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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
白雪陰陽編
362/370

362話:神に抗う者・其ノ捌

 北西、清明神社方面。ここを任されたのは煉夜の親友たち2人、雷司と月乃であった。今まで様々なところで色々なことをやってきた2人であったが、流石に、神とガチンコ勝負となると経験したことはなかった。


「それにしても、煉夜もつくづく、いろんな事件を起こすよなあ……」


 それは呆れなのか驚嘆なのか、どちらとも判別つかないような声音で、雷司が呟いた。それに対して月乃が雷司の方を見ながら肩を竦める。


「あなたも似たようなものでしょ」


 それに反論できないのは、雷司自身にも自覚が多少なりともあるからであろう。だが、主張としては「起こしているんじゃない、巻き込まれているだけだ」といつものように返すかと思えば苦笑するだけだった。


「……今回の件、雷司ももしかして何か関わってるの?」


 その微妙な反応に対して、何か感じるところがあったのだろう。もしかしたら雷司が今回の一件に関わっているのではないかという疑念を抱いた。しかし、雷司はその問いかけに目を丸くして、妙な勘違いをされていることに気が付いた。


「いや、関わってない。だけど、気になることはある」


「気になること?」


 雷司は、自身のこと、そして、かつて煉夜から聞いたこと、それらを総合して、「もしかして」という1つの懸念事項が頭の中に合ったために、どうにもいつものような反応ができずにいた。


「何よ、気になることって。煉夜に関係していること?」


「お前の頭には煉夜しかないのか……。まあ、違う。だけど、無関係とは言えない。でも直接的な縁を持っているのは俺のはずだ」


 上空をにらみ、何かを感じ取っているかのように、雷司は呟いた。それでようやく月乃は何かを察した。


「あれが来るっていうの?」


「さあな。でも俺が関わって、煉夜が関わっている以上、顔くらい見せる。そんな予感がするんだよ。オレンジ色の、そんな予感が」


 オレンジ色の髪が風になびくような光景を幻視し、振り払うように雷司は首を振る。予感はあれども根拠はない。自身とセフィロトで繋がる縁を持つオレンジ色の髪に青い瞳をした少女の姿。


「まあ、そうだとしても、雷司がどうにかすればいいだけでしょ。それに、何か起きるとも限らないんだし。それよりも煉夜に言われたとおりに呪符を貼りに行きましょ」


 月乃の言うことはもっともだ、と雷司は頷き、改めて感覚を研ぎ澄ます。京都全域で戦闘が起きているのは分かったし、中には、かなり大きな力が動いているのも感じ取れた。それに対して、雷司は笑う。


「煉夜のやつもいろんな友人知人、手を貸してくれる人がいるんだな」


 自身がこれまで事件で関わってきた友人知人の顔をも思い浮かべながら、煉夜の現状に嬉しく思う。出会った当初の煉夜は誰とも関わっていなかったし、雷司や月乃と友人になってからも、そんなに多くの人間と積極的に関わるような様子はなかった。だから、実際にこうして、危機に手を貸してくれるほどの友人知人に恵まれているようで、親友として心配していただけに雷司は思わず笑ってしまったのだ。


「女ばかりなのが引っかかるんだけど……」


 月乃もおせっかいながら同じような心配をしていたのだろう。だから、安心すると同時に、それが女性ばかりなのは複雑な心境だった。


「煉夜にその自覚はないだろうけど、あいつは困っている人を放っておかないし、そして、煉夜が出会う女性の多くは『訳アリ』って感じの人ばかりだからな。必然的にこうなるのは仕方がないだろう」


 煉夜の出会う女性は、かなり高確率で、何らかの事情を抱えていたり、何らかの事情を抱えかねない環境にあったりする。そして、煉夜はそれに巻き込まれたときに、助けることをいとわない性格をしていた。そうなれば現状は必然ともいえる結果であった。


「仕方ないのは分かっているけど……、悔しいじゃない」


「お前は『これから』、だろう?」


 そんなことを言いながら、煉夜からの依頼を完遂するために、呪符を貼るべく進む。雷司は呪符を見ながらつぶやく。


「それにしても、貼る位置なんて、霊脈的地形とかからいくらでも推測できるはずだよな。それ以前に、神なら煉夜の行動を見ていてもおかしくない。バレていて、対策が魔獣や幻獣を放つだけとは思えないよな」


 煉夜が「切り札」においていることすら分かっているなら、それが効かないと分かっている場合なら、防ぎすらしないだろうし、効くか、何が起こるか分からないとして、それで行う対策が魔獣や幻獣だけとは雷司には思えなかった。


霊穴(れいけつ)の封印くらいしそうだけど、どうなのかしらね」


 霊脈から霊力の吹き出す霊穴を封印してしまえば、いいのに、と思う月乃であったが、その考えは雷司に否定される。


「いや、煉夜ならその状態でも自前の魔力を霊力に変換して発動させることはできるだろう。だから、あらかじめ封印しようが関係ない。いや、もしかしたら呪符を貼った後に呪符事封印する術式を仕込んでいる可能性はあるが」


 呪符自体を使えなくすれば、発動はしないだろう。だが、それでも雷司には疑問が残る。自分で簡単にこの結論に持っていけるのだから、当然起こる疑問がある。


「だが、煉夜もそれは分かっているはずなんだ。そうなった時のための対策があるのか、そもそもこの陰陽術がブラフなのか。いや、ブラフなら神が引っかかるはずもないしな……。どんな手を企んでいるやら、俺には想像もつかないな」


 頭の回転では煉夜に勝てないということも雷司は自覚していた。もっとも、それはあくまで経験の差や知識の差である。陰陽術や霊脈に関する知識では雷司よりも煉夜が勝るのは当たり前であるし、ましてや、雷司は煉夜の手札を全て知っているというわけではない。ならば想像がつかないというのは当たり前のことでもある。


「まあ、考えても仕方ないでしょう。煉夜が罠や対策のことを考えていないはずはないけど、本当にどうしようも無くなったら、雷司、分かってるわよね」


 月乃の問いかけに、雷司は静かにうなずいた。それは覚悟の籠った頷き。本当にいざというときにしか使わない手であるが。


「マジでどうしようもなくなったら父さんに助けを求める。煉夜が例え望んでいなかろうとな」


 雷司の父に助けを求める、つまり《チーム三鷹丘》に助けを求めるということである。雷司も月乃も分かっていた。煉夜が事前に頼って、《チーム三鷹丘》への連絡を求めなかったということは、それを望んでいないのだろう、と。

 だが、雷司も月乃もだからと言って、親友が死ぬのを見過ごすわけにはいかない。いざというときは、煉夜の意思には反するだろうが、雷司の父に連絡しようと決めていたのだった。


「ま、煉夜なら大丈夫だろうと思うがな。あいつが、たかが神ごときに読み合いや手札で負けるはずがない。俺はそう信じてるからさ」


 それは願望や虚勢も含まれるのだろうが、それでも雷司は信じていた。煉夜がどうにかするであろうということを。どうにかできるであろうということを。


「そりゃ、信じてるけどさ……」


 月乃としても信じていないわけではない。だが、万が一ということもある。だからこそ、念のためにそうしたことを考えるのは無理もなかった。


「おっと、この話はいったん後だ。幻獣の捕捉域に入ったらしい。敵意がガンガンに飛んできてやがる」


 構えを取る雷司に対して、月乃はストックの魔法分の詠唱をし始める。あらかじめいくつかの魔法はストックしているが、周辺被害を抑えるために状況によって、魔法を使い分けなくてはならない。


「いざとなったら周辺ごと吹っ飛ばすのも視野に入れろよ。何、いざってときは煉夜からの依頼って大義名分もあるし、あいつに責任を吹っ掛けりゃいいからさ」


 気休めかそれとも本心か、腹違いとは言え、同じ父を持つがゆえか裕華と同じようなことを言う雷司。彼女との違いは、やった後に言うかやる前に言うかという点であるが。


「火力の高い魔法は限られるからいざってときは仕方ないかも」


 そして、今は、それをしなくてはならない状況だというのは月乃も分かっている。雷司の持つ技は、確かに魔獣や幻獣相手でもダメージを与えられるし、殺すこともできるかもしれない。だが、話に聞く「復元術式」や「自爆術式」との相性は最悪極まる。格闘で倒しても「復元術式」でよみがえるし、よしんばそこを乗り越えても、基本的には近接で戦うため「自爆術式」から逃れるのは難しい。

 そうなると、現状でどうにかできるのは雷司ではなく、高火力の魔法を使える月乃であった。雷司がおとりなどでサポートして、一撃で消し飛ばすほどの魔法を放つ。

 それがこの場での最善の選択であった。


「まず、相手の属性とかその辺を様子見してくる。詠唱は任せたぞ」


 言うや否や、雷司は幻獣との距離を詰める。距離を詰めた雷司の視界に写ったのは緑色の獣であった。森などでは保護色なのかもしれないが、この街中では目立って仕方のない色である。

 家一軒分ほどの小さめの幻獣であるが、その凶暴性と保護色で隠れて襲う狡猾さで、他の幻獣すらも食い殺す凶悪な幻獣緑猛隠狗(スクルジサバーカ)。もっとも、この街中では隠れて襲うことは無理そうであるが。


「緑色だから木属性の魔法とか風属性の魔法っていう単純なわけないよな!」


 近づき、一撃を入れようとした瞬間に、緑猛隠狗(スクルジサバーカ)の口から勢いよく水が飛び出した。刃のように鋭い勢いで。それを雷司はバックステップでかわす。水属性の魔法。

 当然ながら、森で暮らしている緑猛隠狗(スクルジサバーカ)であるため火属性は燃え移るし、風は遮蔽物が多い環境で使えるわけがないから違う。そうなるといくつか候補はあったが、その予想の1つが的中した形である。


「月乃、雷の魔法で吹き飛ばせ」


 先ほどよりも早く距離を詰め、緑猛隠狗(スクルジサバーカ)の虚を突く形で、後ろに回り、思いっきり蹴り上げた。普通ならば蹴り上げた足の方が折れるほどの大きさだが、雷司の一撃で、緑猛隠狗(スクルジサバーカ)は宙を舞う。


 そこに、あらかじめストックしていた雷の魔法を3つほど重ねて撃ち放った月乃の魔法が衝突して、跡形もなく消し飛ぶのだった。


「森の中だったら相手にするのはヤバかっただろうな」


 雷司の言う通りで、相手が隠れるのもそうだが、月乃の魔法も遮蔽物で交わされる。炎属性の魔法で周囲を吹き飛ばして隠れる場所や遮蔽物を取っ払わない限り、難しかっただろう。


「念のために、歩きながらもういくつか魔法をストックしておくわ」


「ああ、頼む。まったく、やりにくいったらありゃしないぜ」


 そういいながら2人は再び歩き出した。

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