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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
魂魄騒動編
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092話:美少女霊能探偵九十九其ノ一・霊能少女の日常

 日本という国の古都、京都。その中でも北西部にある山の奥。そこにある高校。私立九白井(くしろい)高等学校。名前からでは分かりづらいが、女子校である。こんな山奥に建てた理由はいくつかあるが、一つは、外界との隔離が目的である。


 とはいうものの、全寮制というわけでもないので、街へ出掛ければ外界に触れる機会はいくらでもあるのだが、この場合は学校にいる間は完全に隔離するという意味である。

 ここに通うのは、格式高いお嬢様というわけではない。進学校というわけでもないし、女子中学生が滑り止め受験に利用することが多いくらいである。ただし、それは普通科に限った話だ。


 この私立九白井高校は、普通科の他に理数学科と外語学科がある。普通科の学力は、一般的な高校と同じ程度だが、理数学科は有名理系大学進学率で高水準を維持、外語学科は非常に高い語学スキルが習得できるとして話題になるほどで、外語学科出身の女性は数か国語をマルチに話せるため海外支社や海外工場、提携会社があるなどの場合は、とても役に立つと企業からも評判である。


 そんな私立九白井高校の理数学科に籍を置く生徒の中でひときわ有名な生徒が居た。それは生徒間においても教員間においても有名な生徒である。その名前を、稲荷(いなり)九十九(つくも)。京都では伝統のある稲荷家の長女である。


 何故、彼女が、妹の八千代(やちよ)とは違って、私立の女子校に通っているかというと、そこにはそれなりの理由が存在するのだが、割愛する。

 現在18歳の彼女は、高校三年生である。家の用事等で何かと欠席しがちな彼女だが、無事に卒業することができそうだった。


 そんな彼女には一つだけ気がかりなことがある。冬休みだというのに、制服を着て学校に向かっているのにはそれが関係していた。


 ――失踪事件。私立九白井高校では、一年と少し前に、当時高校一年生の女生徒が行方不明になった事件があった。未だに女生徒は発見されていない。生きているのか死んでいるのかも分からない。

 九十九はその行方不明の少女と仲が良かった。悩みを抱えている様子もなく、かといって突然連絡もなくどこかに行くような無責任な子でもなかったため、九十九は事件だと主張したが、警察を含め、学校側も高校生という多感な時期で、無理をしていたり、高校が合わなかったり、受験に失敗したという思いがあったり、といろいろな理由で迷走しやすい時期であるため、自らいなくなったということで決着した。


 いくら京都の名家、稲荷家の長女といえど、証拠がなさすぎることに、無理やり警察を動かすわけにもいかなかった。それゆえに、九十九は心残りを残したままなのである。

 山奥にある学校なら、山で行方不明になったのでは、という考えもあるにはあったが、どんな方向音痴でも、まっすぐに進んで3日も歩けば人のいる方に出る。普通に方向感覚があれば、数時間もなく街に出るだろう。そうでもなければ学校に通えないだろう。


 稲荷九十九という人間は、行方不明の少女を放っておくことが出来る性格ではない。しかし、年を経るごとに、生徒たちは行方不明の生徒のことなど忘れていく。理数科という環境もあるのだろう。勉強の厳しい環境で、周りの生徒を気にかけることが出来るのは九十九の様な勉強しなくても勉強ができるタイプか、落ちこぼれと呼ばれる部類かのどちらかだ。後は、自分の勉強で手一杯。もしかしたら、勉学が学生の本分であるように、それが高校生にあるべき姿なのかも知れない。しかしながら、学校という場所を与えられるのは、それだけが理由ではない。勉学をするだけなら極論、学校という空間は必要が無い。それでも学校が用意されているのは、同じ年ごろの人間と触れ合うことに意味がある。これは友情云々という精神論ではなく、社会に出てからのコミュニケーション能力を養うことや人との協調性を得るという意味でもある。


 九十九の情報収集も、人間の忘却に阻まれ、徐々に滞る。ただでさえ少ない情報が集まらなくなって、九十九も八方ふさがりとなっているのだ。


 陰陽師、唯人とは異なる稀人。そして、サルティバの恩恵を受けた神遣者でもある。そんな非凡な存在であるにも関わらず、行方不明の後輩一人見つけることが出来ないことを九十九は歯がゆく思う。

 九十九一人の力ではどうにもならないので、先人の知恵を借りるべく、稲荷一休の書物を読み漁ったこともあった。しかし、人を見つけることが出来るような技術は書いていなかったし、書いていたかもしれないが、大半が解読不能だった。


 八千代や七雲に頼ることも考えたが、結局、能力的には九十九の方が上なので、人海戦術にしか使えない。


 つまり、力を借りるとしたら他家の力を借りるほかない。しかし、それは司中八家の人間として、最後の手段でしかなかった。卒業が間近になったらそうするほかないのだろうが、この段階で使うのにはためらうものだ。


 そもそも、他の司中八家でこの状況を覆せそうな一族がいない。【退魔】の市原家、【古武術】の明津灘家、【我流】の支蔵家、【殲滅】の冥院寺家、【楯無】の武田家に人を探す術があるとは思えない。そして、【日舞】の雪白家。この家には、奉納という神の恩恵がある。人を探すことは不可能とは思えないが、今の面々でそれが可能かどうかというと微妙なところだ。唯、一人を除いて。

 カーマルの恩恵という、九十九と同じ異常な存在であり、かつ、謎の技術を複数持ち、稲荷一休のことを「ハゲ」と呼び知っているようなそぶりを見せ、あの武田家の当主、信姫が敵わないと確信しているという、現在、司中八家で最も注目されている存在。雪白(ゆきしろ)煉夜(れんや)


 九十九は思っていた。雪白煉夜という規格外の存在ならば、もしかして見つけることができるのではないか、と。


 九尾の狐を式とした彼こそ、自分の求めている存在なのではないか、と。


 だが、手を借りようと、手を伸ばすことが出来なかった。雪白煉夜という存在をサルティバの恩恵でなぞると、余計に。


 決してプライドの問題などではない。プライドだけで済むのなら、とっくに他の家に頭を下げて、探しているだろう。だが、これは家の問題でもあった。司中八家どうしてで借りを作ることは、弱みを見せるということでもある。それだけで、稲荷家という家全体に関わる問題になる。九十九一人の問題ならばまだしも八千代や七雲たちに迷惑をかけるような真似は出来なかった。

 煉夜に関しても似た様なものだ。結局は、司中八家の人間なのである。言えば、家とは関係なしに手を貸してくれるだろう。だが、それを雪白家が利用しないはずがない。


 ましてや、雪白煉夜という人間が、九十九と赤縁でつながっているとサルティバの恩恵で見えてしまったなら余計に、家の問題に巻き込むわけにはいかない。


 何より、八千代のためにも雪白煉夜との赤縁は切るべきなのだ。だが、九十九にはそれが出来ずにいる。


 思えば、行方不明の彼女は、雪白煉夜とどことなく似ているような気がする、と九十九は思う。


 雰囲気や気配は全く違うのだが、それでも似ていると。その全てを受け入れるような感性と、人のために何かをしようとする意思。その人間としての本質が2人はそっくりなのだ、と九十九は思う。ただ、雪白煉夜という人間はその受け入れる感性の幅が異様に大きい。まるで、全く違う価値観のものを長年見続けてきたかのような、そんな感覚。後輩の彼女はまだまだ未熟だった、その感性が雪白煉夜はずば抜けている。


 出会えば気が合うか、もしくは激しく気が合わないかのどちらかだろう。同じ感性の持ち主として共感しあうか、同族嫌悪で激しくののしり合うか。そんな愉快な想像をしてしまうほど、似ている。


 これは実際に後輩の彼女と親しかった九十九だから分かるのだろう。サルティバの恩恵などとは関係なしに確信できることだった。


 そう言う諸々の事情を含め、九十九は一人で彼女を探していた。死んでいるはずがないと思い、この一年ちょっとの間、ずっと。時間を見つけて、或いは時間を作ってまで、ずっと探していた。手がかりがないわけではないが、九十九では、その手がかりからたどり着くことが出来なかった。その点に関しては、七雲の方が、まだ、手がかりからはたどり着けた可能性があるだろう。


 九十九はあくまで陰陽師である。サルティバの恩恵などはあるものの、あくまで、陰陽師であることは変わらない。そこが彼女が躓いている原因とも言えるのかもしれないが、本人はそれに気づくことが出来ないのだ。


 そんな彼女が、ついに、その後輩と再会することができた。否、再会とは言えないのかもしれない。


 道端で、九十九は後輩を見つけることが出来た。しかし、その様子はおかしかった。そして、サルティバの恩恵を持っている九十九には一目瞭然である。目の前にいるそれが探し人ではないことに。


真鈴(ますず)……?ううん、煉夜君?!」


 いくら似ていると言っても間違えるはずがなかった。見た目は完全に九十九の探し人である白原(しらはら)真鈴(ますず)であるものの、中身が違う。中身は、魂は間違いなく、雪白煉夜である。

 「真鈴(れんや)」は、振り返る。この途方に暮れた状態で己の名を呼んだ人物の方へ。そこにいたのは、見知った顔。


「稲荷、九十九……」


 真鈴(れんや)の言葉に、九十九は、確信する。目の前の真鈴は真鈴ではなく煉夜であると。真鈴が九十九のことを呼び捨てにするはずがないからだ。


 だが、動いている様子を見ると、どうしても思い出す。稲荷九十九は思い出す。あの一年半前の日々のことを。


 稲荷九十九と白原真鈴の出会いを七不思議と共に思い出す。私立九白井高校の七不思議。そこから全てが始まった。



――これは、七不思議から始まった記憶の物語。



――これは、稲荷九十九の呪いの思いでの物語。



――稲荷九十九が、雪白煉夜と真に出会う物語。

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