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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
英国到来編
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074話:英国の決着

 戦いが終わり、煉夜達は改めて雪白家に集まっていた。MTTの面々はライドを含めて木連がどうにかすることになった。問題は、先の戦いで明らかになったリズの身分である。もっとも、雪枝はともかくとして、煉夜を除けば全員が知っていたことだ。煉夜もなにかあるだろうくらいには勘付いていた。


「それで、エリザベス四世さん……だったか?まあ、身分というか重役そうなアーサーが護衛についているくらいだから身分は相当だろうと思っていたが、英国王室関係者とはな。まあ、俺としては、王族だからどうこういう気はないし、口調も改めるつもりはないが」


 そも、煉夜は王族というのによい気持ちを持ったことはない。皇族関係者は幾人か知り合いやそのほか縁のある者がいたが、王族や貴族というのはどうにも煉夜はあまり好いていないのだ。それはリズがどのような人柄であれ、変えられるものではない。


「ええ、構いませんよ、煉夜様。煉夜様は、我々を救ってくださったのです、そんな人に口調程度で怒りをたむければそれこそ王家の恥ですよ」


 にっこりとほほ笑むリズ。アーサーはやれやれとでも言いたげに肩を竦めた。本来、アーサーの立場なら止めなければならないのだが、あれほどの武勲を立てた相手をないがしろにするのは騎士道にも反すると、黙認した。


「そうか。それよりも、まあ、今回の戦いで、裏もおおよそ見えてきたし、英国も英国で大変だろうな」


 煉夜は自分のことはどうでもいいと言わんばかりに呟いてから、そうリズ達にいった。この戦い中、煉夜が感じていた違和感の正体が、ようやく分かったからだ。


「裏……というのはどういうことですか?まるでMTTを裏で操っていた存在がいるかのように聞こえるのですが」


 そう言ったのはアーサーだ。煉夜は前々からMTTの動きがおかしいとは思っていた。しかし、明確にどうしてそうなっているのかは分かっていなかった。空港での待ち伏せを行わなかったのもMTT側の事情だと思っていた。しかし、もしかしたらそうではなく、その裏の事情だったのでは、と思ったのだ。


「今回の戦い中、幾度か独国語が出てる奴がいたな。殴られたり、咄嗟だったり、そんなときは大抵、国の訛りや言葉が出てしまうもんだ。つまり、敵の中に独国の人間が居たとみて間違いないだろう。いくら英国に対する意識を持っていても、今回みたいな案件にそうそう他国の連中を入れないだろ」


 英国の上層の情報を他国にリークなどそうそうあることではない。


「ですが、他国と共謀してわたくしたちを狙ったという可能性もありませんか?国の混乱に乗じれば、いろいろと犯罪も働きやすいですし」


 リズが煉夜の言葉にそう返した。しかし、煉夜はそう返されることも想定済みだったようですぐさま煉夜も言葉を返す。


「犯罪者も自分の国が安定しているからこそ犯罪をやりやすいんだ。無為に他国の手で混乱させて、場所を無くす必要もないだろ。混乱に乗じるなんて手は、いっかいこっきりの技だし、それで大量に稼げても、次に自分達の国で同じことをされたら元も来ないから手を貸した国が潰しに来るだろうし」


 割れ窓理論の様に、軽微な犯罪を徹底的に取り締まることにより犯罪が減少することもあるが、綺麗なものを壊したいという危険思想があるように、そして、自分達よりも危険なものがあると、忌避しておとなしくなるように、平和だからこそ、罪を犯すということもある。この大して有事でもない、ただのチャンスというだけでリズを殺しに来たのがいい例だ。


「では、その独国の手のものは何者だと?」


 アーサーがそう問いかける。しかし、皆、もう分かっていた。それが何者であるかということは。


「だからこそ、他国の間者だろうな。今回、俺は、なんでリズとアーサーを空港で待ち伏せなかったのか、ずっと疑問に思っていた。その理由も含めると、まあ、独国の諜報機関的なやつが、英国の情報をなるべく探るために長引かせたかったんだろうな。自分達が潜入しているMTTって組織の強さも含めて知りたかったんだろ。だからこその長期戦だ。早く終わったら大して情報を引き出せないからな」


 独国の諜報機関と聞いて、アーサーには思い当たるものがあったのか、頷いた。各国にはいわゆる諜報機関や情報機関と呼ばれるものがある。日本では内閣情報調査室などが該当する。


「独国と言えば、連邦情報局……BNDですね。ですがなぜMTTに?それこそ、英国の内部を探りたいならMI6やMTRSみたいなところがあるのにも関わらず」


 秘密情報部ことMI6。英国の要とも言える組織。ここにスパイを入れれば、こんなにもまどろっこしい真似はしなくても済むのでは、というのがアーサーの考えだった。


「馬鹿ね、アーサー。んなことできるわけないじゃない。仮にも英国のトップ機関なのよ。MTRSも世界中から学生を募集するって言っても審査が無いわけじゃないわ。MI6ならなおのことね。あんたの聖王教会も特殊な審査条件があるでしょうし」


 ユキファナがそういった。それに続けるように、煉夜がユキファナの言葉に付け足していく。


「まあ、審査に通る通らないではなく、単純なリスクの問題というのもあるだろうさ。途中でバレて、自白剤なり魔法なりで要らんことを喋らせられるよりは、MTTの方がいい。情報も、他の奴らが調べたのを横流しするだけで、基本的には危険な橋を渡らずに済む、まあ、今回みたいな例外もあるがな」


 煉夜の言葉に、リズが疑問を呈する。


「ですが、いくら犯罪組織とはいえ、MTTにも審査くらいあるのではないですか?それをあんなに多くの人数、どうやって」


 リズの言葉に、煉夜は苦笑した。賞金首達と行動していたせいか、煉夜にはいらない知識が結構つまっているのだ。


「そんなもの簡単だ。英国国内の事件で犯人が捕まっていないのを適当にピックアップして、入るときにこういえばいいんだよ。『俺は英国でやらかしたから国外に逃亡して、独国で整形して今の顔と身分を手に入れた。いや~、英語を独国の訛りになるようにするのは大変だったが今じゃ、元の英語が話せねぇよ、ハッハッハッ』ってな」


 海外に逃亡して顔を変え、身分を偽装した。犯罪者ならない話ではない。顔が独国人っぽくても整形したからだ、と言い張ればいいし、跡がどうとか言われても最近の整形技術は凄い、の一点張りでどうとでもなるだろう。

 煉夜がこれを思いついたのは、魔法で変装できるのが当たり前の中にいたからだ。当人が魔法を使えずとも、魔法で顔が変わっているように見えるようにする非合法の店はいくらでもあった。身分など王族貴族以外はあってないような時代に、身分の偽装などない。他国の間者など腐るほどいた。


「なるほど……、あり得る話ですね。MTT、本格的にどうにかしなくてはならないでしょう。帰ったら……」


 英国内でも元々問題視されていたMTTがここにきて、さらなる問題点であることが発覚した。早々に手を打たねば、英国が危険だ、とリズは内心で少し焦る。その焦りを見透かしたように煉夜が言う。


「まあ、今すぐにどうこうなるものではないだろうな。調べたからといって、独国が英国に攻めてくるわけではあるまい。この時世に、表を無視して裏で魔法を使った戦争なんて理論的に不可能だろ。人工衛星なんてどれだけあるんだか」


 そう、煉夜は、独国が英国と戦争するために情報を集めているわけではないと考えていた。無論、断定はできないのだが。


「確かにそうですが、それでも独国が何もしないなどとは断定できないじゃないですか」


 リズが煉夜に言う。この現状で、今の煉夜の言葉は、あまりにも楽天的に聞こえ過ぎた。だからついそんなことを言ってしまった。


「情報ってのはいくらあっても損はしない。そう言うもんだ。英国だって、他国の情報を調べる機関くらいあるだろ?」


 そう確かに存在している。むしろなければ、無警戒するぎるとしか言えないのだ。


「まあそうですね。SIS……秘密情報部、通称MI6です。情報部、強襲部、特務部の3つがあり、情報収集は情報部が行っています」


 リズが言うので煉夜はポカンと口を開けて呆けてしまった。煉夜のその反応の意味が分からずリズは首をかしげる。


「おいおい、良いのかよ、リズ。俺は、一応、日本人だぜ。そんなに簡単に、英国の情報を漏らして、何かあっても責任はとれんぞ?」


 流石にこうもあっさりと機密情報が流れてくるとは思っていなかった煉夜は、呆れるほかなかった。なお、煉夜の一応日本人という発言は、感覚的には向こうの世界が長すぎて何人と表現していいか分からないが生国で言うなら、という話である。


「いえ、まあ、よくはないのですが、今更という気もしますし。煉夜様なら悪用もしないでしょう?」


 正直なところ、煉夜には、英国の事情など興味がなかったので、悪用する気などもとよりなかった。


「それはいいとして、それよりも、向こう帰ってからよね。できれば、雪枝は今、不安定だから見ていてあげたいんだけれど、この状況だと帰った方がよさそうだし」


 雪枝は、あれから目を覚ましていない。ユキファナとしては今、雪枝のそばを離れるのは不安だった。


「雪枝先生も連れていけばいいだろ。そんな不安定な状態で教壇に立つのは無理だろうし。授業中に姿変わったら騒ぎになるぞ」


「言って仕事を休むような性格ならこんなこと言ってないわよ。真面目だから授業授業言って英国に行ってもすぐ帰ろうとするでしょうし」


 煉夜は「確かに」と頷いて、考える。どうするべきか。そして、木連の式にも似た「遠見の魔法」を使って学校の様子を覗き見た。昨日の襲撃で破損した学校は未だに修繕は行われていない。MTTの所為で木連の指示も滞り、また、修理もうかつに手が付けられない状況だったのだ。そのため今日は休校となっている。


「この感じだと、……そうだな。無理やり今から冬休みにして、その分春休みを減らす構成にすれば、きっとどうにかなるな。まあ、受験生には悪いことをした気分にはなるが、この時期に塾にもいってない受験生が志望校に受かるはずもないだろう……きっと」


 木連に交渉することにした煉夜。まあ、煉夜も煉夜とて、正確な年齢でいうなら受験シーズンまであと少しの詰め込み期間真っ盛りの高校3年生なのだが、残念ながら今は高校2年生である。まあ、煉夜はもとより受験勉強など必要ないくらいに学力が高いし、場合によっては推薦もとれるのだが。


「できれば、英国には煉夜様もついてきていただきたいのですが。この一件で、MTTには確実に目を付けられていますし、遺恨なく終わらせるにはいい機会だと思いますよ」


 その言葉に煉夜は唸る。何やかんやと長く付きまとわれては迷惑だし、始末できるならできるうちに済ませようと思ったのである。

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