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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
英国決着編
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087話:MTTの野望其ノ一・グラジャールの輝き

 煉夜達はバッキンガム宮殿内の会議室に集められていた。無論、これから始まるMTTとの戦いに備えてである。会議室にいるのは、煉夜、リズ、アーサー、小柴、ユキファナ、美鳥の6人である。水姫は、陰陽術を用いて、現在バッキンガム宮殿に張られている結界をさらに強化するための実験に駆り出されていた。姫毬はその護衛兼サポートである。雪枝は、自室で寝ている。ミスアオバこと裕華は、先んじて敵の様子を探りに出ている。


「MTTに関して日本から情報が入ってきました。独国、仏国のスパイがいる確認が取れました。よって、これからMTTとの戦いについて考えていきたいと思います」


 リズが司会を務めていた。立場上の問題だろう。煉夜はふと思う。考えてみれば、犯罪組織以上の認識をしていなかった、と。それ以上の情報を一切持っていないのだ。油断しているわけではなかったが、流石に、情報なしで戦うのは無理だろう。


「MTTとはMagic The Transgressionといい、魔法を使った犯罪組織です。主な罪状は、殺人、強奪、強姦、殺人教唆などです」


 殺人、それもそうだろう。「悲槍のライド」も20人を殺した殺人犯である。それを擁する組織に殺人犯がいないはずがない。


「MTTの名称はMI6が独自に付けたもので、彼らは『グラジャールの輝き』を名乗っています」


 「グラジャールの輝き」。その名前を名乗り始めたのは、かなり昔のこととなる。


「そもそも、この組織の起源は、数十年前に、700人ほどの死者が出た『ミハイロ事件』まで遡ります。魔剣グラジャールを手にした者が、惨殺したのです。この頃、丁度、別の地域にて、街が木々に覆われる怪現象が起き、MI6の大半がそちらに向かっていたために防ぐことが出来ませんでした」


 重なった偶然により、防ぐことのできなかった事件。しかも、怪現象を解決したのもMI6ではなく、「魔堂王会(まどうおうかい)」という組織のリーダーだった少女である。MI6の面目丸つぶれであった。


「それをきっかけに、『グラジャールの輝き』の名で、犯罪者、特に殺人犯などが集まる組織になったようです」


 700人の惨殺ともなれば、そこに魅せられてしまうものたちが出てしまうのは仕方がないだろう。例え間違っていることだとしても、その圧倒的なまでの凄惨さに影響される人は少なからず出る。例えは悪いが、高校生が不良やタバコに憧れるようなものだ。


「しかし、まあ、よくも700人も殺されたものね。日本じゃ考えられないわ」


 美鳥が言う。日本での猟奇的殺人と報道されるのでもせいぜい数人から十数人くらいである。


「英国でも普通はそんなことありません。ですが、あの時期は、少々おかしかったとも言えます。北欧で48人の犠牲者が出た落盤事故も魔剣を使った殺人でしたし、その他にもいろいろあったようですから」


 リズも実際にその時代に生きていたわけではないが、資料で見る限り、おかしなことが大量に起きていることが分かっている。


「……オレから一つだけ訂正することが有ります」


 アーサーが挙手をして言う。今のリズの話に訂正するところがある、というのだ。リズは何か間違えたか、と資料を見直すが、特に間違えているような部分はなかった。


「起源という部分だけは訂正させてもいます。起源はもっと前にあるんです」


 その言葉にリズは小首をかしげる。そんな情報は、集めてきた資料の中のどこにもなかった。リズは王室の資料とMI6の資料を漁ってきた。しかし、そのどちらにも載っていない情報があるということになる。


「『惨殺祭』。当事者で、今もなお生きているのは1名と言われている大事件です。80年ほど前でしたか、その事件が起きたのは」


 ミハイロ事件ですら20年ほど前なのに、さらに60年前。そんな昔からMTTが暗躍していたということになる。


「80年前だったら、流石に違うんじゃないの?それに事件の当事者って何、犯人?」


 ユキファナがアーサーに問う。アーサーは、静かにため息を吐きながら、その説明をすべく口を動かす。


「当事者というのは唯一の生き残りですよ。総死者数2001人の悲惨な場所の中で唯一生き残った少年です。そもそも、この事件は、先代アーサーがアーサーになる以前に起きた事件なのですが、その記録が先代アーサーとその代の円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズによって記されて残っていたのです」


 先代アーサー、英国では、かなりの有名人であり、美鳥ですら噂に聞く、強い人物だった。その先代のアーサーが、それよりも前の記録を残すというのは不可解である。


「どういうこと?アーサーがアーサーに就任する以前の出来事の記録を残したって話になるけど、おかしいじゃない。当事者でもないのに記録を残すなんて」


 疑問を口にするユキファナ。そう、知らないことを記録に残すのはおかしいという考えは、その通りなのである。


「ええ、オレもおかしいと思って資料をよく読みました。すると分かったんです。『惨殺祭』の実行犯は、先代アーサーが就任する以前に就任していた円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズ、ランスロットであると」


 そこでリズは思い出した。リズもその話を知っていたのである。だいぶ前に読んだのでおぼろげだったが、リズはその内容を口にする。


「確か、危険な異能者を殺すために止む無く2001人を惨殺したという話でしたよね。仕方がないとはいえ、その責任を取ってランスロットは円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズを除隊したとか」


 リズの話にアーサーは頷いた。そう、それがMI6と英国王室にある資料に記されていることである。


「ええ、表向きはそうなっています。ですが、真実は違いました。先代アーサーは、日本で、その唯一の生き残りに遭遇し、その真実を知ったのです。2001人の中に異能者はいない。そして、唯一の生き残りであった彼が異能に目覚めたのも、惨殺が原因である、と」


 それが意味するところは酷く単純である。そして、とんでもない事実であった。だからこそ、隠されたのだろう。


「つまり、ランスロットはただの人間を2001人も殺したということですか?」


リズのことばにアーサーは頷いた。先代アーサーもこれを知った時には酷く驚いたのだ。


「でも。それが、MTTとどうつながるんだよ」


 今まで沈黙していた煉夜が言う。そう、確かにとてつもない事実ではあるが、今の話だけではMTTの起源とは関係が無いのである。


「話はその先です。生き残りは一名だけでしたが、その事後処理をしたMI6に、ランスロットの影響を受けた人々がいたんです。ランスロットを崇拝するようになり、そんな人々が集まって秘密組織を作りました。そこから長年ランスロットの行いを崇めるという形だけで存在していましたが、魔剣グラジャールを手に入れたことをきっかけに、自ら惨殺を行い、それがMTTという形に発展していったのではないか、と先代のアーサーが考察していました」


 2001人もの死者が出たのだ。その事後処理という名のもみ消しには相当な人数がいただろう。それだけいれば影響されるものも増えて当然だろう。


「しかし、先代のアーサーが日本に行ったって話か……。確か、リズの父さんが言っていた、先代のアーサーが日本で負けたことがあるってのはもしかしてその時か?」


 復讐に駆られた剣に負けたのか、と煉夜は思った。アーサーは苦笑しながら、頷いた。


「まあ、そうですね。その時と言えば、その時です。オレが聞いた話だと、先代はその生き残りと戦ったわけではないみたいですけど。負けたのは円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズとして数えるならローランらしいですよ」


 本来の円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズにローランは存在しない。ローランはシャルルマーニュ十二勇士の筆頭である。そして、伝説の聖剣デュランダルを持つことでも有名だ。


「そもそも、『聖王教会』の円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズは所持している聖剣を元に創られた枠で、本来のものとは大きくかけ離れているんですよ。13席ではなく7席しかないうえに、アーサー、ガウェイン、トリスタン、ランスロット、ゲオルギウス、ローランですからね。7席なのに6人しかいないのは、アーサーが聖剣を2本分持っているからですね。呪われた席とは関係ありません」


 つまり、聖剣デュランダルの使い手こそが、アーサーを破った人物である。それも円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズとして数えるならば、ということは、その時点で、中まではなかったはずだ。


「聖剣使い、か。それもお前らの話を聞いている限り、かなり強いと思われる先代アーサーよりも強いってのはちょっと会ってみたいな」


 煉夜がそんなことを言っていると、会議室の扉が開き、多少疲れた様子の裕華がはいってきた。


「偵察に行ってきたわよ。てか、何の話?」


 裕華がそう聞くので、アーサーが裕華に資料を見せた。その資料を見た裕華は眉根を寄せた。


「ん……この名前、曽おじいちゃんの名前ね。ふぅん、こんなこともやってたのね」


 ぼそりと呟いた裕華の言葉に、一同が固まった。先代を倒した謎の人物は、裕華の曽祖父である。


「って、んなことよりも、偵察の結果を言うわよ。なんというか、まあ、当然だけど、日本で失敗したことで、王室が潰しにくると踏んで、奴らもこっちに仕掛ける準備をしてたわね。まあ、スパイ云々を抜きにしても、奴らからすれば、王室を狙ったんだからそれ相応の覚悟をしてはいたみたい。ガドリアドって男が指揮してたから、リーダーでしょうね」


 固まった皆が意識を戻した。先代アーサーの話も気になるが、それよりも目の前の問題の方が優先事項だった。


「ええ、ガドリアド、その名前はこちらでも調べがついていました。副リーダーのミガンドという男も中々曲者のようですね」


 敵が動くというのなら、場所を考えなくてはならない。リズ達が仕掛けるのならば、敵地ごと制圧すればいいのだが、向かってくる場合は、周辺の被害も考える必要があるのだ。


「しかし、厄介ですね。バッキンガム宮殿内におびき寄せるのも手ですが、難しいでしょうし」


「むしろ、ハイドパークに誘導したほうがいいんじゃないのか」


 ハイドパークならば広さとしては十分にある。しかし、問題点も多い。


「人が多いですよ。ハイドパークを封鎖するなんてことはできませんし」


 そう、人が多い。流石に多くの国民を巻き込む形で戦うのは、リズにとっては本意ではない。


「別に正々堂々戦うって訳じゃねぇんだし、向こうも人がいるところで仕掛けてこない……といいんだがな。殺人が崇められるようじゃあ、流石に厳しいか」


 日本では人のいるところは避けていたようだが、英国でも同じとは限らなかった。どうするべきか悩む。


「結界とかで隔離できないの?たしか、六人の魔女にはそういう魔法があるって聞いたけど」


 美鳥の言葉に煉夜と小柴が顔を見合わせた。

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