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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
白雪陰陽編
370/370

370話:エピローグ

 夏に京都で起こった大規模災害による避難勧告のニュースもようやく落ち着いたころ。破損した家や道路の復興も進み、人々も次の話題を見つけてにぎわい出した。そんなころ。


 落ち着いたこともあり、煉夜は、あの時、8ヶ所に向かってもらった面子を含めた全員を集めて礼も兼ねた食事会をしていた。


「へえー、メアの生まれ変わりね。皇族が生まれ変わって王族になるとか、そういう魂の資質があるのかもしれないわね」


 一応、面識のあったメアとユリファ。だから、顔合わせの際に、ユリファに説明していなかったことを説明したのだが、あっけらかんと返されてしまった。


「申し訳ありません。実は、わたくしもほとんど覚えていないのですよね。『祭乱の宴(ユーレンファーレ)』で煉夜様に優勝を譲ったのは知っているのですが……」


 魂が4分の1しかなく、それも「皇女としてのメア」の側面のみであるリズは正直、ユリファに関する記憶はほとんどなかった。まあ、会ったのも数度だけであるし、それも仕方がないのだろうが。


「いいって。それにしても、レンヤもこっちでは随分、まともな人たちと付き合っていたのね。割とつるんでたのが賞金首連中だったから地味に心配だったんだけど」


 そんな風にぼやきながら見回していたユリファに対して、怒声が飛ぶ。まあ、それも仕方ないだろうとは思うが。


「そのつるんでた連中を引き連れて店を占拠してたのはどこのどいつなのよさ!」


 今、開いている食事会の会場を提供させられた入神沙友里、ユリファからすればサユリ・インゴッドだろうが。


「あら、店の売り上げには貢献していたんだからいいじゃない。あなたがいなくなったこと、みんな嘆いていたわよ?」


「いいたまり場がなくなったっていうヤンキーみたいな理由に決まってるのよさ!」


「まあ、否定はしないけど」





 そんな風にきゃんきゃんと噛みついてくる子犬のように喚きながら料理を作り続ける沙友里とそれをあしらいながらもからかい楽しむユリファを懐かしむように眺めながら、他の席を回ることにした。


「あ、煉夜君。なんかよく分からないけど、呼ばれたから来ちゃいましたけどよかったんですか?」


 雪枝がのほほんとユキファナと同じ席に着きながらそういった。ユキファナはどうやら、元々この席に座っていたが雪姫に美鳥が引っ張られていき、リズは先ほどまで煉夜、ユリファと話していたから、1人になったところに生徒たちと千奈と話していた雪枝が合流したようだ。


「いいのよ、気にしなくて。正当な報酬……というには少しはぐらかされているような気もするけど、まあ、料理を食べさせてもらえるだけの権利はあるんだし」


 正当な報酬と言われても、そこが分かっていないから雪枝は疑問に感じているのだが、ユキファナは説明する気がないようで、それならそれでいいか、と煉夜は思っている。


「まあ、ゆっくり楽しんでいってください。ユキファナも悪かったな、急に面倒を押し付けたみたいになって」


「その辺は全然かまわないんだけど、まったく大したもんね。神相手に生き延びてしまうんだから」


 肩を竦めるが、彼女自身「死()」。一応、神と名のつく存在であろうに。それに、煉夜は前にも出雲で「疑似・神殺しの神」と異界の神アングルトォスを相手に戦っている。


「まあ、どうにかなったな。俺ができたのは魔力と神力と……、力を全て無に還すところまでだったけどな。それもみんなの協力を経て」


 煉夜1人でどうにかしたわけではない。それこそユキファナたちを含め、みんなの協力があったからこそという話でもある。


「それでもよ。主神クラスを相手にそれだけできればあなたも半ば神みたいなものよ。あ、神の肉体の一部が入ってはいるんだったっけ?」


「もう、お姉ちゃんてば、また、煉夜君と妙な話で盛り上がるんだから」


 煉夜とユキファナの会話を遮るように雪枝が話に割って入る。夏休みに入ってから煉夜と話す時間もそうなかったので積もる話もあったのだろう。しばらくは、ユキファナと一緒に雪枝の相手をすることになるのだった。






 ユキファナと雪枝から離れて、次にたどり着いたのは信姫と姫毬のテーブル。主従仲良く食事をしている席に割って入るのもどうかと思いながら声をかけた。


「今回は迷惑をかけたな」


 それに対して肩を竦める、顔を見合わせる姫毬と信姫。そして、信姫は姫毬の気持ちも含めて答えた。


「こちらとしては借りを返した、という気分だけれどね」


「借り?

 そんなものあったっけか?」


 あっけらかんという煉夜に対して、信姫は額に手を当てて「やれやれ」と言いたげにため息を吐いた。だが、煉夜は本当に何のことか分かっていない。


「月日の盗賊の一見、躑躅ヶ崎館を守ってもらったあれを、そうチャラにできるとは思っていないわよ。だから、その借りを今回の件で返したってわけ。だから気にしなくていいわよ」


 信姫たちと煉夜の出会いから起こった躑躅ヶ崎館が陥落した事件。その一件の借りを簡単に返せるとは思っていなかった。だから、今回起きた煉夜の問題の解決を手伝ったことでその借りをようやく返せたという気分。


「本当は紅階も呼ぼうかと思ったのですが、あの子、『拙に参加する資格はありませんので』とか言って帰ってしまったので」


 今回、紅階も呪符を貼るのに力を貸していたとは聞いている。だから、別に煉夜とて1人や2人増えようともなんとも思わなかったのでよかったのだが、本人が拒否したなら仕方がない。


「借りを返した相手に、無断で1人増やそうとするのか」


「借りは返し終わったからね。ていうか、1人増えたところで何とも思わないでしょうに」


 そんな軽口のやり取りをしながら、信姫はあることを思い出す。煉夜にとっていいことか悪いことかは分からないが。


「そういえば、ウチの山本の大爺があなたに会いたがっていたわよ。まったく、あのクソ爺、三ツ者まで勝手に動かすんだから」


 そう言われて、煉夜の頭の中で「山本の大爺」というのが誰のことなのかというのが、一瞬浮かんだが、武田から山本で想像できる人物は1人だった。


「山本勘助の関係者か?」


「本人は山本勘助を自称しているけどね」


 そんな風な会話をしながら、信姫や姫毬としばらく談笑した。






 信姫たちのテーブルを離れて次に向かったのは、テーブルを外れて、隅に固まっている姉妹のところだった。何かを見るように2人してかがんでいる。


「何やってるんだ八千代、九十九」


 一瞬、ビクッと体を震わせてから振り返る。急に声をかけられて驚いたのであろうことは、誰に目に見ても明らかだったが、多少騒がしいとはいえ、煉夜の接近にも気づかないほどにゆるんでいるのは九十九らしくなかった。八千代らしくはあるが。


「何よ、驚かせないでよ。この子を見てたのよ」


 それは煉夜の使い魔であるミーシャであった。ユリファと共にこの世界にやってきて以来、一緒に色々と行動している。


「ああ、ミーシャか。俺の使い魔だよ」


「使い魔だったんだ。どういう狐なの?」


 九十九がミーシャをなでながら煉夜に問いかけた。まあ、普通の狐ではないことは確かであろう。


「九尾や八尾の尾と同じように七色を持っているんだ。色ごとにそれぞれ特性を持つ」


 このミーシャがいたからこそ、煉夜は、《八雲》の尾にそれぞれの力があることを知っていたし、似たようなこと……ミーシャにとっての2色目である「追跡」を使えると思って、小柴の追跡を《八雲》に「できるか?」と聞くなどしていたのだ。


「召喚の儀の前から狐に縁があったとは……」


 ぐぬぬと八千代が悔し気にする。まあ、狐と縁があったから九尾の狐が召喚されたとは限らないが、それでも縁があったというのは事実。

 そうして、ミーシャとの昔話をしながら、狐について少し話さなくてはならなくなったのだった。





 八千代と九十九のところを離れて次に向かったのは沙津姫と四姫琳のテーブルであった。疲れている様子の四姫琳を沙津姫が苦笑しながら慰めている妙な光景だった。


「今回、迷惑をかけたのでお詫びに来たんですが……、どういう状況でしょうか」


 それに対して、沙津姫が苦笑しながら答える。四姫琳はテーブルに伏したままであり、普段の四姫琳ならありえない状態だ。


「どうにも、神代・大日本護国組織の方で今回の件を色々と動くことになり、各方々の神々と話に回り、封印の件やらなにやらをこなしてきたうえに、ようやく一息つけると思ったら厄介ごとを上司に押し付けられたそうでして……」


 雷司たちの父や伯母のコネクションの中には、当然神代・大日本護国組織もある。そうした経緯で、元々扇から監視を頼まれていたこともあって、説明役を一任された上に、それが終わってみれば次の仕事を押し付けられてへばっているのだろう。


「あー、それは色々と迷惑をかけているような……」


「いえ、ウチの問題であって、あなたが謝ることではないのですが……。それでも今回はちょっと、疲れまして」


 四姫琳自身、仕事としてやっている以上仕方がない部分はあると思っているし、煉夜に責任があるとは思っていない。


「でも、神たちへの説明がそんなに疲れることだったのか?」


 どういうことをやるのかがいまいち分からないので、煉夜にも想像がつかず、何に疲れたのだろうと、そんなことを思った。


「いえ、まあ、宗教、地域、その他色々含めて、この世界には様々な神がいるんですが、説明しても分からない輩というのは、例え神であろうと存在しまして、その上、千里眼のようなものまで持っているくせにそれで出来事を周囲に説明しない神とか、そもそも言葉が通じていない神とか、そういうことが多々ありまして……」


 神と言っても、全ての神に一々説明するわけではないが、それでもかなりの数になる。そして面倒なことも必ず起こる。それらのトラブル解決に奔走してかなり疲れたようだ。


「沙津姫様は今回の件、柊家から何か連絡がありましたか?」


 流石にグロッキーな状態の四姫琳にこれ以上、話を聞くのは無理だろうと思い、話題を変えるために煉夜は沙津姫に話を振った。


「ええ、まあ色々とありましたが、家よりも神々の方が騒がしいので私も若干、疲れ気味ですね」


 そうして、神関連の愚痴を吐き出す四姫琳と沙津姫の相手をすることになった煉夜は、苦笑気味でその話を聞くのだった。






 しばらくして、愚痴の言い合いになった四姫琳と沙津姫を置いて、煉夜は次の席へと移動する。雪姫と美鳥のテーブルだ。


「スゥ、美鳥、今回は厄介ごとを押し付けてすまなかったな」


 それに対して、雪姫は笑い、美鳥は恨みがましい目で見てきた。その差が激しいな、と思いながら、煉夜は美鳥の方を見た。


「巫女を辞めたのに、ずっと筆頭と組ますなんてどういう神経してんの」


 できれば、あまりずっと一緒に居たくはない美鳥であった。まあ、別に雪姫のことが嫌いとかそういうわけではないが、それでもずっと一緒に組みたいものではなかった。


「あら、そんなにそんなに一緒に組むのが嫌でしたか?」


 笑顔のままだったが、若干、声に怒気がはらんでいるのは煉夜でも感じ取れた。それに対してビクッと体を震わせてから、全力で首を横に振った。


「い、いえいえいえ、そ、そんなことはないんですけど、そんなことはないんですけどね!」


 その慌てぶりに苦笑しながら、煉夜は雪姫の方を見る。それに対して、彼女は笑い返してきた。


「また、今回もイスカに聞かせる寝物語が1つ増えましたね、レン」


「その物語にはスゥも出てくるんだ、イスカも眠らずに全部聞いてくれるだろうさ」


 そんな風に笑い合う。煉夜も雪姫も、楽しそうに笑った。ある少女のことを思いながら。それに対して美鳥が言う。


「2人は仲いいですよね」


 煉夜相手には敬語を使わないが「2人」のくくりに雪姫がいるから敬語で美鳥は言った。それに対して、2人は顔を見合わせた。


「そういうところですよ。どういう関係だったのかは知らないですけど、家族ってぐらい仲いいですよね」


「まあ、一時期、一緒に暮らしていたのは事実だからな」


「しかし、家族とすると、レンが夫で、イスカが娘みたいな感じですかね」


 美鳥はあえて「夫婦のよう」とは言わず濁したのだが、雪姫はあっけらかんとしてそういった。煉夜は苦笑する。


「イスカは娘扱いでいいのか?

 もうちょっとあっただろ、妹とか」


「寝物語を聞いて寝ている子ですからね娘みたいなものでしょう」


 そんな話をしばらくの間して、割って入っていけない空気に耐えかねた美鳥がリズの元に避難するまで、この会話は続いた。






 美鳥もいなくなったので、ということでそのテーブルを後にした煉夜がたどり着いたのは火邑と月のテーブルだった。2人は仲がいいのに、食べているものは割と対照的だった。月は体質の関係もあって、肉、とにかく肉を食べていた。一方、火邑は割と野菜が多めのメニュー。


「2人とも今回は迷惑をかけたな」


 そう言って、食事中の2人に言うと、月は食べながら、火邑は食べ終わって一息つきながら煉夜の方を見た。


「気にしなくていいよ、お兄ちゃん。家族なんだし、ね」


 ナキアの記憶を取り戻してからも家族として扱うのは火邑の性分ゆえかナキアの性分ゆえか、きっとどちらもなのだろう。


「今度、何か買ってやるよ」


 だから、あえて煉夜も態度を変えずに、妹として頭を軽く撫でた。それを微笑ましく見る月。


「兄妹仲がいいわね」


「昔はあんまりだったけどな」


 こうなったのは、煉夜が行方不明になった件があって以降か、それ以前のもっと幼い時期か、で、小学校高学年から中学生時期は結構ツンケンした態度を取られていた。


「まあ、思春期なんてそんなもんだからね」


 本人がそうあっけらかんというのも、不思議なものだが、実際そういうものだったのだろう。あるいは、周囲のそういう意識を夢として無意識に共有していた可能性はあるが。


「そういえば、月は管理局の件どうなったんだ?」


 迎えが来るまでの間、ここにとどまるということになっていたのだが、その迎えは一向に来ていない。


「こないだ言っていたアルドラの件で局は余計に忙しくなっちゃって、それと同時に併発した大規模な事件がいくつかあるらしくて、それでしばらく来られないらしいわよ」


 その併発した大規模ないくつかの事件は、全て雷司の異母兄弟姉妹が関わっていることはこの時誰も知らないことである。


「へえ、じゃあ、まだしばらくはこっちにとどまるのか」


「ええ、異回廊も使えるようになったけど、流石に逃げるわけにはいかないでしょうから」


 そんな風な話をしばらくして、月の分の追加の肉が沙友里によって運ばれてきたので、煉夜は退席した。まだ食べるのか、そんなことを思いながら。





 次のテーブルは、若干異色の組み合わせでありながら、自分で組ませたのだから煉夜が言うのもおかしな話である。しかして、意外と仲が良くなっていた千奈と裕華。


「迷惑をかけたな、大変だったろ。ああ、いや、裕華はそうでもないか?」


 裕華ならばこんな感じの事件にはいつも巻き込まれているだろう、くらいのテンションで煉夜は言う。それに対して、「あながち間違いじゃないけど」と苦笑気味に返すあたり、裕華がいろいろな事件に巻き込まれていたことが分かる。


「それにしても2人は仲良くなったんだな。こういう言い方だとアレだが、意外だな」


 裕華と千奈はそれぞれ違うタイプなので、趣味がかみ合うとかそういうこともないだろうと思っていた。


「まあ、意外や意外にも親戚だったからね。レンちゃんも知らなかったんでしょ?」


「え、そうだったのか?」


 親戚、とはいえ、それには微妙に誤解がある。しかしながら、事実と言えば事実でもある。裕華は微妙な顔をして説明をする。


「あたしの父さんの婚約者の1人が天龍寺家の人間で、その弟の婚約者が『紅条』なのよ。だから、血は繋がっていないし、親戚って言うのは微妙なところがあるんだけどね」


 それに対して、「天龍寺」という名前で先日会った人物を思い出す煉夜。「なるほど」と言いながら、その名前を出した。


「天龍寺秋世さん、だったか。時空系の魔法を使う。この間会ったところだ。あの人の弟の婚約者が千奈の家系なわけか」


 紅条家、宝石と死に愛された一族。それが千奈の家系。もっとも、千奈は黄金と死という意味で遺伝はしているのだろうが。


「まあ、そんなわけで親戚同士で楽しんでたの」


 そうして、千奈と裕華のガールズトークにしばらく付き合わされるのだった。






 千奈と裕華のガールズトークを抜け出してたどり着いたのは、親友たちの席だった。声をかけることもなく、スッと席についてから会話を始める。


「おう、雷司、月乃。今回は駆り出しちゃって悪かったな」


 そういう煉夜に対して、別に何とも思っていないのだろう。普通に笑って2人は返した。


「まあ、いずれ、なんかあったら俺がお前を駆り出すから覚悟しとけよ」


「そうね。貸し1だから」


 いつもの調子の会話に、煉夜も自然と笑っていた。高校時代……煉夜にとっては今も高校時代なのだが、高校時代によく交わしていたようなやり取りだった。


「それで、あいつとは話したのか?」


 煉夜が話を変えて話題を振る。「あいつ」というのは小柴と話しているオレンジ色の髪をした少女、キッカ・ラ・ヴァスティオンのことである。


「いや、話してない。ていうか、正直迷ってる」


「どういう縁かは知らないが、何かあるならスパッと割り切った方がいいぜ」


 前に話した限りでは、雷司とキッカの間には何かの縁があるのは間違いない。だが、それが何かを煉夜は知らないし、別に知らなくてもいいと思っている。


「いや、しかしな……。色々とあるんだよ」


「いっつもそうやってごまかしてるだけじゃない」


 煉夜と月乃の2人から言われて、雷司も「うーん」と唸る。そして、雷司は割り切った。


「割り切った結果、話さないことに決めた」


「そっちに割り切ったのかよ」


「情けない。男気の欠片もないわね」


「そこまで言うか?!」


 そんな風に会話を楽しみながら、しばらく談笑していた。すると、ふと視線が煉夜に向けられる。小柴とキッカからだった。煉夜は、月乃と雷司に断って、再び席を移動する。






 そうして、小柴とキッカの席に着く。過ごした時間は短いが、生死をかけて共に戦い抜いた3人だ。戦友にも似た不思議な感情が芽生えているのは不思議でも何でもないだろう。


「おふてんちゃん……というより【緑園の魔女】には今回も迷惑をかけたな」


「ううん、気にしないで。レンヤ君自身も大変だったんだから」


 そんな風に言い合いながら、視線はキッカに向けられる。キッカは表情の変化があまりないが、どうにもこの状況を喜んでいるようだった。


「獣狩りのレンヤ、【緑園の魔女】、そして我。こうして再び揃うときが来るとは思っていなかったぞ」


 それは煉夜たちも同じだった。しかし、結果として、こうしてここに3人は再び揃った。奇跡にも似た驚きを覚えている。


「そういえば、キッカ、アストルティをこの世界に持ってきてくれたのはお前だったな。助かったぜ」


 この世界でキッカの名前を聞いたのは雷司と、そして、明津灘家でのことだ。明津灘家にスファムルドラの聖剣アストルティを運んだのは紫龍橘花ことキッカ・ラ・ヴァスティオンだった。


「なに、少し頼まれてな。だから別に礼を言われるようなことではないさ」


「それでも、だ」


 そんな風に言い合いながら、煉夜は笑う。あの頃を懐かしむように。辛いこともたくさんあった時期であったが、それでも笑う。


 懐かしむようなその時間は、小柴が火邑の席に行くまで続くのだった。ついでに、キッカはそのまま雷司の席に向かっていったが、雷司はそれを見るなり逃げていった。





 煉夜はそのまましばらくじっとしていると、静萌が同じテーブルに座った。今回の件で一番といっていいほど尽力してくれたのは彼女である。それをねぎらわねば、と煉夜声をかけた。


「今回は迷惑をかけたな。あちこち回らせてすまない」


「いえ、(わたし)も確かに疲れましたが、まあ、それはいいでしょう。こうして料理もたくさんいただいていますしね」


 そんな風に言いながら、料理に手を付ける静萌。その様子は煉夜にしか見えていないのだが、割と適当に食べる。まあ、誰にも見えないという環境上仕方ない弊害なのだろうが。


「そもそも、忍足家の時代は、もっといろんな面倒なことをやらされていましたからね。よく考えれば、それよりは断然マシでした」


 ターゲット殺害のために方々に走らされたり、あるいは、撹乱のためにあちこちに物を盗りに行かされたりと、それを考えれば断然マシな仕事だっただろう。


「まあ、このくらいの頼まれごとでしたら、これからも頼まれればやりますよ」


 命令されればではなく、「頼まれれば」な辺りに、静萌の思いがあるのだろう。それに対して、煉夜は静かにうなずいた。


「では、他の席の料理も食べたいので(わたし)はこれで」


 料理を求めて去っていく静萌の背中を煉夜は見送った。






 1人になった煉夜に声をかけてくる人物がいた。雪白水姫。煉夜の従妹である。


「謝って回るのは一息ついたようね」


「まだ水姫様には謝っていません。ご迷惑をおかけしました」


 それに対して、そう言われると思っていたと言わんばかりの表情をした水姫が言う。


「家族だから、迷惑だなどと思っていないわ」


 家族、そう言われて、煉夜は静かにうなずいた。煉夜と水姫は家族だった。いや、まあ、どちらかと言えば親族だが。水姫的には「家族」という言い回しの方がいいのだろう。


「ええ、ではありがとうございました、と礼を言わせていただきます」


「礼もいいわ。……いえ、それよりも、そろそろその敬語、どうにかならないの?」


 本家と分家、そう思ってずっと敬語を使ってきた煉夜だったが、水姫がそんな風に言うのだから、仕方がない。


「そうはいってもな、水姫様の御父上の手前、仕方がない部分はあると思うんだ」


「あら、その解決策ならあるけど」


 にんまりとした怪しげな笑みを浮かべた水姫に、何を企んでいるやらと思いながら、煉夜は言葉を返す。


「聞かないでおくよ。その方がよさそうだ」


 そんな風に言いながら、店内を見る。みんなが楽しそうに笑っていた。煉夜はそれを見て、静かにうなずいた。


「これがあなたの築いてきた道にあるもの」


「そうなのかもしない。でも、まだ、道は続く。全てを受け入れて、前へ前へと」


「それがあなただから、それを止めはしないわ。言った通り、わたしもその業を背負って一緒に歩いていくわ。わたしが納得するために。あなたの生きる道を……」



     -白雪の陰陽師-完

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