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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
英国到来編
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070話:英国挑戦状

 結局、リズとアーサーの部屋で雪枝が寝てしまったので、リズ、アーサー、ユキファナ、雪枝の四人で同じ部屋に泊まることになった。リズは煉夜も誘ったが、流石に煉夜の拒否とユキファナの文句により、渋々リズは諦めた。逆にリズが煉夜の部屋に泊まることも提案しようかとも考えたが、流石にしつこすぎて怪しまれたら困ると思ったリズは自重した。


 煉夜は部屋でベッドに寝転がっていた。今日一日で、というより、夕方からの半日たらずで、随分と愉快な知己を得たことに頭を悩ませていた。


 いずれ日本以外の魔法などに関しても調べなければ、と思っていた煉夜ではあったが、実際にこうして目の当たりにするのはもっと先だと思っていた。この世界に陰陽術が会った時点で、魔法はあると仮定して、煉夜の知っている魔法とどの程度違うのかや新しい技術など、魔法に関しては調べようとしていたのである。しかし、陰陽師の修行が始まって以降、夏休みは修行で忙しく、学校のある期間に学生が簡単に海外に行けるはずもなく、結局あきらめていた。なので、リズとアーサーに出会えたことは僥倖であるとも言えた。


「しかし、……MTTとか言ってたか?あいつらの目的は……。リズの立場はそれだけのもんってことか」


 煉夜は己の愛剣を見つめながら思う。全てを守るなどという大仰な覚悟はない。それがどれだけ難しいかの現実を彼は知っているから。だが、リズの様な幼い子供を狙うというのはどうしようもなく許せなかった。煉夜の体験してきた中には、そのような悲惨なことはたくさんあった。


 リズは話し方や態度から思わず錯覚しそうになるが、それでも10歳あまりなのは確かなことである。敵が無警戒に襲うのも、どちらかといえば、相手が子供だからという面も大きく作用している。これが煉夜と同じくらいの女性が相手なら、MTTもここまで愚かに行動しないだろう。油断があるとしたらそこなのだろう。リズがいくら強いと言っても子供、そこに油断が生じている。煉夜やアーサーも世間から見たら十分に子供である。大人と言えるユキファナと雪枝(雪枝は見た目は大人に見えないが)だけである。ユキファナも年に比べて死神の力のせいで若く見えるという点から、公式に年齢が発表されているリズともども合わせて、せいぜい大学生までの集団だと敵は判断するだろう。


 実際のところ、最高齢が煉夜で、次点でユキファナ、雪枝、アーサー、リズの順。もっとも、敵が煉夜を高齢と判断するのは困難なので、気づかれることはないだろう。


「魔法を使う犯罪集団だとしても、リズやアーサーを狙うのにそんなにメリットがあるんだろうか。ここまでして追ってきてまでリズ達を狙うからにはそれなりのメリットがなくちゃおかしいな。リスクが高すぎる」


 そう、リズを狙うなら、あくまで空港で待ち伏せすればいいのだ。来日や帰国にはそこを通る必要があるのだから。まあ、飛行機の経由を考えれば、待ち伏せする空港が無数になるという問題もあるが、東京でリズ達に追いついているということは、先回りをしていたか同じ便で日本についていたことになる。それならば、到着する空港も当然分かることになるので、そこで待ち伏せして終わらせればよかったのだ。


「リズが何者か、ってのもそうだが、それ以上に、敵の狙いってのが、よく分からないんだよなぁ……。ったく、もっと単純な話なら楽なんだが……」


 襲ってくるから倒す。それですべてが完結するならいいが、そうでないなら、煉夜としても困るのだ。これ以後にこのことが関わってくるならば、それも考慮して動かなくてはならなくなってしまう。


「単純にリズの抹殺が目的、という動きではないし。それなら学校にあんな派手な魔法を使って侵入する真似はしないだろう。あれなら、いくら反応が遅くとも、どうにか対処できてしまう。それこそ、一斉に突撃してくるならともかく、最初の一撃は一人だった。日本に気を遣う理由もないなら、それこそ学校ごと潰せばよかったんだ」


 相手の真意がつかめず、煉夜は困惑していた。相手の規模から考えるに本気であることは間違いないが、リズ達の予想に対して敵の動きが妙にちぐはぐしているように思えてならないのだ。だからこそ、何かある、と煉夜は思った。


「むしろ対処を見ていた……、いや、見てどうするんだという話になるな。まあ、今日捕らえたやつらを尋問でもすれば分かるだろうし、その辺は任せおくか」


 煉夜はそんなことを考えながら微睡んでいった。……が、瞬間、知覚域に、不意に奇妙な感覚を捉える。家に入る前に感じた、妙な感覚、それと同じものだった。


「気のせい……じゃないな。それにしても、普通じゃない」


 そう、普通ではない。異質な、それこそ龍太郎や鳳奈たちのような存在とも違う奇妙な神でも龍でも魔法使いでもない、そんな不思議な感覚。少なくとも、煉夜が今までに出会ったことはないのは確かだった。


「悪魔、とかじゃあねぇよな……、まあ、悪魔とは気配が違うから大丈夫か」


 煉夜はクールヴェスタの悪魔という悪魔と出会ったことがある。そして交戦もした。それゆえに、悪魔の気配というものが分からないわけではない。だから、今回感じているのは別の何かであるというのは分かった。


 気にはなれど、うかつに出ていくことが出来ない中、煉夜は、気配を探り続け、結局寝付けなかったのである。





 翌朝、煉夜の知覚域に、無数の敵の気配が侵入したために、眠い眼を無理やり開けて、意識を覚醒させた。時刻は朝の5時。奇襲にはもってこいか、少し機を逃した時間といえよう。夜明け前、そこが最も襲いやすいポイントである。4時から5時。この時間でようやく煉夜の知覚域内ということは、だいぶ遅い。


「この配置、山を背にしているが……、いざとなれば山ににげこんで撒けるだけの自信があるということか。つまりは、昨日の襲撃犯以外の奴らは地形の把握等を行っていたのか」


 京都の町は所謂、四神思想を取り入れた風水的な意味を持つ築き方をされている。東の青龍、西の白虎、南の朱雀、北の玄武。これらを風水的に取り入れたのが四神思想であり、東側に清流……鴨川が流れ、西側に大道……山陰道が通り、南側に湖沼……巨椋池(おぐらいけ)があり、北側に丘陵……比叡山をはじめとした山々(船岡山という説もあり)がそびえる。

 この場合、風水的な意味合いはどうでもいいのだが、敵は北側にいるということだ。京都は碁盤の目状に広がる地形を持つ。市街地戦闘になると、地域住民に見つかりやすくなるが、隠れる場所が多いのも事実である。碁盤の目状ということはそれだけ曲がり角があるのだから。しかし、言ったように地域住民に見つかるというリスクがある。敵がいくら日本をどうでもいいと思っていても、一般人の目に魔法を晒すのを避けるのは共通である。さすがに、魔法を見られただけで殺していたら京都は惨劇の海と化すだろう。そして、その分向こうが背負うリスクも重くなる。それだけのことをして市街地戦闘を行うとは思えないため、煉夜は、この後、敵は攻めてこさせるように挑発してくるだろうと予想した。

 つまりはカウンター戦術を使いつつ、危険を感じたら山ににげこむことを繰り返す戦闘。情報を小出しにでも引き出しつつ、相手の気力を削る。向こうは山に逃げこむと同時に別の敵が前に出てのローテーションを繰り返す。


 こうなると一見、MTTが山に拠点を構えた拠点防衛戦の様にも思えるが、それは違う。MTTにとって、山が山ごとなくなったところで痛くもかゆくもない、拠点などを置いているわけではないのだ。そして、この手の戦闘によくあるのが、別動隊を後ろに回しての挟撃である。そうなるとやはり、前衛後衛を分けている余裕などないのだ。


 結局のところ、来た敵を葬りさる他に道はないのだから。





 煉夜、リズ、ユキファナ、アーサー、雪枝が、リズ達の部屋に集まった……というか、煉夜が移動しただけなのだが。


「ふぁあ~」


 気の抜けるような欠伸をしている雪枝をはた目に、皆はやや真剣な顔をしていた。敵が動きだすということは、戦闘になるということ。リズは寝ていくらばかし魔力が回復したし、ユキファナも万全とは言わないものの、だいぶ容態はましになっている。アーサーも一晩は休めたので、もう剣を振って動き回っても平気であると言える。


「俺とリズが山の方に積極的に突っ込んでいく。アーサーは横からの攻撃に対応して、あちこちに動き回ってもらう。そして、ユキファナは後ろからの挟撃の相手を頼みたい」


 この場合、魔法特化のリズと攻撃特化の煉夜という組み合わせが積極的に敵に攻撃を仕掛けていき、一人で小回りの利くアーサーが遊撃を担当。魔法と直接攻撃のどちらも使えるユキファナが様々な状況に対応できるため、挟撃と戦う。


「挟撃が来るまでは、あんた等と同じく正面に攻撃を仕掛ければいいのよね。ま、雪枝を守りながらだと、結構きついでしょうけど。やっぱり、雪枝はここに預けられないかしら?」


 戦場に雪枝を連れていくのは難しいとユキファナは判断した。それは戦闘力という問題もあるし、根本的に雪枝を戦いの渦中に巻き込みたくはないのだ。あの頃の様な失敗は二度としないとそう思っている。だからこそ、雪枝を雪白家に預けておきたいのだ。


「相手がどんな手を使ってくるか分からないからな……。ここに置いていて、人質にされても困るだろう?ま、その場にいたところで人質にされる可能性は十分に高いが」


 雪白家が絶対安全とは言えない。なら、むしろ、手の届くところに置いておいた方がよいのではないか、という考えである。


「手が届いたところで、救えなきゃ意味ないのよ?ま、手が届かないところで救えないよりはマシ……なのかしらね」


 仕方ないと言いたげな顔をしたユキファナは、何としてでも雪枝を守ることを決めた。

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