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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
英国決着編
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088話:MTTの野望其ノ弐・メモリアルパレード

 バッキンガム宮殿の庭。その中心で煉夜と小柴が佇んでいた。本来結界を張るはずのハイドパークではなく、バッキンガム宮殿なのは、場所に意味はないからである。否、その言い方だと語弊が生じるので、言い直すと、ハイドパークだけに結界を張るのではないので、その周辺、範囲内ならば場所に意味はない。


 そもそも、敵がいないハイドパークに結界を張ったところで意味がないのである。そのため、今回の結界を張るにあたり、2人はそれぞれ役割分担をしている。


「レンヤ君は索敵と捕捉を、こちらで結界の魔力を制御するから」


 小柴がそう言う。本来、自然豊かなハイドパークでは小柴が本領を発揮する場なのだが、魔力をさほど持たないこちらの世界の植物では、呼びかけもあまり意味をなさない。つまり、この場における索敵では煉夜の方が精度も範囲も上なのである。だから小柴は、結界の制御に魔力を回すことにした。


 互いの手の甲に【創生】と【緑園】、それぞれの聖紋が浮かび上がる。バッキンガム宮殿の結界を破壊し、吹き飛ばすほどの魔力を2人が放つ。


「――八の方に連なる聖女よ、この身に力を」


「――神に叛逆せし六の魔女よ、この身に力を」


「――その身に刻みし十四の聖紋よ、我に力を」


「――その身に刻みし烙印の名々よ、我に力を」


「――世界を守れ、」「――世界に唄え、」


「――世界を探せ、」「――世界に背け、」


「――世界を捉え、」「――世界に縛れ、」


「――捧げるは、【創生】」「――捧げるは、【緑園】」


 まるで倫敦全土を覆うかのように、淡い光を放つ魔法陣が広がっていく。広がりを小柴が制御し、その範囲内の索敵を煉夜が行う。


「「広域索敵結界捕縛魔法――『咲狂う少女の祈り(ラ・ファムリィテ)』」」


 純白の魔法陣を、赤紫の魔力が駆け巡る。煉夜はその中で、知るはずもないMTTのメンバーを捕捉し、結界に巻き込んでいく。知らない人物を捕捉するというのはおかしなことではあるが、それがこの魔法の神髄ともいえる。「広域」かつ「索敵」、「結界」、「捕縛」の要素を持つ魔法である。それらが掛け合わさり、世界そのものに呼びかける魔法となっているのだ。


「全部捉えた。結界はどうなってる?」


 煉夜が小柴に聞いた。本来、この広域索敵結界捕縛魔法は、魔女が4人がかりで使うものである。それを無理やり2人でやっているので失敗する可能性もあった。


「大丈夫。ハイドパークに結界を張れてる。けど、たぶん、一日は持たないかな」


 小柴は結界維持に魔力を放出し続けることになる。それもあってバッキンガム宮殿の中で魔法を行使したのだ。結界の修復が既に始まっていることからも分かるように、バッキンガム宮殿は2人の「薔薇(チューダー・ローズ)」と日本の陰陽師の中でも奉納系が得意な【日舞】の雪白家御用達の神前結界の合わせ技である複合結界を用いている。MTTでも容易には崩せない。魔力の制御に集中している関係で、戦闘に参加するのが難しい小柴を戦場に無防備に放置するわけにもいかないので、結界内であるバッキンガム宮殿が最適だったのだ。


 なお、一日しか持たないというのは、小柴の魔力の所為ではなく、2人以上で張る結界を一手に引き受けたせいである。そもそも本来は、4人の魔女が結界を張り、その中を残りの2人が広域魔法で殲滅するという必勝パターンをもとに編み出されている。魔力の関係上、聖女で行うと、結界5人、殲滅3人になるが聖女は8人いるのでバランスが取れているとも言えた。


「まあ、一日あれば十分か……。しかし、情報とかの問題もあるから捕縛しなきゃならないのは面倒だな。もっと、こう、捕縛専用魔法みたいなのがあれば楽だったんだがな」


「そういうのは【四罪の魔女】の得意分野だからね~」


 広域殲滅魔法と言わずまでも、煉夜には、この程度の広さの結界内を覆い尽くす攻撃ならばいくつか手段がある。幻想武装以外にもハイドパークの広さならどうにかなる魔法はそこそこあった。だが、殺してはならないとなると、中々難しい。向こうの世界ならともかく、この世界のそれも外国だ。いくら敵対組織とはいえ、殺せば国際問題に発展する。その辺を気にしない煉夜でも、情報収集ができないというのが厄介なのは気にしなくてはならなかった。


「しっかし、面白い魔法ね。顔も名前も知らない人間を特定して結界に閉じ込められるなんて、普通じゃないわよ?まあ、おそらくMTT……奴らからすればグラジャールの輝き、だったかしら、その認識を要に、その一員だと自己認識があるものに干渉して結界に引きずり込んでるんでしょうけど」


 いつの間にか近くに来ていた裕華がそんな風に言った。そして、その考察は的を射ている。概ねその通りの魔法だ。


「まあ、この魔法そのものは、元々、神を捕縛するために作り上げたものですから。世界そのものに干渉して、その認識を要に結界に封じ込める魔法。上手くいくと思ったんだけど、やっぱり、失敗。神があちこちに語りかけて神の言葉をばらまいて、自分が神に選ばれた、神であるっていう人間を複数作った所為で中断したしね」


 小柴が苦笑した。十四人で考えた苦肉の魔法だったが、神の方が一枚上手だったという話だ。


「神ねぇ……」


 裕華は小さく呟いた。神とは縁深い裕華としては微妙な気分なのである。






 一方、結界内、ハイドパーク。後で煉夜も合流する予定ではあるが、そこには既にリズとユキファナとアーサーと美鳥がいた。リズ達ではなく、王室の問題として、他国の人間に位置から十までやってもらったのでは、英国の面目丸つぶれであるため、先攻役として4人を結界内に配置していたのである。ユキファナと美鳥は日本人だが、前者は英国籍、後者は王室直属の魔法学校生だ。まだましである。


「これが魔女の広域結界……伝承では知っていましたが、普通ではありませんね」


 リズはそんなことを呟いた。無意識の呟きで、本人も何を言ったか自覚していないだろう。しかし、その呟きは、ユキファナの耳に届いていた。


「伝承……六人の魔女の話はこの世界には伝わってないわよね……、まさか」


 ユキファナは、リズの魂を覗き見る。魂の奥の奥、まるで封印がかかっているかのようなその奥に、陰りを見た。


「……っと、悠長に話している場合じゃなさそうね」


 見えたものについて、リズに聞こうとした矢先に、ハイドパークは敵で満たされる。其れならば聞くのは後回しにするほかない。


「こいつは厄介だな。ハイドパークか……、それにエリザベス殿下とアーサー王まで居やがるたァ、こりゃ、ハメられたかァ?」


 男が周囲を見回しながら言う。グラジャールの輝きのリーダー、ガドリアドである。その周囲には多くの人間がいる。そのほとんどが状況を掴めていないことから、冷静に分析できるだけあって、リーダーの素質があるのだろう。


「その様だな。しかし、知らない魔法だな。このような高等魔法があるとはMTRSも捨てたものではないのか」


 眼鏡をかけた男、ミガンド・ゲーがガドリアドに言う。リーダーと副リーダーが揃っていることで安心したのか、周囲のどよめきも落ち着き始めていた。


「いや、違ェなァ。こいつは、MTRSじゃァ、ねェよ。日本戦でライドをやった野郎だろうぜ。『薔薇』にしちゃ、歴代最高の殿下がここにいるのはおかしいからなァ」


「なるほど、結界を日本人に任せる代わりに、結界内には英国人、か。王室の意地とでもいったところか。浅はかだな」


 リズは、全てを見透かされていることに、歯噛みしながらも、胸に提げた聖杖ミストルティを握りしめる。


「てことはよォ、これ以上、敵はでてこねェよなァ!この戦力差ならいけるだろうがァ、なァ!」


 言うが早いか、ガドリアドはリズの方へと駆け抜ける。まるで、その行動に呼応するかのように、ガドリアドの手に、漆黒の刃を持つ禍々しい剣が現れる。


「シーザリアック血晶式魔鎌術、破邪炎柳閃!」


 それを止めたのはユキファナだった。シーザリアック血晶式魔鎌術は、かつて師事したフィーア・ベルザック・リアックから教わった禁忌の鎌術である。


「そうそう簡単にリズに手を出させるわけないでしょうがッ!」


 死神の鎌から炎が枝垂れるように無数に伸びる。それを振りぬくことで大きな炎の鎌となる。


「ぶち壊してやらァ、グラジャール!」


 漆黒の刃を持つ魔剣、グラジャールにガドリアドは魔力をありったけ注ぎ込む。ドス黒い輝きを放つグラジャール。


「魔剣の相手は、聖剣ですよ!」


 アーサーがグラジャールを《C.E.X.》で受け止めた。黄金と漆黒の魔力がぶつかり合う。その衝突の派手さの裏で、隙を突くようにミガンドが魔法を放つ。


「――弾け、跳べ。――雷牙!」


 鋭い雷が宙を走る。まっすぐにリズへ向かったそれを、リズはフィンガースナップ一つで打ち消す。


「その程度の魔法がわたくしに届くとでも?」


 リズはそう言いながら、無数の雷をミガンドに向かって放つ。およそ、ミガンドの雷の十倍以上の威力の雷が、ミガンドを囲むように迫る。


「無詠唱、ノータイムでこの威力、化け物がッ!


 ――落ちろ、曲がれ。――避雷針!」


 雷を避けようと、地面に誘導するミガンド。しかし、いくら逸らして、規模が大きすぎて、余波を喰らう。


「グッ……ばかげている……!これが噂の天才、魔法の申し子かッ!」


 そうミガンドが口に出した時には、目の前にリズが迫っていた。腰の剣を抜いて、眼前に迫るリズ。


「わたくしができるのは魔法だけではありませんよ」


 その切っ先が自身に迫るのを目視できなかったミガンドは、思わず目を瞑った。しかし、それをグラジャールが弾き飛ばす。

 乱戦の中、グラジャールの輝きの面々も、リーダーと副リーダーを助けようと、我先にと駆けつけようとしたり、魔法を放とうとしたりするが、そこに矢とそれに付与された魔法が炸裂して、上手く駆け付けられない。


「まあ、ワタシがサポートタイプなのは認めるけどさ……」


 そう愚痴りながら、美鳥は弓を引く。彼女の専用武装が圧倒的なまでの命中力、素早さをサポートしている。


「チィッ!切り刻めッ、グラジャール!!」


 グラジャールが漆黒の魔力を纏い、全てを飲み込む勢いで広がった。

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