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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
陰陽大動編
322/370

322話:雷を隠した神社

 木連たちに、今回の件における「雷隠神社の『御柱の聖地』で敵を迎え撃つ」ということに至る経緯を簡単に、一部を省いて説明し、裕華、煉夜、水姫、雪姫、美鳥、静萌の6人で雷隠神社に向かうことになった。もっとも、水姫は静萌の存在を知らないので、5人だと思っているが。


 ちなみに信姫は最初から候補に入ってなかったが、彼女自身もいくつもりはなかったようで、特に異論はなかった。と、言うよりも山梨県を中心に活動する信姫と長野県を中心に活動する雷隠神社は、本拠地が近すぎるため自分から距離を取ったのだろう。

 小柴に関しても今回は出る幕がないと、本業の方に戻っている。







 そういった経緯があって6人は、雷隠神社へとたどり着く。長野県の北部、戸隠山を中心とした新潟県との境にかかる連山の中に、その神社はあった。山下までの道路は完備されており、駐車場等も存在しているが、参拝するには長い階段を昇る必要があり、多少整備されているとはいえ、木々が生い茂り、暗い山中を長時間昇るのは、かなり体力がいる。


 それでも近年の御朱印集めブームの再来やパワースポット巡りなどにより参拝客数はそれなりにあり、煉夜たちが訪れたこの日も、煉夜たちのように複数人で階段を昇る家族連れや友人知人のグループなどはそれなりに見かけた。

 6人の中には、体力的に苦労するようなものもおらず、ほとんど止まることなく階段を順調に昇ることができたために、他の参拝客の半分くらいの時間で境内までたどり着く。


「美鳥さん、ここまで来てもまだ躊躇っているんですか?」


 境内に着いた6人であったが、美鳥だけは浮かない表情をしていた。疲れているというわけではなく、勝手に辞めて飛び出した手前、帰ってきたことが心苦しいというか、できれば深く関わりたくはないのだろう。それでも来たのは、それが必要なことだと分かっていたからだ。


「いえ、その、やっぱり奥に入らないでそのまま『御柱の聖地』に向かったらダメ……ですかね、ダメ……ですよね」


 一度、「ダメですかね」と尋ねておきながら、即「ダメですよね」と結論に至っているのは、雪姫の顔を見て、返事の前に察しがついたからだ。


「あれだけ面倒を見てくれて、かつ心配していた梨音さんに挨拶もなしだなんて不義理にもほどがあるでしょう。これは巫女として以前の人間としての問題ですよ」


 巫女らしくとかそれ以前に、人としての常識の話である、と雪姫が言うのに対して、美鳥は正しいと思ったのか渋々うなずいた。


 そして、雪姫に連れられて、一行は、社務所から続く敷地の奥へと進んでいく。途中、一般人が立ち入らないようにしている柵を越え、その奥にある人払いの結界に常駐する巫女に雪姫が話し、巫女や神社関係者たちが暮らす建物の方へ向かう。

 建物は簡素なもので、結界と偽装により隠蔽されている。基本的に四大天や八巫女は、外回りや祈祷、巫女たちの指導をしていないときは、この建物に在中している。もっとも、在中しているとはいえ、休んでいるわけではなく、仕事として書類仕事や道具の整備などをしていることが多い。


「今日は血鳴(ちめい)さんは分かりませんけど、他は全員、こちらの建物にいるはずですし、とりあえず今日はこちらに泊まっていただきますので」


 相手を迎え撃つと言っても、ずっと「御柱の聖地」にいるわけにもいかない。そうなると、滞在するのはどうしてもここになる。少なくとも、今日においては、ここに泊まる他ないだろう。幸い、客用の部屋も存在する。


洲桃(すとう)先輩なら、昔と変わっていないならこの時期は休暇取って部屋に籠っているんじゃないですか?」


 美鳥はそこまで関わりがなかったが、それでもそれなりに八巫女同士の習慣などは聞いていたので、それが変わっていないなら、そのはずであると。


「まあ、そうですけど、彼女の場合、部屋にいないこともありますから」


 そもそも休暇を取っているとは言っても、それにも理由があるので、その辺りは別に責めているとかそういうわけではないし、休暇中ということで行動を完全に把握しているわけではないからいるかどうかは定かではないというだけの話だ。


「ん、誰か猛スピードで突っ込んでくるぞ」


 煉夜が知覚したその気配に、美鳥が全力で逃げようとして、その背中に思いっきり突撃する人影があった。一応、敵意がないというか、雪姫も気づいていたのにスルーしていたようなので止めはしなかった。


「美鳥ちゃん!」


 背中に激突し、そのまま地面で胸を強打した美鳥は痛みにのたうち回りたかったが、がっちりと掴まれてもがくことしかできなかった。


「梨音さん、はしたないですよ?」


 美鳥に抱きついたのは、八巫女次席である余次(あまつぎ)梨音(りおん)。美鳥が八巫女にいた頃、面倒を見てくれていた女性で、四大天の中では負人煌魔の伊沼藤吉郎に四席と共に預けられている。


「うっ、申し訳ないです。でも、美鳥ちゃんが……」


 美鳥を「ちゃん」付けで呼んでいる彼女は、美鳥と雪姫よりも年上で、後輩として入ってきた美鳥を妹のように可愛がっていたので、このテンションも仕方がないのかもしれない、と思いつつも、流石に行き過ぎていると思ったのか雪姫はため息をついた。


「お、お久しぶりです……。ずいぶんと心配をかけたみたいで……」


 未だに梨音に押しつぶされて地面に突っ伏している美鳥であるが、絞り出すような声で梨音に声をかけた。


「もう、美鳥ちゃんってばいきなり出て行っちゃうんだから」


 梨音は、美鳥や水姫達と比べて、豊満というか肉付きがいいというか、それでも決して太っているというわけでもない女性らしい体つきをした女性である。

 黒い髪を大きく三つ編みのおさげにした髪型に、金色の瞳が特徴的な彼女であるが、元々は別の神社の巫女系列であったが、この雷隠神社に出向という形でやってきたまま居ついたという経緯がある。

 元々は「あまつぎ」から分かるように天月(あまつき)神社の分家系列の人間である。九浄天神の系列となる天月神社の天月家の分家と言えば雨月家であるが、その派生に「雨次家」が生まれ、それが転じて「余次家」となった。そのため、神社関係の一族の出ではあるのだが。


「しかし、八巫女というのはこういうのばかりか……」


 という小さな煉夜のつぶやきは、この梨音の行動を指してのものではなく、梨音の能力を指してのことである。


「基本的には皆さん、それなりに変わった能力を持っていますからね。わたしが言えた義理ではないですけど」


 煉夜の発言の意図を理解していた雪姫がそのように補足した。多少は特異な力を持っていないと八巫女に選ばれないので当然と言えば当然なのかもしれない。

 八巫女は、それぞれの分野で抜きんでた才覚を持っていた巫女が選ばれたり、そうした巫女を他所から引き抜いたりして集められている。その関係上、大なり小なり突出した才能を持っている。

 梨音は、高位の「水縁探知」という能力がある。「水縁探知」とは、一般的には小柴のような自然系探知の下位互換のような存在であるが、「高位の」という言葉が付くように、一般的な「水縁探知」とは異なる。そもそも、美鳥の「神格付与術式・改」が「神格付与術式」とは異なるように、八巫女の能力は、普通の規格からはみ出ている。

 通常の「水縁探知」が水を使った探知で、水中の敵などに対して、その探知を行うものであるのだが、梨音の場合は空気中の水分、地中の水分なども使って探知が行え、その範囲は伝搬速度にもよるが煉夜と同等か場合によってはそれ以上である。


「梨音さん、八巫女は全員揃っていますか?」


 いつまでも美鳥に抱きついたままの梨音に向かって、もはや止めるのはあきらめて、そのように声をかけた。


「あ、はい。血鳴ちゃんは部屋にいると思いますけど、それ以外はみんな揃っていますよ」


 洲桃血鳴は八巫女七席に位置し、秘人竜堕の似鳥尚右染の預かりとなっている。雪姫が高い予言、予知の才を持っているように、似鳥尚右染は予知、神託に関する才を持つ人材を預かっており、全員の預かりである雪姫を除けば、八巫女の中で尚右染の預かりは血鳴のみである。

 また、彼女は高い信仰力、あるいは神交力を持ち、神との対話による神託や予知、予言を行えるが、代償に高い集中力が必要になるため、定期的な神託を行い、それ以外の期間は休暇をもらって休んで、集中力や対話に必要な気力を蓄えている。

 そのため、今は休暇中なので表に出てこないだろうが、実は美鳥と仲が良かったので顔見せくらいはするかもしれない、と雪姫は考えていた。


「四大天の方々も今日はそろっておられますし、似鳥様……尚右染様は、皆さんが来ることを把握しておられて部屋などもすでに準備が整っておりますよ」


 普段、「似鳥様」と呼んでいる尚右染を「尚右染様」と言い直したのは、同じ姓の雪姫を考慮してのことだろう。


「流石ですね。

 さあ、行きましょうか。八巫女や四大天の方々を紹介しますので」


 正確に言うなら、紹介される方なのであろうが、一応、客と考えての発言なのだろう。やっと解放されると思った美鳥であったが、結局、梨音に抱えられたままであった。

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