表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白雪の陰陽師  作者: 桃姫
陰陽大動編
320/370

320話:予期された狙い

 英国組……、美鳥が煉夜たちに合流したのは、情報確認のためと、行動を共にして、敵を分散させないためである。煉夜と裕華、リズ、小柴が揃っている以上、敵が変に分散して捉えにくくするより、一点に集めて、魔法や陰陽術でつぶした方が効果的である。2人ずつで交代しながら襲撃に備えれば、十分に休めるため、合流したのはかなり大きいだろう。


「今回は、アタシが狙われているって話だけど具体的に、どこの誰が何の目的で狙っているのか分かってるの?」


 そのように美鳥が話を切り出した。それに対して答えたのは煉夜である。今わかっていることを簡単にまとめるように言う。


「現状、狙われているのはスゥ……雪姫、美鳥、そして当家の水姫様の三人。狙っているのは一夏宮家という『見えないものを見通す力』を持った一族で、目的は雪姫の神託による未来を知ること、美鳥の力で雪姫の力を自身に付与すること、最後の一人、水姫様に関しては分かってない」


 ざっくりとした説明ではあるが、その話からおおよそのことを理解する。だが、そうなると、最後の水姫が狙われる理由だけが不透明なのが疑問として残る。


「見えないもの、未来と来たら、後は過去でも見通せれば最強だから狙いはその辺じゃないの?」


 狙われている2人を見れば、一夏宮家の狙いは、自身の「見えないものを見通す」という力をさらに利用するために「未来」というものを見る力を得ようとしているように見える。であるならば、最後の水姫が狙われている理由もそういった系統になるのは容易に予想がつく。


「過去視か……。しかし本人に聞いても、その類の力は持っていないと言っていたし、かといって舞のことで狙うにしては水姫様をピンポイントで狙う理由が薄い」


 本人が自覚していないだけかと思って、煉夜は一応、「カーマルの恩恵」でも確認したが、そういった技能を、水姫が現在持っていないのは確認済みである。


「ですが、その3人が狙われているというのは、予言等で明らかになったことで、余程のことがない限りは間違いではないということですよね」


 現状把握に努めるリズが、そのように問いかける。それに対して煉夜が「ああ、スゥの予知だから間違いないと思う」と答えた。


「雪姫様の神託が外れたというのは聞いたことがないわ。アタシもこれに関しては、間違いなくその3人が狙われていると考えていいと思う」


 八巫女としてあこがれていたからというのもあるが、四大天が認めた稀代の天才であり、その神託、予言の類で外したことを見たことない雪姫の言葉なのだから、美鳥としても狙われているのが自身と他2人であるのは間違いないと判断した。


「まあ、狙われているのが誰かってのが分かってるのはありがたいことじゃないの。理由はともあれ、それを守るだけで済むのよ」


 楽天的に信姫が言ったが、ある意味それは正しいのかもしれない。相手の狙いが分からないならばともかく、理由は分からずとも狙いは分かるのだったら、何も分からないよりは随分マシと言えるだろう。


「まあ、いざとなれば返り討ちにしてから直接聞けばいい話だし。

 それよりも、ここから相手がどう動くかの方が考えるべきかもね」


 裕華の視線は静萌の方へと向けられていた。もっとも、裕華からは彼女の姿が見えていないので、あくまで気配の方向を見ているだけで、視線が合っているわけではない。


「静萌、忍足家はどう動くか分かるか?」


 煉夜の言葉に、完全に興味なさげに部屋のあちこちを物色というか暇つぶしできそうなものがないか探していた静萌が「うぇ?」と奇怪な言葉と共に煉夜の方を振り返り、言う。


「さあ、とりあえず(わたし)から声がかからないということは手間取っているか、失敗したと判断するでしょうから、そうなると本人が直々に動くかもしれませんね。

 もとより他の家とか、他の忍びなんて信用していない方ですし、かといって籠城戦とかそういう類はあまり得意な方ではないですし」


 本来、忍者であれば、自陣での籠城戦が苦手なはずはない。なぜならば、地の利が段違いだからだ。隠し戸や罠の類もあらかじめ仕掛けておける上に、敵の動きもある程度決まってくるのでこれほど読みやすい戦もない。

 だが、それはあくまで自陣で、罠や隠し戸を設置できる環境であるならば、である。今、忍足家がいるのは、一夏宮家であり、かつ、様々な流派の忍びが闊歩する環境だ。そのような場所で自由に罠など設置できるはずもない。同士討ちが日常的に起きてしまうだろう。もっとも、彼らからすれば「引っかかる方が悪い」としか思わないし、別の流派の忍びを「同士」とも思っていないだろうが。


「忍足やぶめが直々に動く、となると、一夏宮家の方はどうなんだ。家にとどまるのか?」


 あくまで、静萌の声は煉夜にしか聞こえていないので、他の面々はどういう会話が行われているのかは、煉夜の言葉から察するしかない。


「そうですね。普通ならばそうかもしれませんが、今回はもしかしたらあの人も動くかもしれませんね」


 少し考えるように間を置きながら、それでもあっさりとその結論を出した。それに対して、「なぜ」という感情をひしと込めた煉夜の視線が突き刺さり、「えと……」と苦笑いしながら彼女は言葉を続けた。


「よくは知らないですけど、『花月森』というのは、大抵のことを見通せるので、本来ならば、こんなにも苦戦しているはずがない、というか(わたし)が動くような事態になるはずがないんですよね」


 それはそうだろう。戦況を見通すことができるということは、どうすれば勝てるのかが分かるということである。多少の誤差は生じても、イレギュラーである静萌が介入するようなことがなく、最適解を出すことができていたわけだ。

 だが、今回は違う。すでに襲撃は失敗している。それのうちのいくらかは予定通りだったのかもしれないが、夜巫女に対して静萌が「動きましょうか?」と問いかけて、「行くように」という命令が下った以上、一夏宮家が「見通せていない何か」があることは間違いない。


「だから、もしかしたら『見通せない何か』を直接見通すために、本人が自ら動く可能性はあると思いますよ。もっとも、あの方とはほとんど面識がないというか、よく知らないので本当にそうなるかはわかりませんが」


 そもそも見えもしない、しゃべれもしない相手に面識も何もないので、当然と言えば当然であるが。


「なるほどな。そう考えると、早めにこちらも準備を整えないといけないか」


 静萌からの情報を元に、どう動くべきか、というのを考える煉夜。もちろん、その情報が嘘という可能性も考慮して複数の方向で考えている。だが、考え始める煉夜に対して、周囲の視線は何とも言えないものだった。


「ん、ああ、そうか。えと、忍足家と一夏宮家、どちらも直々に動くかもしれない、っていう話だ。どうにも、向こうも向こうでこちらに『見通せていない何か』がある可能性があるから、それを直接見抜くために出向くかもしれない、と」


 情報の伝達がスムーズにいかないので、そこに面倒臭さを覚えながらも、静萌から聞いた情報を大雑把に伝えた。


「動く、と言っても正面から挑んでくるわけではないでしょうし、場を整えるというか、相手を迎え撃つためのフィールド作りが必要よね。特に忍者相手に何かを守り抜くような戦闘をするならね」


 相手の目的は、水姫、雪姫、美鳥の3人であり、戦闘することではない。ならば、どうにかこうにか防衛網を抜けて、その3人を攫えばいいのである。一方、守る側は、忍者相手にそれをされないようにしなくてはならない。だからこそ、地の利を最大に生かせるように整える必要がある、と裕華は言うのだ。


「分かっている。この場合、どこで迎え撃つか、というのも大きく戦況に関わるからな。それこそ死角が多い空間で戦おうものなら、足元を掬われかねん」


 戦う場所を考えようにも、人工物の多い街中は論外にして、そういった時に選ぶ人気のない山地や信姫と戦おうとしたときのような広い公園などは、そういった意味ではあまり適していないだろう。


「『御柱の聖地』ならそういった問題が解決できそうですけど大丈夫ですかね、雪姫様」


 美鳥の問いかけに対して、雪姫は若干困った顔をしたが、それでも、美鳥の意見が正しいと思い、どうにかしようと決めた。


「ええ、色々と問題はあるでしょうが、少なくとも死角や奇襲に対するものとは無縁の場所でしょう」


 この場合の色々と問題があるというのは、戦う意味での問題ではなく、その場所に行くという意味での問題であり、戦う場としての価値に関しては、雪姫も一切の問題を感じていない。


「聖地なんていう場所で戦ってもいいのか?」


 聖地と称するからには、神聖な土地として崇められているはずである。そのような場所で戦うなど、冒涜だと罵られてもおかしくないような暴挙である。しかも、美鳥が雪姫に聞いたということは、雷隠神社の系列の聖地になるはずだ。そこで戦う許可など通常降りないだろう。


「そうですね、普通ならば無理でしょう。ですが、あの聖地は少々事情がありまして」


 どのような事情があっても、普通は部外者などが入れる場所ではないのが聖地なのだが、そういった通常のこととは異なる事情があるようだ。


「事情……?」


 と疑問を口にしたのは、煉夜でもリズや他の面々でもなく、雪姫の次にその場所に詳しいはずの美鳥である。


「はい、事情です。まあ、そのことは四大天とわたししか知らないので美鳥さんが分からないのも無理はありません」


 四大天と雪姫しか知らない、それを分かりやすく言い直すと、雷隠神社のトップしか知らないということである。


「実は『御柱の聖地』は聖地でも何でもないただの土地なのです」


 あっけらかんとそのトップシークレットを明かした雪姫。ただ、これに関しては、現役の八巫女ならばともかく、既に八巫女とは決別の意思を固めている美鳥と雷隠神社にとっての部外者だけである。だからこそ、簡単に言ってしまえたのだろう。


「えっ、でも、あの地はかつて落雷があって、それによって焼けた御柱に燈った火が未だに消えず、絶えることなく燃え続けている御神体の出来た地だと矩晃様が……」


 雷隠神社の御神体、火加立神(ほのかたつものかみ)を祀るその火にまつわる伝承が事実と異なるなど、美鳥は考えたこともなかった。だからこそ、あの地が「御柱の聖地」だと呼ばれているのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ