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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
陰陽見確編
309/370

309話:見確めの儀・其ノ漆「下位戦」

 見確めの儀における最初の儀式、本戦第一戦は終了した。それにより、儀式において敗れたものが4人いる。それに本戦に加わらなかった3人を加えた7人で順位決めを含めた儀式を行うことになる。本戦第二戦は、その儀式によって下位の順位が決まった後に行われることになる。


 本来ならば、第一戦の通りで勝ち上がりと負け下がりが同じ組の扱いで、煉夜に負けた姫毬と月姫に負けた八千代の儀式と信姫に負けた水姫と裕華に負けた姫丹の儀式の2回を行うはずだったが、群助、七雲、火邑の3人を加えるために、下のグループは変則の組み合わせになり、姫毬と群助、水姫、姫丹と七雲、火邑と八千代という別れ方となった。水姫に関しては、相手無し……つまりシードのような扱いである。






 特に波乱らしい波乱もなく、下グループの儀式では、姫毬と群助の儀式で姫毬が勝ち上がり、姫丹と七雲の儀式では当然ながら姫丹が勝ち上がり、火邑と八千代の儀式では八千代が勝ち上がった。

 そもそもに勝ち上がった面々は本戦に出ていた者たちであり、本戦で戦えるレベルではないと「猫又弥勒」に断定された群助、七雲、火邑たちでは、奇跡のような番狂わせでもなければ、勝つことはなかっただろう。

 そして、敗者の儀式における第二戦は、姫毬と水姫、姫丹と八千代の儀式であった。


 姫毬と水姫の儀式では、姫毬は水姫の得意とする《水》に相剋関係の《土》系統の札を扱えるが、《落葉》によって2対1の状況を強いられる中で、陰陽術という分野で戦うには厳しく、水姫に軍配が上がった。


 姫丹と八千代の儀式では、八千代の術がすでに本戦で公になっていたこと、本戦に続きまたしても冥院寺の《滅》が相手であったこともあり、ほとんどの手立てを潰された挙句に《光》の陰陽術で目くらましをされたところに一撃が行き、姫丹の勝利。


 下グループにおける3位決定の儀式、つまり本戦を含めたところで言う7位決定の儀式として八千代と姫毬が儀式を行い、均衡した戦いであったものの、目くらましという姫丹に使われた手を真似し、火で目くらましをして隙を付く方法によりギリギリの勝利を掴んだ。


 7位は八千代に決まったが、8位はさらに下のグループである群助、七雲、火邑の中の勝者と戦い正式に決定する。


 そして、姫丹と水姫による下グループの決勝、つまるところの5位決定の儀式が行われて、ここでも大した番狂わせはなく、術を《滅》するという、典型的陰陽師タイプである水姫の天敵である姫丹が相手であったこともあり、《落葉》は早々に還され、大きな術を使う隙を作れずに、小技は全て姫丹が《滅》で無力化して、《光》の術を防ぎきれず、姫丹が5位に決定した。


 この時点で、暫定5番目が姫丹で、6番目が水姫、7番目が八千代ということが確定したのである。





 下の下のグループである群助、火邑、七雲であるが、群助がシード枠で、火邑と七雲の儀式。この儀式だけは、ちょっとした騒動になった。七雲の式神である《七種》が暴走しかけ、それをあろうことか火邑が止めたのである。その一部始終を見ることができたのは、「猫又弥勒」と煉夜、小柴くらいであっただろう。《七種》の暴走しかけの余波で、それどころではなかったものが大半であった。その中で、火邑は魔法(・・)でそれを止めた。

 そう、魔法である。そもそも儀式的には魔法の使用は反則行為だが、暴走を止めるためには仕方がないことであろう。しかし、それ以前に、まず火邑が魔法を使えるという事実からしておかしいことである。見ていた煉夜からしてみれば、火邑の方も暴走に近い状態で無理やり衝突させたという状況であるようにも見えた。結果として、七雲と火邑は引き分けだが、火邑は魔法使用のこともあり、七雲を勝者として扱い、火邑が最下となり、群助は誰とも戦わずに下の下のグループの決勝、つまり本戦を含めた所である8位決定戦に挑むことになる。


 八千代と群助の戦いであったが、そもそも【我流】の支蔵家は陰陽術をそう得意としておらず、武術や剣術などにも力を入れている家である。特に才能の無いことを自覚している群助は、陰陽術には力を入れずに、それを補う形での自分を鍛えるという意味でも武術や剣術の鍛錬を欠かさず行っていた。


 だが、こと陰陽術を競う儀式となっては、群助は圧倒的不利であった。肉体強化などのことをできないでもないが、攻撃系の術となると、群助のレパートリーは乏しく、《木》が少し使える程度である。

 肉体強化は、強化する部分にもよるが、群助の使う筋力などを強化するものは、大きな分類上は《木》に属している。五行外として分類される肉体強化もあるが、少なくとも群助の使うものは、この《木》に分類されるものだ。《視》も符や発動体、術式や形式にもよるが《木》に分類されるものもある。


 群助は、動きで翻弄して、八千代に大きい術を出させないようにしていたが、ほとんど術を使わない群助相手には、大きな術を使うまでもなく、《火》の札で少し誘導して、止めを決めて八千代の勝利に終わった。


 これで8番目の八千代、9番目群助、10番目七雲、11番目火邑が決まり、残すところは、本戦第二戦の煉夜と月姫、信姫と裕華の儀式とその勝者同士の決勝、敗者同士の3位決定儀式と3位決定での敗者と暫定5位の姫丹による4位決定儀式のみである。







「レンヤ君は、火邑ちゃんのアレ、どういうことだと思う?」


 本戦第二戦まで、まだ少し時間がある状況で、小柴は、煉夜にそのように問いかけた。アレというのは無論、七雲の式神である八尾の狐を止めた、半ば暴走のような状態での火邑の魔法のことである。


「どう、って言われてもな。正直、驚いているってのが感想だ。魔力に蓋がしてあるわけでもなさそうだったから、そこまで魔力がないのは俺が今まで見ていた通りのはずなんだがなあ、それであんな魔法は使えないだろうし、どうなっているんだありゃあ」


 肩をすくめる煉夜であるが、それはごまかしているとかではなく本当に分からない、といった様子であった。


「まあレンヤ君が魔法を使えるから、火邑ちゃんにその素質があるのはおかしくないとも思うけど、ほぼゼロの魔力であれだけ大規模な氷結魔法を使えるなんてありえないしね」


「あれは氷結系とも違う、なんていうか……よく分からない魔法だったけどな」


 煉夜の見る限りでは、魔法というよりは魔力を放ったものに近いが、それにしては、確かに氷雪系の魔法の様でもあった。そして、放った魔力に対して結果が見合っていない以上は、何らかの魔法による絡繰りがあるはずであるので、本当に魔力を放っただけ、というわけではないはずである。


「なんというか、……魔力そのものが雪に変質していたかのような。それこそ前に言っていた魔力変換資質とかいうのに『雪』なんてのがあるのかは知らないが、本人の魔力そのものがそういう性質であるかのようだったがな」


 ゴールデンウィークの頃の紅条千奈を中心とした事件において、【緑園の魔女】の魔力変換資質が「自然」であるといっていたように、魔力そのものが生来、そのように変質する性質を持つ者のいないではない。だが、


「うーん、魔力変換資質が『雪』っていうのは聞いたことないかな。『氷』なら有名な人が何人かいるけど」


 魔力変換資質は、それ自体が稀有な素質であるが、その中でも性質ごとにいくつかに分類され、ほとんどその性質を有するものがいないものも存在するとされる。

 分類上、属性そのものに変質する「火」、「雷」、「風」、「氷」、「自然」のような魔力変換資質、【緑園の魔女】や風塵楓和菜などがこれに該当する存在である。

 分類上、効果そのものに変質する「熱」、「破壊」、「停止」のような魔力変換資質、これは本当に稀有である。

 分類上、属性と効果を併せ持つ「炎熱」、「氷結」、「風化」のような魔力変換資質、これは効果そのものに変質する資質を持つと大抵属性の変質も有し、こちらの分類となる。そのため効果そのものに変質する魔力変換資質が稀なのである。

 これらの魔力変換資質に実際のところ明確な優劣はなく、どの魔力変換資質だと強いというものは存在しない。「火」、「熱」、「炎熱」のどれをとっても明確な差異があり、それぞれに利点がある上、それらを選んで生まれることなどできない。

 そして、【緑園の魔女】も特に魔力変換資質の全てを理解しているというわけではないが、それでも「雪」という魔力変換資質は聞いたことがなかった。


「まあ、火邑に関しては本人が起きてから聞くなり調べるなりすればいいだろう」


 火邑当人に聞いたところで答えが返ってくるとは限らないが、まあ、どうにか調べることができるだろうと思っていた。


「そうかな……。まあ、レンヤ君がそれでいいなら、それでいいのかもしれないけど。

 それで、話は変わるけど、次の儀式、相手は冥院寺家の月姫さんね。《滅》相手にどう立ち回るつもり?」


 次の儀式の相手、冥院寺月姫は八千代との儀式を見ていても分かるように、術を《滅》するのを基本スタイルとしている。初めて煉夜と月姫があったときにも煉夜の《水》を《滅》でいなしていたことからも、彼女のスタイルの根幹には《滅》があるのだろう。


「まあ、一応、手は考えている。効くかどうかは試してみないと分からないし、効いたころで苦戦はするだろうがな」


 冥院寺姉妹の儀式をあれだけ見ていれば、いくつか攻略方法も思いつく。だが、それが実際に効くかどうかは、また別の話である。それに、冥院寺家も自身の得意とする《滅》に対して対策がなされたときに、どうにかできるように何らかの手段は持っているだろう。


「魔法の無力化(レジスト)の使い手は厄介とはいえ、手段は無数にあるからね。ましてやカウンタータイプの無力化(レジスト)だもの。それはそうか」


 魔法の無力化といえば、魔力制御、操作を封じる白黒魔女迷宮絡繰の八重曼荼羅式封印術式などのような空間に作用するものや魔法を使えないように呪いをかけるもの、そして冥院寺姉妹のように相手の攻撃が飛んできたものを消すカウンタータイプのものなどいくつか手段がある。


「陰陽術だからな、魔法と全く同じとは言わないが、それでも、まあ、向こうで無力化特化の相手に対して魔法で戦うことを強いられたことがあったからな」


 本来、騎士、剣士、あるいは戦士と表現するべきところであろう煉夜なので、魔法を封じられても、剣で戦うという選択肢を取れるのだが、【創生の魔女】は、どういうことが起こるか分からないのが世の常だから、とそういった特殊環境での実践も何度か受けている。


「とりあえず、どうとでもやって見せるさ。ま、問題は、勝ったその後だろうけどな……」

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