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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
陰陽大動編
323/370

323話:神社に集う者達

 巫女や四大天たちがいるという建物に通された煉夜たちは入口で巫女に大きな荷物を預けると、大広間へと通される。雪姫を先頭に、一時期住んでいた美鳥と美鳥に抱きついている梨音、煉夜と静萌、水姫、裕華の順で歩いていた。煉夜が水姫の前にいるのは、雷隠神社だから心配はないと思うが、万一に攻撃を受けた時のためであり、静萌が煉夜と並行して歩いているのは煉夜以外に見えない以上、そばに置いておけば対処が楽だからだ。


「筆頭巫女、似鳥雪姫、入室します。お客様をお連れしました」


 さすがに入室時ともなれば仕方なくというべきか、四大天の前でも抱きついているわけにはいかない梨音は美鳥から離れた。


 大広間にいたのは、4人の巫女と四大天である。すでに来訪は知っていたのだろう、驚きといったような様子は一切なく、来るのが分かっていたというような様子である。


「ようこそ、お客人。すでにあなた方4人が来られることは分かっていた」


 そういったのは秘人竜堕の似鳥尚右染。彼が指す4人の中に含まれていないのは美鳥と静萌だろう。彼の予知ですらも静萌はその存在の外側の人間であるため分からないのだ。そして、美鳥は本人の意思の上ではやめた身であるが席が残っている以上は八巫女としてカウントされるため「客」というカテゴリーに入らない。


「雪白家長子の雪白水姫です。しばらくお世話になります」


 ここで先陣を切って挨拶をしたのは水姫である。分家である煉夜やあくまで護衛としてついてきた裕華、見えていないし名乗っても聞こえない静萌ではなく、水姫が最初に挨拶をしたのは自然な流れであろう。

 水姫が「長子」と言ったのは、「長女」であると「長男の長子」がいる可能性があるからであり、対外的な紹介には「次期当主として見られている」という意味も込めて「長子」の方を使うことが多いからである。司中八家や親類の柊家ならばともかく、交流はあるとはいえ、末由以外はほとんど関係を持たないこの場では、こちらを取ったのだろう。


「雪白家分家長男の雪白煉夜です。よろしくお願いします」


 立場上、この場で次に挨拶するべきなのは、裕華の方である。市原家の次期当主にも目されている水姫と同じ立場の人間だからだ。しかし、裕華は目配せで煉夜に先に挨拶するように促した。


「市原裕華よ。護衛のようなものだから気にしなくていいわ」


 裕華は客人というよりも護衛というスタンスを貫くつもりらしい。もっとも、それにも色々事情はあって、父の関係で国内外様々なところに交流を持つ以上、「市原家次期当主」が直々に客としていくというのは多少なりとも意味を持ってしまう。それゆえに、あくまで「護衛の市原裕華」という肩書での行動であるとアピールするために最後に名乗ったのだ。


「私は四大天、秘人竜堕の似鳥尚右染。雷隠神社における頭目の一人を担っている」


 聡い雰囲気で真面目そうな男、似鳥尚右染。その先を見据えたような見透かす目は確かに娘の雪姫とよく似ていた。雷隠神社において、予知や予言を担うもので八巫女七席の洲桃血鳴を預かっている。


「僕は負人煌魔の伊沼藤吉郎。雪白煉夜君とは初めましてというべきか久しぶりというべきか」


 煉夜とは白原真鈴として出会っているが、煉夜のことは後に雪姫から簡単に説明を受けたので、あの時の真鈴は煉夜であったことは知っている。煉夜は微妙そうな顔をしていたが、ペコリと頭を下げた。藤吉郎は雷隠神社において探知を担っており八巫女次席の余次梨音と八巫女四席の有深金戸を預かっている。


「ほう、藤吉郎の方が先に面識を持っておったのか。儂は空前末由。詩人統者などとも呼ばれておる。雪白家とは木連坊の面倒を見てやったことがあって以来の付き合いでな、分家のお前さんとも一度会おうと思っていたんだ」


 むろん、既に面識のある水姫は彼のことを知っている。末由としても春の一件以前から、分家の方にいるという煉夜と会いたいと思っていたのは事実である。末由は雷隠神社において祓いを担っており、八巫女六席の空賀麻吉と八巫女八席の近衛環文を預かっている。


「俺は咎人悪煮の瑠原矩晃だ。唄涙鷲が世話になったみたいだな」


 最後に挨拶したのが矩晃。神社関係者とは思えない服の上からでも分かる筋肉が特徴的な男性だ。雷隠神社においては神格を担い、八巫女三席だった唄涙鷲美鳥と八巫女五席の瑠原弐雷を預かる。

 四大天の自己紹介が終わったところで、次は八巫女の紹介になるのだが、筆頭である雪姫は当然ながら紹介の必要が無いので、次席の梨音へと視線が向く。


「雷隠神社が八巫女、次席を賜っております余次梨音です」


 ペコリと頭を下げる梨音。彼女は探知を担う藤吉郎を預かっているだけあって、高位の「水縁探知」を持っている。次いで挨拶するのは、三席の美鳥を飛ばして四席の女性だ。


「雷隠神社八巫女の四席、有深(あるみ)金戸(かなこ)ですわ」


 若干態度が高慢そうな彼女は有深金戸。自身の名前に若干のコンプレックスを持っている。彼女もまた、藤吉郎の預かりであるため彼女も感知系の能力者である。梨音のような「水縁探知」ではなく、固有技能の「心深遊界(しんしんゆうかい)」という力だ。元々は心話やテレパシーの類に近い能力であるのだが、その関係上、探知につながっているというだけである。範囲はさほど広くなく、せいぜい長野県全域が限界と、梨音と比べればかなり狭いが、相手に心の声を届けるという能力が付加されるのでそういった差もあるのだろう。


「んー、あ、八巫女五席の瑠原(るばら)弐雷(にらい)です。四大天、瑠原矩晃の娘です」


 どこかのんびりしていて、黒髪を雑にまとめた彼女は矩晃の娘である弐雷。体格は小柄で下手すれば水姫たちよりもだいぶ年下に見えるが実は梨音と同い年である。「弐」という数字を冠する名前であるが次女ではなく、「弐雷」は「ニライカナイ」から取られたもの。ニライカナイは沖縄や鹿児島県などの地域に伝わる信仰の一種で死者の魂がたどり着く地、根之堅洲國(ねのかたすのくに)などとも同一視される概念。

 矩晃が神格を担うように、彼女も美鳥同様に「神格系」に類される技能を持つが、彼女の場合はどちらかというとイタコなどの類に近い死者との接続する力の延長上であり、「神降ろし」や「神憑り」と呼ばれる「神格自己付与術式」だ。


「八巫女六席を拝命してます。空賀(くうが)麻吉(まよし)です!」


 順番的に弐雷に継いだのは六席の麻吉である。空前末由が近衛環文と共に預かっているだけあり、「祓い」の才を持つ巫女というよりは陰陽師に近い存在だ。しかし煉夜が以前にやったような直接的な祓い方ではなく、祈り浄化する祈祷やお祓いの類を得意とする巫女らしいと言えば巫女らしい存在だ。


「は、八巫女八席、近衛(このえ)環文(わあや)です。よろしくお願いいたします」


 最後、この場に不在の血鳴を飛ばして八席の環文が挨拶をした。環文は以前、末由に連れられて雪白家を訪れていたように、末由預かりの巫女である。しかしながら、その大元は近衛家であり、梨音と同じく雷隠神社以外の神社からの預かりという形だ。六歌扇の近衛(このえ)由衣菜(ゆいな)などもそうであるが、「国鎮め」に関わる者であり、由衣菜が扇舞による「国鎮め」の見立て舞であるならば、環文はもっと直接的な「鎮静化」であろう。その能力の一端が祓いに通じているというだけに過ぎない。


「八巫女七席の洲桃君は今、休暇中というか休養中だからここにはいない」


 すでに分かっていたが、血鳴は休養中だから不在ということらしい。もっとも、部屋にはいるのだろうが、今は出てくるような気配はない。


「部屋は用意してあるからそちらで休むといい。儂らも事情を正確に把握しているわけではないが、木連坊のところの水姫ちゃんとうちの筆頭、三席が狙われているのだろう?」


 末由が、というよりは尚右染が予知して知り得たことを話したものだが、それを総括して言う。美鳥は「元です、元」と心の中で思ったものの口には出さなかった。そこで「席は残っている」だの「でも辞めた」だのの逸れた話になっては面倒なだけだからだ。


「ええ。新潟の一夏宮家に狙われています。避難というよりは迎え撃つつもりですが」


 流石に、この八巫女がいる状況で「御柱の聖地」で戦う許可をもらいに来た、と言って、一から御柱の聖地の成り立ちを再び解説するのは面倒であり、その部分は雪姫も伏せた。


「一夏宮……『花月森』の一族か。僕も少しは聞いたことがあるけれど、相手にするとなると面倒だろう」


 藤吉郎は真田家と言い、あちこちに伝手を持っているため、その経緯で聞いたことがあったが、それほど詳しいというわけではないし、直接交流があるわけでもない。それでも面倒な相手というのは分かった。


「面倒ではあるでしょうし、絡め手を使ってくる相手ですから色々と危険も多いでしょうが、神社や参拝客の方々には被害が及ばぬように最大限配慮します」


 煉夜は一応、敬語でそのように答えた。正直な話、被害や人目を気にしないのであれば、煉夜も裕華もいくらでも対応はできるが、それらを気にするのであればこその「御柱の聖地」なのだ。だから、この答えは「だから『御柱の聖地』を借りるぞ」という言外の圧に過ぎない。


「まあ、その面倒な相手がいつ来るかはわかりませんし、狭いところではありますが、しばらくはこの神社で生活をしてください」


 と、雪姫が言う。それに対して、「確かに狭い」と思ったのは裕華である。もっとも、それは彼女の比較対象がおかしいからなのだが。


「そうですな、そちらの市原の方には、この雷隠神社が狭い……規模が小さいと感じるのも無理はないでしょう」


 非常に微妙な顔で藤吉郎が言い、それに対して、裕華が顔を逸らした。当然ながら、神社関係者にも裕華やその父の名前はとどろいているが、どちらかというそれとは関係ない理由での話だろう。


「市原……、そうか立原神社ゆかりの市原家か。ならばそう感じるのも仕方あるまい。あの家はそれこそ雷隠神社とは比べ物にならないくらいの規模だからな」


 納得したような末由の言葉。市原家の先祖、辰祓より転じた立原家。そこから一を祓うに分かれ、市原家が生まれた。それゆえに、今でも薄れてはいるが市原家と立原家は交流がある。特に裕華は父方の曾祖母が立原家の人間ということもあり《チーム三鷹丘》としてのかかわりも深い。この日本における三大神社である九浄天神神社、立原神社、天月神社を考えるならば、雷隠神社など小さいほうである。

 なお、ここでの天月神社は、梨音の元々居た九浄天神系列の天月神社とは微妙に異なる神社であるが、現代ではほとんどその住み分けも無くなっている。


「市原家に雪白家、どちらもその祖は神社やそこに関係する家というのが偶然なのか否か……」


 市原家は先のような系譜であり、雪白家も舞事の名門、四木宗の柊家。神社に奉納することがあるという意味では神社関係と言えなくもない。

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