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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
白雪魔女編
350/370

350話:彩色の結末・其ノ参

 一夏宮家の一件から数日が経過したある日のこと、煉夜は小柴と会っていた。もちろん、見確めの儀で猫又弥勒から聞いた【四罪の魔女】からの伝言について詳しく話し合うためである。


 密会場所という言い方をするといかがわしく聞こえるが、他に邪魔の入らないで話せるように、密やかに会うという意味では密会であるのだから仕方がない。ここ数日は、滞在しているリズの相手であったり、一夏宮の件に関する話で雷隠神社の関係者と話したりと、何かと煉夜が自由になる時間がなかったので、あらためて2人でゆっくりと会える時間を作るにはこうするしかなかった。


 その密会場所は、小柴が借りているとあるマンションの一室である。正確には、小柴の家が借りているものであるが、小柴の勉強用に、と借りているものである。そう聞くとお嬢様のように聞こえるが、その実、小柴は大企業の令嬢であることは間違いない。


 そも、慌ただしく人の出入りする家で、私室があるとはいえ、落ち着けないだろうと親が配慮したものである。しかし、実際、使う機会は少なく、高校受験の前にせっかくだからと使用したのが最後であった。


「一応、盗聴防止にいくつかの魔法をかけておいた」


 煉夜がそのように言うのは、本当に念のためでしかなかった。あまり聞かれたくない話であるし、聞かれても分からない話であっても、誰かに聞かれるのは嫌なものだ。防音設備は整っているが、それでも隣室に全く音が響かないわけではない。


「盗聴器の類もないから大丈夫。常に点検はしているはずだから。なんて、こんな話をしているとまるでいけないことをしているみたいね」


 そんな風に笑いながら、小柴が簡単に飲み物の用意をした。茶菓子は煉夜が持参して、互いに話す準備はできているというところだろう。


「それで【四罪の魔女】ミラ……じゃない、ニア・アスベルからの伝言だったね」


 自身で入れた苦々しいコーヒーを飲みながら、煉夜に話を切り出したその顔はコーヒー同様苦々しいものだった。正直、あまり他の【魔女】たちの話をするのは、小柴にとっては乗り気なものではなかった。


「ああ、そうだ。肉体と精神に分かたれ、【魔女】が精神を、【聖女】が肉体を。しかし、【魔女】が眠り、【聖女】は起きた。そして、【聖女】が眠り【魔女】が起きた。この間に、肉体は五分割され、それぞれに託される。あなたはその中の一つかもしれない、とのことだ」


 正直、煉夜には八割がた理解できていない。【魔女】については聞かされていたが、その多くは、過ぎ去ったことなので、【創生の魔女】も多くは語らなかった。だから、本当に基本的なことしか知らないのだ。


「精神と肉体……、肉体の5分割……。本来起こるべきことが起きずに、互い違いになった。その間の時間のズレ。もしかして……」


 小柴は今の情報から、パズルのピースをはめていくように思考を組み立てていく。それらが上手くあてはまるかは、微妙なところだが、一応の仮説は立っていく。


「肉体の5分割、それがどの部位によって分かたれたのかは分からないけど、だとするなら5人の存在、そのうちの1人がレンヤ君。後は、あの子たちを眠らせたという伝説の騎士、ステラの導きの子、あの時現れたメイドの格好をした女、それぞれが『結び』を持つ存在……」


 出した結論は【四罪の魔女】と同じ、4人の存在。スファムルドラの最後の聖騎士にして【創生の魔女】の眷属レンヤ・ユキシロ、最高の騎士と誉れ名高い伝説の騎士バンズ・エル・ゴーマ、【無貌の魔女】ステラ=カナートの導き手であり異界からの落ちた青年、暗躍し裏で動き続けていたメイド服の少女、この4人は、【魔女】や【聖女】と近い位置で動いていたため、運命の因果に引っ張られた存在なのだと理解はできた。


「精神と肉体、だったな。だが、それらの封印は上手くいかなかった。そこまでは知っている。そして最初に【魔女】が精神と共に眠りについた。そして、【聖女】がそれから五百年はいかないくらいして眠りにつき、それから二百年経たないくらいに【魔女】が目覚めた。この【魔女】が眠り始めてから【魔女】が起きるまでに起きたことが俺に関係している、と」


 煉夜の持っている僅かばかりの情報、そこから導き出されるのはその程度の答えでしかなかった。


「ええ、精神の封印は【魔女】が、肉体の封印は【聖女】がそれぞれ担っていたわ。でも、最初に封印が成功したのは【魔女】……、つまり精神だけ。肉体はその間、【聖女】が起きていたことから封印は不完全だったみたいなの」


「その肉体を五分割したってことか」


 煉夜が聞いた伝言の内容から考えればそれは間違いないだろう。だが、それが何を意味するのか、煉夜にはよく分かっていない。


「ええ、恐らくね。主要な部分を先に分けて隠し、残った部分を封印させた。そうして【聖女】は眠りにつき、今度は魔女を起こす」


「精神を取り戻して、残った主要な体の部分を回収し、復活するためか」


 肉体の主要な部分が封印を逃れているのであれば、精神とその部分だけでどうにかなるのだろう。


「そして、その主要な部分を隠した中の1人がレンヤ君。つまり、残り4人とレンヤ君が復活の時に必要になるわけ」


 4人。煉夜の面識がある人物は、先ほど挙げられた自分以外の3人にはいなかった。時代が違うか、世界が違うか。


「そして、レンヤ君以外の3人は見当がついている。それぞれが、【聖女】と【魔女】に深く関わっていたと思われる主要な人間だから。そうだとして、残り1人が誰なのか、それは分からないんだけどね」


 そして、その3人は過去の時代、【魔女】たちからしても、数百年近く前に出会った存在であったり、その時代に存在したと伝え聞いたりしている存在である。回収されている可能性は大いにある。少なくとも【緑園の魔女】はそう思った。


「残りの一人、か……」


 【魔女】や【聖女】にゆかりのある人物、そう言われても煉夜が深く関わっていたのは【創生の魔女】のみで、【緑園の魔女】とは3日程度、他の【魔女】たちに至ってはほとんど顔を合わせたことがある程度でしかない。ましてや、煉夜が行った頃にはすでに眠りについていた【聖女】たちに至っては面識すらないのだから、その関係者と言われても思いつくものではない。


「でも、主要な事件の関係者で該当しそうな人間がいないのよね。せめて、どの部位がどういった要素として切り離されたかが分かれば、だいぶ変わってくるんだけど」


 肉体を5分割したと簡単に言っても、そのままズバリ肉体を5つに分けただけではない。それらにある要素として、意味を込めて分割しているはずなのだ。


「意味を持たせるって意味では、魔法の関連付けや性質付けに近い要素で分割しているはずだからな。肉体の分割と言っても、何も剣でバッサリと切り裂くわけじゃあるまいし」


 魔法の関連付けというのは、例えば陰陽道で言えば心臓は「火」、肝臓は「木」、脾臓は「土」、腎臓は「水」、肺は「金」と関連付けられている。陰陽術とは一般的な陰陽師……、一般的な陰陽師という呼称も変な話であるが、それらにとっては「自然に存在する力」であるところの「霊力」を集め使うものである。先ほどの関連付けと合わせて、「火」ならば心臓に「霊力」を集めるイメージを取る、などという陰陽師がいたこともあるくらいだ。

 もっと単純な話、心臓は「生きる源」だから「火」とか「血液を送る」から「水」とか、イメージと関連付けて意味を持たせることである。

 それと同じように5分割した肉体のそれぞれにも同様に意味を持たせて魔術的に、あるいはそれ以上の超常の力において分割しているはずなので、同様にそれぞれ意味を持つはずなのだ。


「簡単な話、『頭』は『思考』、『足』は『行動』とかそんな性質付けで成り立つんだよね」


 属性はあくまで魔術主体で考えたときの話であり、主要な部分に「性質」を付ければいいのだから「頭」は「考えること」とか、「足」は「歩くこと」とかそんな単純なものでいいのだ。


「むしろ、遠い関連付けよりも安直な方が楽だろう。そもそも遠い要素で関連付けする意味もないしな。しかし、俺がその一つだとして、他……」


 煉夜は「他にどんなやつが当てはまるんだろうな」と言おうとした瞬間のことだった。直感的に、頭の中である記憶がよみがえる。

 それは、沙友里とこの世界で再会した時の出来事、水姫が煉夜の手を掴んだときに水姫が左手に、煉夜が胸に、何か熱いような違和感を覚えた。


「左手、胸、……だとすると、もしかして最後の一人は水姫様かもしれないな」


 自身に分割された肉体の中の1つが入っていると仮定して、それと接触して何か反応があったとするならば、煉夜の記憶ではあの時くらいしか思い当たる反応はなかった。


「でも、彼女は【魔女】とも【聖女】とも関係ないじゃない。それだと関連性から外れちゃうけど」


 そこが問題なのだ。水姫は【魔女】とも【聖女】とも関係性が薄い。薄いというよりも無関係と言って問題ないレベルだ。せいぜい小柴と面識があったくらいだろう。しかし、小柴が【緑園の魔女】のことを思いだしたのは最近であるし、そこに水姫が関わっていたわけでもない。


「だとすると、本当に俺の方では当てがない。【緑園の魔女】の方で当てがないなら手詰まりだ。何なら俺以外の四人はすでに過去の人物という可能性も大いにある」


「あるいは未来の人物って可能性もあるでしょう?」


 5人いることは分かっていても、それが現れた年代を考えれば、まだ5人目が出現していない可能性も十分にあった。しかし、煉夜はそう考えていない。


「いや、それなら【四罪の魔女】がわざわざ『猫又弥勒』に伝言までして俺を探さないだろう。おそらく、何かが起こる」


 近々何かが起こる、これはこの数日後、再会した四姫琳にも言われていたことであった。しかして、この時から考えていたからか煉夜は「あなたには最大級の厄介事が舞い込むようですよ」という四姫琳の言葉に対してもさほど大きな反応はしていなかった。


「……あまりいい予感はしないわね」


「念のために、何かが起きた時のことを【緑園の魔女】には話しておく」


 そういいながらも、頭の中では【緑園の魔女】に伝える万が一のこととは別にもう1つの手立てを企てるのだった。

次章予告


――全ての始まり、そして終わり

――「白雪の陰陽師」と出会い転換した(はじまった)物語は、

――「白雪の陰陽師」によって終結する

――六と八、終わることのない永劫の呪い

 八人の聖女を導いた最強の騎士、

 六人の魔女を解放した輪廻の青年、

 世界に見初められた混沌の騎士、

 乱れ、狂う、世界の運命という名のうねりに終止符が打たれる

――「白雪の陰陽師」の力によって…


 ――第十幕 二十三章 白雪陰陽編

 

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