、がしゃどくろは他の妖怪とは出自の経緯が異なる妖怪なのだ。


 西洋では九十九の言うギリシア神話のスパルトイなどは骸骨の戦士として表されることもある。


「妖怪……ううん、まあ、付喪神とかの可能性もなくはないけど」


 そんな時、九十九の耳に微かな振動音を捉えた。東校舎最上階にある理科室、その上で何かの振動音が聞こえたのだ。


「振動音、確かこの上って発電機が」


 そこで九十九は気づいた。おおよその推論がそこから導き出される。むしろ、その現象をその目で見ればはっきりするのだ。


「真鈴、見てれば分かるよ、これは怪談でもなんでもないや。理科室っていう特殊な環境が生み出した偶然だね」


 その時、校舎が暗闇に包まれる。節電だ。階段の怪談の頃から生徒たちが話していたように節電が行われている。そのため、夕方以降は節電状態に切り替えるのだ。しかし、理科室では魚たちの水槽の様に電力の問題で節電されると止まってしまって生命の危機にいたるものもあるので、別に発電機が用意されているのだ。つまり節電状態になると起動する発電機の振動が骨格標本に伝わり踊っているように見えた。そして、他が節電状態で消えているのにも関わらず水槽の電気やそのほかなど、理科室だけは明かりが灯っているのだ。


「ってことだよ、真鈴。ほら、骨格標本も踊ってる」


 状況を説明しながら九十九は笑った。真鈴は感心しながら踊る骸骨を見つめているのだった。



 こうして踊る骸骨の階段は解決したのである。

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